シナリオ詳細
食材ちゃんの狩り遊び
オープニング
●食材ちゃんは遊びたい
血のにおいが満ちていた。
幻想の西方、人口百人程度の平和な集落。並ぶ民家はかやぶき屋根、あちらこちらに農具や収穫物をいれておく小屋と、畑が見える。
そこに今、血の海ができていた。
素朴な美しさがあった集落には、凄惨な死体が転がる。クチャクチャとそれを咀嚼し、血を啜る音が妙に大きく響く。
畑は踏み荒らされ、草木には赤黒い斑が散り、家々は半壊したり廃材の山になったりしていた。
「つまんない」
老夫婦が住んでいた家の屋根に座り、少女はひとり、ため息を吐く。
眼下では少女が率いているグールの群れの一匹が、子どもの肉を食らっていた。おなかの肉って美味しいよね、子どもならまだ柔らかいし、想像だけど、と退屈しのぎに考える。
十五歳ほどに見える少女の唇から、またため息。矢筒を確認。ほとんど打っていないため、まだ十分に矢が残っている。
愛用の弓をそっと撫でた。
「つまんないー!」
叫びにグールたちが顔を上げて、また食事に戻る。
少女は狩りが好きだった。人を狩り殺して、いつか狩られることを夢見ている。そして食われるのだ。
食材としての適正を持つ彼女は、獣のように狩り、獣のように狩られ、食われたい。
しかし、村と集落を計三つ滅ぼした程度では、彼女と、人の肉を食えると知って勝手についてきたグールたちを狩ってくれる者と巡りあえなかった。
「また狩らなきゃ……。ワタシ、狩られたいのに……」
ぐすん。
落ちこむ彼女にグールがはらわたを投げてきた。屋根に乗ったとれたてほやほやのそれを、爪先で蹴り落とす。少女に人喰いの趣味はない。
「……あ、いいこと思いついた」
ニィ、と少女は邪悪に笑った。
●食材適正の食材ちゃん
「食材ちゃんの居場所が分かったのです」
深刻な声で『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)が言った。少女が提示した地図には、赤い丸がぐるぐると描かれた箇所がある。
「食材ちゃん?」
「そう名乗ったそうなのです。食材ちゃんはこの一か月で四つの村と集落を……」
恐ろしそうに口をつぐんだユリーカがうつむく。
集まっていた特異運命座標たちは、その仕草で察した。凄惨な事件を引き起こしたのだと。
「とめてほしいのです。これ以上、犠牲を出すわけにはいかないのです!」
もちろんだ。猟奇事件を巻き起こしている、その頭のおかしな名前の何者かを、野放しになんてできない。
「生き残りの方が話してくださったのです。食材ちゃんはここにいるのです。……たぶん、その方はわざと解放されたのです。皆さんをおびき寄せるために」
食材ちゃんは自分がやってきたこと、自分が率いているグールたちのこと、そしてとめないのならさらに犠牲を出すことなどを、解放した者に言い聞かせたのだそうだ。
だから。
とめたいのなら、強い人を連れてきてね、と。
「皆さんのお力を貸してほしいのです!」
力強くユリーカは言い放った。
- 食材ちゃんの狩り遊び完了
- GM名あいきとうか
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年10月16日 21時30分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●夜の帳が降りる頃
村の外れに集まった特異運命座標たちが、連携や範囲攻撃に関する作戦会議を終えた。
「カンテラをお持ちの方はこれを」
高級オイルをとり出した『BS<死の宣告>』刀根・白盾・灰(p3p001260)に、明かりを必要とする面々が小さく頷く。
「行く前に確認」
小声で言った『ノベルギャザラー』ジョゼ・マルドゥ(p3p000624)が小さく挙手する。
「食材ちゃんを食うやつー」
「……どんなものか、気になりますし」
そっと灰が手を上げる。
「グールは食えんじゃろうが、そっちはうまいと聞いておる」
鷹揚に『百獣王候補者』アレクサンダー・A・ライオンハート(p3p001627)が頷いた。
「血はいただかせてもらうぜ」
鋭い牙を覗かせ、『吸血鬼を狩る吸血鬼』サイモン レクター(p3p006329)は笑みを浮かべる。
「同じ食材適性を持つ同類の願い、僕は共感できますので」
囮役を務めると会議中に宣言していた『マンイーター』ジャック(p3p006666)が、陶然と囁いた。
「お花だったら食べるけどなー。人はちょっとなー。話しはしてみたいけど」
肩をすくめた『花喰い』エクリプス(p3p006649)に、『豚か?オークか?いやORCだ!』O. R. C.(p3p004042)も大きく首を縦に振った。
「誘われた以上、味見はさせてもらうがな」
戦場に招かれた以上、戦いの妙味は味わわせていただく、という意味だ。決して他意はないし、食べる気もない。
「私も食べない。抵抗しないなら連れ帰ることも考えるが……。そうだな、実際食べられての感想でも聞くか」
食べる、と応じた面々を見回した『尾花栗毛』ラダ・ジグリ(p3p000271)がゆるりと瞬く。ジョゼは頬を引きつらせた。
「あ、うん。マジで食うやつらはいるんだな。オッケー、オイラは食わねーからよろしく」
食べるところも見たくないし、感想も聞きたくないと、ジョゼは素早く首を上下に振った。
「では準備を始めてくれ。狩るか狩られるかの始まりだ」
対戦車ライフルを持つラダは、不気味に沈黙した村に視線を投じた。特異運命座標たちが得物を手に、動き出す。
風がやんでいるためか、死と血のにおいで空気がよどんでいる。
半壊たり倒壊したりしている家々。荒らされた畑。くちゃ、くちゃ、とグールたちが沈みかけた太陽の光を浴びながら人肉を食らう不快な音。
「やぁっときたぁ」
甘く粘つくような声で、半壊した家の屋根に座っていた少女が立ち上がる。
到着した特異運命座標たちと、食材ちゃんの視線が交差した。
「アアア」
低い声でグールたちが唸る。
「狩って、狩られて、楽しくあそぼぉ!」
特異運命座標たちは作戦通りに展開。ジャックが真っ直ぐ、食材ちゃんに向かって駆け出す。
●狩り遊び
疾駆するジャックの肩に食材ちゃんが放った矢が突き刺さる。彼は気にせず走り、瓦礫を足場にして、酷薄な笑みを浮かべている少女と同じ屋根に立った。
「初めまして、食材ちゃん。我が同類よ。僕はジャック。君と同じ食材適性を持つ者さ」
「そうなの? じゃあアナタも食べられたい?」
愛らしく首を傾けた食材ちゃんに、ジャックは優しい表情で首肯して、同意を示す。
「君の衝動、欲望。僕は大いに共感するとも! この業を持ったからには、自分の味を誰かに堪能してもらいたい。だがただで食べさせたくない。納得のいく食べられ方をしたい! ああ、僕も同じことをしているからね!」
「きゃはは! そう、アナタも食材として、最高の地獄を味わっているのね!」
哄笑した食材ちゃんの射撃がジャックの左腕に直撃した。男はよろめくが、笑みを絶やさないまま、矢を引き抜く。先ほどの一矢もついでに抜いた。
彼を術の範囲内に収めていたジョゼのヒールオーダーが、傷を癒す。
「だから勝負だ、食材ちゃん! 僕が勝ったら……君を食べさせてくれ!」
「アタシはヒトを食べる趣味なんてないけど、いいわ。アタシが勝ったら、アナタは食べてあげる!」
きゃははは、と甲高い笑声を上げながら、食材ちゃんは自らに有利な距離を確保するため、屋根から飛び降りた。
敵の数をざっと数える。奇襲や挟撃を案じていたが、どうやら報告通りの個体数のようだった。
「掻き乱してやれ」
O. R. C.の側から離れた三頭の犬が、特異運命座標を見るなり物陰に身をひそめた弓持ちのグールたちを追って駆け出す。
先行したジャックを追いかけようとしていた近距離型のグールたちが、犬と孤立した男と、思い思いの位置についた特異運命座標のいずれを狙うか、逡巡したのが分かった。
「あなたがたの相手は私がつとめましょうぞ!」
灰の名乗り口上が響く。数体のグールが彼に意識を向けた。中には距離をとった弓持ちのグールも含まれている。
「予想より多いですな」
「これの効果だな」
盾役を務める灰とO. R. C.は、事前に村の隅で亡くなっていた若い姉妹の血液を鎧や帷子に塗っていた。
人の肉を食らうグールは、血のにおいに敏感だ。また、ここにいる複数の個体には、それが罠かもしれないと考えるほどの知性がない。
「女の子どもも見境なく食いやがって」
一瞬だけ別の意味に解釈しかけた灰は、グールの組みつきをわざと受けながら、そうではないと内心で首を左右に振った。
近距離型のグールはもれなく、灰とO. R. C.と、その周囲にいる特異運命座標たちに標的を絞っている。
遠距離型のグールの中にはジャックの背を狙う者もいたが、食材ちゃんと追いかけっこを始めた彼にうまく照準をあわせられないのか、矢を引き絞っては力を抜くことを繰り返している。
「あんまり離れんな……っ!」
ヒールオーダーの範囲を気にしながら、ジョゼはこちらに矢先を向けていた遠距離型グールの一体に魔力撃を放つ。
よろめいたグールが仰け反りながらも射た。ジョゼの肩口を鋭利な矢が掠める。
「チッ」
「ワン!」
さらに魔力撃を叩きこもうとしたところで、遠距離型グールの背後から突進してきた一頭の犬が魔物にぶつかった。つがえていた次の矢が地面に落ちる。
「もうちょっと離れろ!」
「はいよ!」
グールの攻撃を逃れた犬が全力で退避。なにが行われるのか瞬時にさとったジョゼも後退する。視界の端には、瓦礫の向こうで近距離戦を始めた食材ちゃんとジャックを捕らえていた。
「爆ぜろ!」
半壊した家屋の屋根に立つサイモンの、SADボマー。
自律自走式の爆弾がグールめがけて猛進、爆発する。
「そっちもドカンだぜ!」
「おー」
グールを襲う爆発を、ジョゼはいっそ清々しい気持ちで見守った。
近くに遠距離型のグールが隠れているのを見つけ、アレクサンダーは走る。勢いを殺さないまま跳躍、前足を振り下ろした。
「グギ……!」
耳障りな声を上げながら距離をとろうとしたグールに、エクリプスが投じたSPOが命中する。
「ア、ア」
毒を浴びたグールが至近距離にいたアレクサンダーに吐瀉物を吐きかけた。四足で立つ彼の背後にいたエクリプスが、悲鳴に近い声を上げる。
「うわお!? 気持ち悪っ! 近くに行きたくないよホント!」
すんでのところで嘔吐をかわした獣の王は、嫌悪に満ちた目で汚れた地面を見る。
「確かに、これにはあたりたくないのぅ」
生理的な嫌悪感がすさまじい。
「早々にすませたいのぅ」
「同感。援護は任せてくれ」
アレクサンダーの我流の殺法が遠距離型グールを襲う。
「ア、ア」
「ぐ……っ」
「大丈夫か」
前足に嘔吐を浴びたアレクサンダーにエクリプスがSPD。彼がひそかにグールの背後をとろうとしていることに、アレクサンダーは気づいた。
「問題ない。まったく、うまそうなら倒して食うこともやぶさかではないがのぅ」
エクリプスの姿を探すように、首をめぐらそうとしたグールにアレクサンダーの打撃が突き刺さる。グールは呻きながら、至近距離にいる彼に吐瀉物を吐きかけた。
「こんな腐った連中は、『掃除屋』ぐらいしか食わんからのぅ。倒したら、放置じゃ」
「オレっちも絶対、これは食べたくないなぁ」
「グギャ」
グールの真後ろからエクリプスが逆再生を放った。接触箇所から生命の再生力が逆転、破壊の力に変わる。
倒れた魔物を、エクリプスは思い切り嫌そうに見下ろした。
ジャックが駆けるとほぼ同時。ラダは手近な家の屋根に身軽に上り、銃を構えていた。
意識を集中する。尋常ならざる反射神経と研ぎ澄まされた聴覚は、あらゆる奇襲を許さない。
「撃つぞ!」
「おう!」
「準備万端ですぞ!」
警告。返答から一秒も待たずに、大口径のライフルが火を噴く。
灰とO. R. C.に群がっていた近距離型のグールたちに、弾丸の雨――ハニーコムガトリングが降り注ぐ。
「ギイイイ!」
「ぐぅ……っ」
「こっれは、効くぜぇ……っ!」
「踏ん張ってくれ!」
どうにかグールを盾にする形で、二人は倒れることなく耐えてくれた。銃声がやむ。まだ立っているグールが灰に腕を振り下ろした。
「させませんぞ!」
強烈なカウンターでグールの体が揺らぐ。さらに背後から魔力撃を放たれ、その個体は地に伏した。
「生きてるかー?」
「どこもかしこも元気だ、ぜ!」
敵の隙をついてスープレックスをきめたO. R. C.の下半身に視線を向けかけた灰は、咳払いをする代わりに盾をグールにぶつけた。
「そりゃーよかった」
肩をすくめたジョゼが二人を癒していく。
二人を殺すことなく、グールたちに痛手を負わせることができた。
安堵したラダはその場から飛び退く。矢が屋根に突き刺さった。
「遠距離型か」
矢を放った個体はすでに距離をつめてきている。ラダの射撃。銃弾がグールの肩を撃つが、痛覚などないのか、構わず突っこんでくる。
嘔吐を全力でかわした。
「想像以上に気持ち悪いな」
吐き出されたどろりとした液体に、薄ら寒いものを感じながら格闘に切り替えようとしたラダの眼前で、グールの額が背後から撃ち抜かれた。
「サイモンか」
広めの道を挟んだ向かい側の家の屋根に、仲間の姿をぼんやりと視認。夜目が効く彼は、ラダの姿をはっきりと見ていることだろう。
まだ動こうとしていたグールを殴って、とどめをさす。
「感謝する」
「おう!」
片手をあげて応じたサイモンに、ラダは頷いた。
「きゃはは、すごいすごい! 追いかけてくる!」
「僕は君より、目も耳も鼻もいいだけだよ」
甘く囁くジャックの胸に矢が刺さる。そろそろ体が持たなくなってきていた。膝が折れる。
気がつけば主戦場から離されていたのだ。ただし、食材ちゃんも決して軽くはない負傷を受けている。
「でも、もうおーわり」
「……まだだよ、食材ちゃん。僕は君を食べるまで、死なない」
死の運命を拒絶して、片膝をついていたひどく優しく笑った。
「……きゃはは!」
「あーもう、邪魔!」
焦りをこめてジョゼは叫び、魔力撃を放つ。ジャックを追いかけようとしたら、近距離型のグールに行く手を塞がれたのだ。
「邪魔だし痛いしなんなんだよ!」
家の陰から遠距離型のグールに撃たれたジョゼに、エクリプスがSPDをかけた。
「こっち引き受けるよ」
「行ってやれ」
「任せた! ありがとな!」
アレクサンダーとエクリプスが頷く。ジョゼはジャックを探すため、走り出した。
「敵は一……、いや、二体か」
「手負いの近距離型に無傷の遠距離型。面倒じゃのぅ」
「まぁ、頑張りますか」
嘔吐は食らいたくないなぁと思いつつ、エクリプスは手始めにSPOを投げる。
「O. R. C.殿!」
近距離型グールの蹴りがO. R. C.の腹部に命中した。膝をついた彼に攻撃しようとした別の個体の脳天を、ラダの銃弾が撃ち抜く。
「無事か?」
「ハッ。むしろ興奮してきたぜ」
想像以上に重い一撃を食らい、いっそう闘志が燃え上がった、という意味だ。ラダが複雑な表情で頷く。
「……無事ならいい」
「無理はなさるな」
「もうすぐ終わるんだ。俺だけいくわけにはいかねぇよ」
軽い口調で言いながらO. R. C.は二本の足でしっかり立った。もちろん、こんなタイミングで自分だけ後ろに行くわけにはいかない、という意味だ。
「もうひと踏ん張りだ!」
怒号を上げながらO. R. C.は手近な瀕死のグールにスープレックスを仕掛ける。
物陰で、グールは食事を行うことにした。戦闘より空腹感を優先したのだ。
「ア……?」
横手から飛び出してきた獣が肉を奪う。グールは弓を拾い、それを追う。陰から道に出た。
「ア……」
右肩を撃ち抜かれた。どこからだ。探すグールを、闇に潜んだサイモンがさらに撃つ。
グールがサイモンを視認した。直後、逆方向からの精密射撃。再び物陰に隠れることを選択したグールの足を、犬が噛んで押しとどめる。
どろりとした吐瀉物が犬を襲うより早く、グールが倒れた。
「優秀な犬だ」
「O. R. C.の飼い犬だったか? そっちは?」
「もう終わる。行くぞ」
「ジャック、生きてんだろうな?」
「ジョゼが間にあっていれば、問題ないだろう」
わしゃわしゃと犬を撫でていたサイモンが、ぽんと優秀な獣の背を優しく叩いて歩き出す。対戦車ライフルを油断なく持ちながら、ラダも食材適性を持つ二人の元を目指した。
傷が塞がる。血が増え、力が戻ってくる。
「ま、間にあった」
息を荒げたジョゼの声を聞きながら、ジャックは立ち上がる。舌を打った食材ちゃんは後ろからSPOをかけられ、小さな悲鳴を上げた。
「なっ!?」
「おいしくないだろーけど、ほら、あげるよー。プレゼントー」
満身創痍のエクリプスにも、ジョゼがヒールオーダーをかける。
「食材に毒なんて、無粋ね!」
「逃がさないよ」
逃走しようとした食材ちゃんを、ジャックのマジックロープが絡めとろうとした。しかしかろうじて食材ちゃんはかわす。
「投降しろ」
「追いつめたぜ」
屋根に立つ二人、ラダのバウンティフィアーとサイモンの曲芸射撃が食材ちゃんに殺到する。銃弾がやんだのを見計らい。アレクサンダーが突撃した。
「おぬし、うまいらしいな? ならば全力で屠るのみじゃ」
「こ、っの!」
「させねぇよ」
弓でアレクサンダーを殴ろうとした食材ちゃんと彼の間に、すかさずO. R. C.が割りこむ。
「きゃはは! いいわ、いいわ! 楽しい!」
SPOの毒が少女の体を蝕む。倒れかけた食材ちゃんはしかし、狂気の笑みを浮かべながら弓を握り直して立ち上がった。
「まだまだ、狩りは終わらないわ」
ジョゼがO. R. C.にヒールオーダー、エクリプスが灰にPSD。灰とO. R. C.が素早く視線をかわし、位置を入れ替わる。
食材ちゃんは銃を構えるラダを狙撃した。矢は彼女の頬を掠め、虚空を走って行く。
「アナタも、そっちのアナタもおりてくればいいのよ!」
「断る」
「ここが落ち着くんだよ」
冷ややかな声でラダは応じ、サイモンは曲芸射撃とともに答えた。回避した食材ちゃんに、O. R. C.が後ろから組みつく。
「……あら」
「しまいじゃ」
アレクサンダーの喧嘩殺法。食材ちゃんは悲鳴とも笑声ともとれる声を上げる。
「すぐにおいしく食べてあげるからね」
薄い笑みを浮かべたジャックが食材ちゃんの心臓の真上あたりに手をあてた。
「きゃは、あ……!」
逆再生。嫌な音を立てて、少女の骨が折れるのが分かった。
●お食事
膝をついた食材ちゃんを一同が取り囲む。夜が深まる村に、奇妙な静寂が訪れた。
おもむろに動いたのは、エクリプスだ。
「んぐ」
「おいしい? まずい? あ、毒はないよ、安心してよ」
とり出したお菓子を、息を荒げ血を流す食材ちゃんの口に突っこんだのだ。
「人間以外にもさ、美味しいもんいっぱいあるよ。それ探したら? もう食べてもらえただろー?」
完全な敗北。それを狩りの終了、捕食と被食の終了としてもいいのではないかと、エクリプスは提案する。
「きゃは」
食材ちゃんは瞳孔が開いた眼で彼を見て笑い、咀嚼したお菓子を飲みこんだ。
「だぁめ……っ」
手元にあった石を掴み、投げつけようとした食材ちゃんの首に銃弾が深く突き刺さる。少女の体がぐらりと傾き、倒れた。
「利用方法はあるかと思ったが。抵抗するなら始末するだけだ」
銃口を下げたラダに、エクリプスは小さく息をつき、仕方ないかとまだ温かい亡骸を見つめて目を細めた。
「あー、オイラ、ダチコー呼んで生存者の探索して、帰るわ」
後の展開が読めてしまったジョゼがじりじりと後ずさる。ジュノー呼んで、帰って、鶏肉を食おうと思った。生存者の探索は絶望的だろう、ということは分かっているので、ただの口実だ。
「私は残ろう。もう話せないだろうが」
どのような気持ちで食べられているのか。
自分勝手に虐殺を繰り返した少女はもう伝えられないだろうが、最後まで見届けるとラダは言う。
「俺も食うならもっといい肉をがっつり食いてぇからな。焼肉でも行こうぜ!」
「お花食べたいなー」
少女の肉ではなく獣肉を食べたいと、三頭の犬を従えたO. R. C.もその場を離れた。エクリプスもついていく。
食材ちゃんを食べることを選んだ面々は、顔を見あわせる。
「胡椒あるぞ」
「僕はこのままで」
サイモンがとり出した胡椒をジャックはやんわりと断り、他の面々も頷く。そうか、と吸血鬼は頷き、少女の頭を軽く持ち上げた。
喉を鳴らし、血を啜る。
「なかなかの味だな」
恐々と腕に食いついた灰が素早く瞬く。
「へ、へえ~。こういう味がするのですな……。グールと一緒だったから衛生面が若干不安ですけれども、美味しいじゃないですか!」
「うむ。悪くない味じゃ」
片足を食らうアレクサンダーも比較的、満足そうに頷いた。
「ああ、美味しい。美味しいよ、食材ちゃん」
崇敬と愛しさを覗かせつつ、ジャックも食材ちゃんを食べていく。
「そういえば家の近所にも孤児院がありましたなぁ」
思わず呟いた灰は、うなじに食事を見守るラダの視線を感じて首を縮めた。
「なんてね! 冗談ですよ冗談!」
「そうか」
嘆息したラダはふと空を見上げる。
場違いなほど美しい月が輝いていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様です。
食材ちゃんはおいしかったようですね。
彼女が引き連れていたグールも無事に全滅しました。食された方々が浮かばれたかどうかは分かりませんが、食材ちゃんは本望だった……と思います。
食欲の秋。
たくさん美味しいものを食べてくださいね。ただし、食べるものは選んでくださいね。
ありがとうございました!
GMコメント
はじめまして、あるいはお久しぶりです。あいきとうかと申します。
食欲の秋ですね。
●目標
食材ちゃんおよびグールの討伐。
食材ちゃんは食べても捕らえてもいいです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
●ロケーション
皆さんが現場に到着するのは夕方ごろです。じきに夜になります。
周囲には半壊していたり、瓦礫の山になっていたりする煉瓦造りの家々と、血まみれの畑、食い荒らされた老若男女の遺体などがあります。
身を隠す場所には事欠かないでしょう。逆に、身を隠しているつもりで敵に裏をかかれる可能性もあります。
凄惨な事件の爪痕が残っていますが、罠は設置されていません。
●敵
近距離型のグールが七体、遠距離型グールが五体、食材ちゃんが一体。
食材ちゃんが指揮を執っているわけではありません。それぞれ本能のままに攻撃してきます。
今回のグールは灰色の肌、男性の人型、身長160センチほどです。
『近距離型グール』
体力が高く力も強いですが、防御は低く動きは鈍いです。頭はよくありません。
・食らいつく:物至単
・組みつく:物至単…組みつかれると他のグールに狙われやすくなります。簡単に食べられるごはんに見えるようです。
・引っかく:物至単
・蹴る:物至単
『遠距離型グール』
体力が低く力は並、防御は低いですが、動きは近距離型に比べて速いです。頭はやはりよくありません。
・射撃:物遠単
・嘔吐:物至単…口からなにかどろりとしたものを吐き出してきます。受けると毒になる可能性があります。
『食材ちゃん』
食材としての適正を持った人間種の少女。短めの赤毛をツインテールにした、赤い瞳の女の子。
狩って狩られて食べられたい。
・射撃:物遠単
・格闘:物至単
・戦闘続行:物自単…瀕死時、一度だけ使用
・超聴力:非戦パッシブ…奇襲しようとすると気づかれる可能性が高いです。また、隠れていてもわずかな物音で気づかれる可能性があります。
繰り返しますが、食材ちゃんは食べても食べなくてもいいです。捕らえてローレットに引き渡すだけでも依頼は達成になります。
よろしくお願いします!
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