＜アンゲリオンの跫音＞海から忍び寄る潜水部隊

オープニング

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　――仔羊よ、偽の預言者よ。我らは真なる遂行者である。
　――主が定めし歴史を歪めた悪魔達に天罰を。我らは歴史を修復し、主の意志を遂行する者だ。

　この神託は天義国内を混乱させ、様々な事態を引き起こす。
　殉教者の森に進軍していた致命者。
　エル・トゥルルにおける聖遺物の汚染。
　天義の巨大都市テセラ・ニバスを侵食した『リンバス・シティ』の顕現……。
　遂行者を名乗る者達はこの神託に従い、歴史の修正を行うべく影の集団を率いて活動している。
　各地へと影の一隊を差し向け、触媒となる聖遺物を設置、帳を下ろす。
　ルスト・シファー（冠位傲慢）の力を得て、『神の国』を築く為に。

　天義の騎士達もこの事態に手をこまねいてはいない。
　――『純粋なる黒衣』を纏え。此処に聖戦の意を示さん。
　神が為に行なう断罪の時に被る穢れ（返り血）より、敬虔なる者の身を守るための、何もにも染まらぬ色……それが黒衣。
　黒衣を纏った騎士は国の困難に前に歩みを進める。

　騎士達と遂行者達の戦いが続く中、新たに謎の神託が……。
　――第一の預言、天災となる雷は大地を焼き穀物を全て奪い去らんとするでしょう。
　――第二の預言、死を齎す者が蠢き、焔は意志を持ち進む。『刻印』の無き者を滅ぼすでしょう。
　――第三の預言、水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう事でしょう。
　これらの神託は遂行者の『行動』を予見したもの。
　神託を手に、神の代弁者たる『黒衣』の騎士とイレギュラーズは遂行者を退けんと剣を手にする。

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　預言書によって、世界を再建すべしと動く遂行者達。
　その暗躍は天義だけでなく、世界中で確認されていた。
「活動範囲が広範囲に渡っていて、その全てを把握しきれないのが現状だよ」
　『海賊淑女』オリヴィア・ミラン（p3n000011）は他の情報屋と情報共有しつつ事態に当たっているが、状況は厳しい。
　なにせ、これだけ多くの問題が一度に発生している。
　ローレットとしても多くの人員でこれに対処するしかないだろう。
　幸い、今回の事件は天義国内に集中している。
　全国各地を回った遂行者達が『天義』を拠点とし、世界を塗り替えるべく本格始動を始めたのだ。
「このタイミングで降りたという神託も気になっていてね」
　シェアキム六世に降りた謎と言われる３つの預言は、今起こっている事態……遂行者らの行動を予見していた。

　オリヴィアがこれから話す事件も預言に絡んでいる。
「事件が起こるのは、鉄帝と天義の国境沿い……壁に覆われ、独立都市とも呼ばれていた『アスピーダ・タラサ』だ」
　アスピーダ・タラサ……旧アドラステイアにはいまだ多くの子供達が残されている。
　元々、天義国内の戦乱もあって孤児となった子供が多く流れ着いていた場所だ。
　例え、都市を統べる大人がいなくなっても、行くあてもない彼らは身を寄せ合うように生きている。
　そこに巨大な波の如く影の一団が襲い来るのだとオリヴィアは言う。
「第３の預言は、『水は苦くなり、それらは徐々に意志を持ち大きな波となり大地を呑み喰らう事でしょう』だったね」
　アスピーダ・タラサ周辺の水が苦くなり、海が蠢く。
　そうして、巨大な波のごとく海から現れ、都市内へと入り込んできたのは、致死者ジョエルの率いる一団なのだという。
　その構成員は何れも真っ黒な体躯で、巨大な目の姿をした終焉獣２体と、大砲、高射砲を装備した少女を思わせる影が数体。
　全てが並以上の力を持つこの集団を、ジョエルは潜水部隊と称しているという。
「かつて、ナーワルが都市で率いていたのが潜水部隊と言われているよ」
　部隊の構成員を再編成しているともいうナーワル。
　その姿は別所で確認され、アスピーダ・タラサにはない。
　だが、子飼いともいえる新生潜水部隊は確実に遂行者ナーワルの意に従い、アスピーダ・タラサごと呑み込もうとしている。
　同志を増やし、さらに内陸へと勢力を伸ばす為に。
　無論、それを許すわけにはいかない。
「幸い、アスピーダ・タラサには子供達の世話をする聖騎士団も交代で在留している。力になってくれるはずさ」
　崩壊状態にあるこの都市に、現状戦力はほとんど存在しない。
　力ある子供達はアスピーダ・タラサの外に出て様々な活動をしている為、残っているのはまだそうした力のない子供ばかりなのだ。
　都市復興、子供達の保護などに当たる聖騎士らと共に、この事態へと当たりたい。
「子供達の安全確保が第一さ。深追いはするんじゃないよ」
　新生潜水部隊がいかなる相手かを考えつつも、イレギュラーズはオリヴィアに見送られて目的地を目指すのである。

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　アスピーダ・タラサ……旧アドラステイア。
　先のファルマコンらとの戦いもあって城壁の一部は崩れ、都市機能はほぼ停止状態にある。
　崩壊状態にある都市だが、ここに流れ着いた子供達は今も都市下層にて身を寄せ合って生活している。
　大人達の影響もあってか、中層より上には今も足を踏み入れず、聖騎士団達の手を借りてなんとか日々を送っている状態だ。
「食事ができましたよ」
　鍋をもって子供達の元へとやってきたのは、黒衣に身を包む聖騎士団の一人、ルーシーだ。
　アスピーダ・タラサには聖騎士らが立ち代わりやってきて、子供達の世話をしている。
　なかなか子供達はこの場から移動しようとはせず、半ば孤児院のような状況となっているそうだ。
　ここに流れ着くまでに厄介者扱いされた子供も多い。
　そうした経験から、今後も彼らはここから動こうとはしないだろう。
　そこへ、慌ててやってきたのは、ルーシーの部下。
「部隊長、大変です。海から突然大波が……！」
「何ですって……！？」
　子供達に与える食事を準備していたルーシーは急いで武装し、部下と共に外へと向かうと、こちらに影の集団がやってくるではないか。
「あれは、致死者……それに終焉獣。同行しているのは影の天使でしょうか……？」
　相手がなんであれ、影に都市内へと入り込まれると厄介だ。
　下手すれば子供達が異言を話すものへと変えられかねない。
　ただ、タイミングよくこちらへと駆けつけてくれる別の一団。
　ルーシーはそれに見覚えがあって。
「ローレット……救援助かります」
　微笑む彼女はイレギュラーズへと声をかけ、手早く情報交換して都市の防衛、合わせて影の一団の迎撃に当たる。
「……邪魔は、させない」
　影の一団を率いていたのは、かつてアドラステイア内で活動していた聖銃士の鎧を纏う少年ジョエル。
　イレギュラーズの中にはその姿に見覚えがあった者もいるらしく、ここであったが百年目とばかりに彼らの侵攻を食い止めにかかるのだった。

参加者 : 8 人

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参加者一覧（8人）

リプレイ

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　天義の海沿いに聳え立つ旧アドラステイア……アスピーダ・タラサ。
　この地で暮らす子供達が窮地に陥るということで、イレギュラーズ一行も急行する。
「致命者が率いる一団が相手か」
　海から大波の如く現れるという今回の敵について、『修羅の如く』三鬼 昴（p3p010722）が思う。
　『ヴァイス☆ドラッヘ』レイリー＝シュタイン（p3p007270）も大波との情報から水中行動できるよう準備していた。
　さすがに水上戦に移ることはないと思いたいが……。
「このアスピーダ・タラサって街、子供達ばっかりなんでしょう？」
　皆に問いかける『紲の魔女』紲 冥穣（p3p010472）。
　実際、彼女の言う通りなのだが、壁が崩れる音と共に、都市内へと何かがなだれ込んでいるのに気づき、皆そちらへと駆け出す。
「そんなところを狙うなんて、なんて卑怯なのかしら！」
　怒りに燃える冥穣は仲間と共に現地へと駆けつける。
　現れた黒い影の一団を相手にしていたのは、黒衣を纏う天義聖騎士団小隊。
　ルーシー以下聖騎士達は都市の子供達を守る為、それらを迎撃していたのだ。
「お！　お主等、頑張っとるのう！　良き良き♪」
　『ナチュラルボーン食いしん坊！』ニャンタル・ポルタ（p3p010190）が開口一番聖騎士達を激励する。
「ローレット……救援助かります」
　小隊長……今は部隊も率いているルーシーは、事あるごとに駆けつけてくれるローレットに刹那表情を緩める。
「今回も頑張るとするか！　皆『無事に』！」
　親指をグッっと立て、ウインクをばちこーんとかますニャンタル。
　その姿は聖騎士達にとって、とても頼もしく見えていた。
「私達が彼らを撃退する。だから、子供達を護るのはお願い」
「少なくとも、いきなり現れたボク達よりは今まで親身になって面倒を見てくれてた聖騎士達のが信頼も厚いだろうからね」
　レイリーが頼んだのに合わせ、『咎人狩り』ラムダ・アイリス（p3p008609）もその理由を口にして。
「てな訳で、お主等にミッションじゃ！　子供達を高台に避難！」
　その上で、回復支援の為に戻ってくる者と、子供達の護衛につく者とで小隊を分けてほしいとニャンタルは依頼する。
（幸い、騎士って戦える大人の傍にいるから、子供達の避難を任せられそうね）
　避難後は子供の守りとこちらの支援に分かれてもらえればありがたいと冥穣は続ける。
　逐一状況を伝達できるよう、冥穣は精霊疎通と精霊操作を使い、音の精霊の協力を得て連絡が取れるように準備を整える。
「子供たちの護り……確とお願いするね」
「命大事に。死なないことを最優先で」
「承りました。ご武運を」
　さらに、ラムダ、レイリーの頼みもあり、ルーシーは部下へと子供達の避難と合わせて守りに徹するよう指示を出していた。
「後は騎士団に任せて、我々は敵の殲滅を急ぐとしよう」
「……子供達に長い時間恐怖に晒すわけにもいかないか。速やか且つ迅速に排除するとしないとね」
　昴に同意するラムダも魔導機刀を抜き、敵と対する。
「子供達を襲うなんて許せない。だから絶対に守り通すです！」
　すでに、戦闘の為に翼を羽ばたかせて浮遊していた『ささやかな祈り』Lily Aileen Lane（p3p002187）も、攻撃の為舞い上がる。
　さて、現れた影の艦隊だが、巨大な瞳の姿をした終焉獣が２体と、大砲や砲台を背負った影の艦隊が８体、そして。
「ヴァイス☆ドラッヘ！　子供達を護るため只今参上」
　敵陣へと自身の登場をアピールするレイリーは、黒い集団を率いていた少年を指さして。
「やってきたわね、ジョエル！」
「……構えろ」
　相手もイレギュラーズであることはすぐに察知し、己の部下を差し向けてくる。
「……ったく、ガキしかいねぇところに襲ってくるたぁ、よっぽど性格わりぃな。この『潜水部隊』とやらは」
「成程、致命者ジョエルの一団ね……。死者の模造品なんて存在でもアドラステイアに執着でもあるのかな？」
　『揺蕩う黒の禍つ鳥』エレンシア＝ウォルハリア＝レスティーユ（p3p004881）が意地の悪さを感じるのに対し、ラムダは目的があって……特にアドラステイアの聖銃士を思わせる見た目をした致命者に何か思惑があるのではと推察する。
「まあ、アタシ等がいる限り返り討ちだ」
　エレンシアもまた、すらりと大太刀を抜いて戦闘態勢をとる。
「──私は波の中の汝らに見覚えはない。そして因果も何も兼ね備えていない、が」
　その横で、『敗れた幻想の担い手』夢野 幸潮（p3p010573）は黒い集団を見据えて。
「『偶像崇拝』の『私』がこの場に来たのだ。其の神託、真っ向より否定しよう」
　幸潮がここで言うのは、天義国内を揺るがした神託だ。
「外なる書き手の定めし処に随うだけのモノたる汝らの行く末は決まっている──『敗北だ』」
「……邪魔は、させない」
　向こうにも譲れないものがあるのかもしれない。だが。
「君等にどんな思惑があるにせよ……通すわけにはいかないね？」
　ラムダの主張する通り、イレギュラーズは誰一人、子供達の元に影の一団を生かせる気などない。
「誰も犠牲なんか出させやしない、この先は絶対に通さない！」
「子供を守るのは大人の責務よ。絶対守って見せましょう！」
　レイリー、冥穣はジョエル及び影の一団を睨みつけ、仲間と共に迎撃に当たるのである。

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　先陣を切って敵へと飛び込むのはエレンシアだ。
　ただ、同時に敵陣からも指揮官である致死者ジョエルが飛び出してきている。
　それを、ニャンタルとレイリーが抑えに向かう。
「エレンシア、思いっきり暴れてくるのよ！　私が彼を抑えるから」
　空中でレイリーから背中を押され、エレンシアは笑顔を返してから敵に向き直って。
「へぇ、こないだの竜宮擬きの時は『腕』と『指』で今度は『瞳』か。全部集めたらどうなるんだろうな」
　軽口を叩きながらもエレンシアは集中し、多数の敵をうねり連なる雷撃を発していく。
「その目ん玉、抉り潰す！」
　雷撃は蛇の如く空中をのたうち回ってから終焉獣を含む複数の敵を撃ち抜いていく。
　レイリーの手前ではニャンタルが刀剣を抜いたジョエルを押さえつける。
「先日の決着、着けようではないか！」
「…………！」
　ジョエルもニャンタルを敵視し、すかさず斬りかかってくる。
　そこで、深く息を吐いたレイリーは白い波紋で仲間を包み込みながら、ニャンタルを庇う。
「私を倒さない限り、誰も倒させない」
　刃を立てて防がれたジョエルは、一層瞳を鋭くして２人に襲い掛かる。
「時間も掛けられん様じゃしな」
　ニャンタルはそのままジョエルを引き付け、少しずつ彼を部下から引き離しにかかっていた。

　他メンバーはジョエルの部下である終焉獣や影の艦隊へと向け、攻撃を開始していた。
　思った以上に素早い動きで砲弾を放ってくる艦隊達。
　それらは距離をとり、的確に射撃してくるのが非常に厄介な相手である。
　だが、メンバー達はそれ以上に絶望の瞳という名の終焉獣２体を警戒していた。
「支援役は早めに潰すのが鉄則だ」
　昴が言うように、遠くまで見通すことのできる視野が特に艦隊をサポートしているのが大きい。
　これに対するべく、事前にテンションを高め、予備動作すら必要とせぬ武技の構えをとっていたラムダが仕掛ける。
　ほぼ詠唱なしに発した術式……対群精神感応攻撃術式「死月」。
　敵を多く捉えたラムダは不吉なる月を頭上に発動させ、黒い体躯の敵を照らす。
　それはいかなる生物であろうが関係なく、体に不調をきたす。
　弱体化だけでなく、体を縛り付けられて動けなくなったり、最悪狂気に染まって同士討ちすらあり得る。
　実際、終焉獣は目を回して動けなくなり、動きを止めている。
　支援の力は働いたままのようだが、終焉獣が止まっているのは大きい。
　敵陣に向け、空高くへと飛ぶlilyは「火葬・白花曼珠沙華」を展開し、四連装ガトリング砲とマイクロミサイルランチャーを乱射した。
（皆様なら、縫いながらも敵にたどり着けると信じているの、です）
　砲弾をばら撒いたLilyが弾幕を張り、巻き起こる土煙の中一気に仕掛けていく。
　思った以上素早い艦隊が放った砲弾によって傷つく仲間を、冥穣がクェーサーアナライズを放ち、こちらの戦力も底上げする。
　仲間のサポートを受け、幸潮は『自己否定』を加えて力を高めて。
「混沌に於ける主役は此なる特異運命座標。歴史が歪んだのではない。教えられた歴史が歪められているのだ」
　敢えて、ジョエルに聞こえるよう呼びかけながらも、こちらもまたクェーサーアナライズによって仲間を支援する。
「辿り着いた現なる今が、真なる歴史に決まっているだろう」
　煽りも程々に、幸潮は襲い来る敵の対処に集中していた。
　何せ、同時並行して聖騎士団が子供達の避難に動いているのだ。
　まだ土埃が敵の目くらましとなってはいるが、それも長くは持たない。
　ならばと、破砕の闘氣と金剛の闘氣を纏った昴が狙った終焉獣へと闘志全開で突撃し、異質なる存在である終焉獣へと拳を突き出す。
　終焉獣も痛みという感覚はあるのだろう。
　昴の一撃があまりに強力だったらしく、絶望の瞳は目蓋を半分下ろして身悶えしていたのだった。

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　多量の土埃を舞うアスピーダ・タラサの下層で、黒い集団とイレギュラーズの戦いが繰り広げられる。
　徐々に聖騎士が子供達を連れ、距離をとる程、メンバーは気を楽にして戦えていて。
　できる限り、弾幕を張るLily。
　瞳の動きを制していたのはよいのだが、艦隊の１人がLilyへと砲弾を発していた。
　その怪我も決して小さくはな勝ったが、Lilyは残弾が残る限り弾幕を張る。
　また、幸潮がすかさずそのLilyの傷を塞ぐべく天使の福音をもたらす。
「多少の被弾は私の筆にて『無かった事』と貶めよう」
　仲間を支えるのには絶対の自信を持つ幸潮だ。加えて、冥穣も天使の歌を響かせて支援する。
　地上ではラムダが艦隊数体を斬り捨てて戦線を切り開き、他メンバーが一気に影の部隊を攻め立てる。
　火力に勝る昴が態勢の崩れた終焉獣を狙い、『対城技』を叩き込んでいく。
　満足な役割を果たせぬまま、早くも絶望の瞳の片方が黒い霧となり、霧散していく。
「…………」
　巻き起こる砂埃の中でも、ジョエルは戦況把握に余念がない。
　それと同時に、レイリー、ニャンタル２人相手でも互角以上に戦えているのだから、さすがというべきだろう。
（ポルタ殿の行動を邪魔しない、させない）
　ジョエルの注意がニャンタルから逸れていると、レイリーが致命者を誘う。
「お前はここから通さないわ」
「忌々しい……！」
　激しい剣戟を受け止めるレイリー。
　チーム随一の防御技術を持つ彼女だが、それでも、一瞬でも気を抜けば、大怪我しかねないと緊張感をもって立ち回る。
「うぉおおお！　楽しくなってきたー！」
　その状況を、ニャンタルは心から楽しんでいて。
「お主、やっぱ強いのう！　ま、我の方が強いがの！！」
　ジョエルを孤立させようと引き付け続けるニャンタルは殺人術で相手の力を封じる傍ら、緩急をつけながら三連撃の殺人剣を見舞う。

　その間、土埃に包まれていた戦場にも進展があって。
「眼だけが浮いてるってのも気持ちわりぃもんだな！」
　仲間達の攻撃が集中する終焉獣が空中を浮遊し続ける様を、エレンシアは嫌悪しながら詠唱する。
　艦隊が距離をとっていたこともあり、エレンシアはそいつ１体のみを狙って
「まあ文字通り『戦場の目』となるなら厄介極まりないからな！　叩き潰す！」
　高位火炎術式を発動させたエレンシアは、終焉獣の体を焦熱の獄炎で包み込む。
　絶望の瞳は必死に抵抗するのだが、相当弱っていたのか業火でその身を崩していった。
　その時だ。ルーシーが４人の部下を引き連れて戻ってきたのは。
「皆、イレギュラーズの援護を！」
　レイリーやニャンタルの要望もあり、聖騎士達は戻ってきてくれた。
　刃を手にしながらも、神聖術も使いこなす聖騎士達だ。
　その実力は申し分なく、影の艦隊を自由に立ち回らせない。
　砲撃を繰り返してくる艦隊は機動力を生かして砲撃を撃ち込んでくる。
　冥穣が度々仲間を癒し、幸潮もまた歌を響かせて支援する。
　合間を見て、幸潮は獄門より呼び出した禍の凶き爪で艦隊を攻めていたが、こちらも思った以上に手強い相手だ。
　それらを切り崩すべく、昴が強引に至近戦へと持ち込み、竜撃で態勢を崩す。
　後は仲間達の攻撃が続く間に、昴は更なる攻撃準備を整える。
「移動しながら通り魔的に次々と狙いを変えていけば、連中の隊列や連携も乱れ、こちらが付け入る隙も増えるだろうしな」
　仲間達の攻撃の切れ目を見て、昴が同じ敵へと鋼覇斬城閃で切り伏せてしまう。
　しばしの交戦の後、ラムダが艦隊の動きを止めるべく不吉の月で照らして１体を完全に沈黙させてしまう。
「「…………！！」」
　調子を乱されっぱなしの艦隊はジョエルという司令塔から発せられるはずの指示を得られず、仲間が減る中も個々のプレーを続けるしかない状況。
　エレンシアは冷静にそれらをチェインライトニングで撃ち抜いて感電させる。
　後方の１体は体を痺れさせながらも反撃の一発を撃ち出すが、手前の１体は耐えられずに煙を上げて倒れていた。
　戦況が変わる間に、Lilyは地上付近へと降り、後方から他メンバーのサポートに回っていて。
　艦隊を狙う上で、Lilyは本体をターゲットにせず、武装を中心において攻め立てていた。
　ただ、彼女の放ったハイロングピアサーは砲台を爆発させ、その誘爆によって１体を屠ってみせる。
　さらに、Lilyは致命打となる一撃を撃ち込み、やはり高射砲を爆発させたことで敵の上半身を吹っ飛ばしてしまう。
　残り３体。イレギュラーズと聖騎士達の勢いは止まらない。
　エレンシアが弱った１体へと近づいてから獄炎を浴びせかけて卒倒させ、昴も思ったより守りが脆いとみた相手へと最大火力の拳を打ち込み、完全に無力化してしまう。
　残る１体はジョエルに指示を仰ごうとするが、ラムダが許さない。
　魔導機刀を煌めかせ、刹那の剣閃が逃すことなく最後の艦隊を襲う。
　距離をとろうとしたそいつへとラムダは追撃し、確実にその歪なる生を奪い去った。

　艦隊を相手していた間、冥穣は仲間へとエナジーを振りまいて戦線の維持に努める。
　時折、ジョエルの牽制に魔弾を撃ち込んでいたが、相手はほぼ崩れることなく苛烈に攻撃し続けていて。
「我１人ではないからの！」
　ニャンタルは足も武器も使い、ジョエルの攻撃を受け、流し、躱し、逆に思わぬ動きから強襲を仕掛け、善戦して見せる。
「幸潮、最後まで私達を助けて」
「当然だ。安心して征くといい、レイリー」
　皆の盾になり続けんとするレイリーの呼びかけに答える幸潮。
（混沌の『私』は既に定まった。助けるに決まっている。──最期まで語り継ぐ）
　矢面に立つ私の美しく愛しきヒト──レイリーを、幸潮は全力で支える。
　冥穣も変わらず、皆にエナジーを振りまく中、エレンシアがジョエルを指して。
「あとはてめぇだけだぜ、致命者とやら。折角の潜水部隊も形無しだな」
　仲間や聖騎士らの支援もあり、エレンシアは殲光砲魔神で一気に攻め立てる。
「まあお前さんもきっちりすり潰してやるから安心しろ」
　すかさず、ラムダが敵の背から刃を振りぬく。
「…………！」
　血を飛び散らすジョエルへと続けざまに、傷つくニャンタルが両手の剣で切れ味無双の一閃で切り裂く。
「子供を襲った罰なのです！」
　態勢など立て直させない。
　Lilyは一斉に銃砲を浴びせかける。
　苦しい表情のジョエルに、幸潮は……。
「『無辜ナル罪ト権利ナキ刑ノ偽典』、解放」
　人は揺らがぬ信仰の果てに神を垣間見るという。
　罪とは、神の許し賜わぬ事であるらしい。
「さて、汝が神は如何也や」
「…………」
　歯を食いしばるジョエルは真空波を飛ばし、イレギュラーズから距離をとる。
「ああ、私の信ずるモノか。それは──決まっているだろう。眼前にて輝く『白竜☆偶像』よ。……なんて、な」
　遠方より撃ち込まれる砲弾。
　おそらく、海沿いの方にまだ潜水部隊がいたのだろう。
　序盤、砂埃はこちらの味方をしたが、ここにきてジョエルにとって追い風となったようだ。
「いずれ顕現する。我らの神は……」
　そう言い残し、致命者ジョエルは姿を消したのだった。

●
　ジョエルを含め潜水部隊はほぼ壊滅させた。
「おー！　皆、また頑張ったな！　よしよし♪」
　ニャンタルが共闘した聖騎士達を労うが、気になるのは子供達のこと。
　一行はそのまま、避難した子供達の元へと向かって。
　敵襲に怯える子供達も少なからずいる。
　多くの大人に拒絶されてここに流れ着いた子供達だ。
　自分達の生活を脅かす外敵には過敏な子も多く、身を縮めて震えている子もいた。
「もう大丈夫だよ」
　ラムダは悠然と、それでいて飄々とした態度で接する。
　警戒心の強い子供達の心を解きほぐすには、少しずつコツコツと接していくしかなさそうだ。
　すでに子供達と交流のある聖騎士達がそんな子供をなだめていたが、Lilyもまた怯える１人を優しくハグし、頭を優しく撫でる。
　落ち着いた様子を見せる子供達がつかれて眠りにつく様子を見て、この場のメンバー達は皆ホッと安堵の息を漏らすのだった。

成否

成功

ＭＶＰ

状態異常

なし

あとがき

　リプレイ公開中です。
　ＭＶＰは指揮官となる致死者を抑え、黒い一団の連携を断ったあなたへ。
　ご参加いただき、ありがとうございました！