シナリオ詳細
移り気なアイスブルー
オープニング
●
朝告げの陽光は東雲色の空を渡り、雪がちらつく王都メフ・メフィートに目覚めの温もりを与えていた。
ギルドの情報屋『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)はディープエメラルドの髪を揺らし笑みを零す。
「ゴブリンって知ってるかしら?」
依頼を受けるため、室内に揃ったイレギュラーズ達にプルーはそう告げた。
純種であるならば、なんとなく知っている。そうでなくても、まあメジャー所だ。
少なくとも『崩れないバベル』で意思疎通しようとすれば、相手の言っている事はこちらに伝わり、向こう側の言葉も問題なく聞き取れる。まず間違いなく言葉の共通認識を持てる連中である。
イレギュラーズ達は腕を組み、あるいは天井を見上げた。
よくいる魔物で、農村や旅行者の脅威となることもある。
粗暴だが臆病な気質。厄介なのは多少の知恵があり、二足歩行で武器を使うという所か。
「まあ、そんなのを退治するっていう依頼よ」
なるほど、初陣に相応しいシンプルな仕事だろう。
場所は王都からいくばくか離れた、トトラという小さな村だ。
春にはなだらかな丘をスプリング・グリーンの草が覆い、ゆったりとした時間が流れている場所。といっても今は冬。きっと寒くて白いのだろう。
それはそうとして、いくらかの野菜と穀物、乳製品を王都に届けている。要は普通の村という事だ。
その村がこの冬たびたびゴブリン数匹の襲撃に見舞われ、ほとほと迷惑しているという。
中でも鶏とヤギの誘拐は、深刻なのだそうで。
「でもさ」
村の人や兵士はどうしているのか。イレギュラーズは当然の疑問を口にする。
「その辺が面倒で、そして討伐にはどうでもいい話でもあるのだけど、聞きたい?」
まあ、一応。聞いてみることにした。
トトラは寒村というほどではないが、小さな村だ。兵士は駐屯していない。
だからこの村には自警団――といっても、わずか十名程の若者なのだが。一応組織されているらしい。
代表格は、それぞれ木こりのダニエル。狩人のピーター。薬草師のネリーと言う。
小さいといっても王都に近い村だ。それなりに安全な地域であり、本来ゴブリンの襲撃など数年に一度。山賊も居らず、せいぜいはぐれ狼を追い払う程度の仕事でよかった。
「それがまたどうして」
ここからが本当によくある話で、しょうもないのだが。
ネリー嬢とダニエル坊や、ネリー嬢とピーター君がそれぞれ、アレでソレな関係となり。
「ネリーちゃん、二回登場したね」
「したわね」
そんなこんなでシャイネン・ナハトの前日に、ダニエル坊やはピーター君をしこたまにブン殴った。
腕自慢の二人同士、ピーター君も黙ってはいない。
こうして二名の怪我人が見事に役立たずとなり、残りのメンバーでゴブリンに挑んだところ、これがまた返り討ち。
更に数名の怪我人を増やしてすっかり縮み上がった自警団は、村長を通じて領主に慈悲を乞うた。
「それが右から左に、ここまで流れてきたって話よ」
一つ疑問が残る。
領主まで話がいったのであれば、先に高貴なる義務を果たすべき人々と、その部下達が居るのではないか。
要するに。
「領主の兵士は?」
そうね。アイスブルー。寒いから――とプルーは皮肉気に笑った。
●
「そっただ、頼んだべ」
「どうかどうか、よろすぐおんねげしますだ」
村人たちの声を励みに、イレギュラーズ達は毎夜の襲撃地点とやらに歩みを進めた。
冬の夜というものは、さすがに冷える。田舎であれば猶更だ。
村人の話通りであれば、この小屋の後ろあたりで身を潜めて待っていれば、ゴブリンが襲撃をしかけてくるはずだ。なので、そこを叩けばいい。
ゴブリン達は体躯の大きいリーダーを筆頭に、それぞれ簡素な短剣、槍、弓で武装していると聞く。
作戦はどう詰めるか。
考えるべき事は多くないはずだが、気は抜けない。
なんといっても、これがギルドローレットに所属するイレギュラーズとしての初陣なのだから。
- 移り気なアイスブルー完了
- GM名もみじ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2018年01月21日 00時40分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●Patience
雲一つ無いミッドナイト・ブルーの夜空に溢れんばかりの星達の瞬きが散りばめられている。
遠く仄かに見える村の明かりは暖かそうで。『大いなる者』デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370)はもこもこのフードを深く被った。
「痴情のもつれという奴じゃの。お陰で妾達はこんな寒いところまでゴブリン狩りにかり出される始末じゃ」
小さく愚痴を零しながら村人からの差し入れを一口頬張るデイジー。ヤギの乳から取れたミルク菓子は舌の上で蕩け、甘く口の中に広がって行く。
「これは中々じゃの」
その隣に居た『天狼牙』シエラ バレスティ(p3p000604)は、彼女の言葉に頷いた。
「それにしても女の子の二股で怪我人が出るなんておっかないね!」
初めての依頼への緊張を隠すように明るく振る舞う姿は、戦闘経験の無い少女にとって精一杯の強がりだったのかもしれない。
一方の『特異運命座標』クー=リトルリトル(p3p000927)も初めて尽くしの状況に恐怖を覚え身体を震わせる。深海の奥底で揺蕩っていた海種たる彼女は、未だ人間の足というものに慣れておらず、そんな自分が仲間に迷惑を掛けてしまわないだろうかと少しばかり不安が膨らむのだ。
「えっと、こういう時どないすればええんやっけ……あーもう!」
胸中の焦りが声に出たクー。その肩を宥める様に優しく掴んだのは鶫 四音(p3p000375)だった。
「ふふ、大丈夫ですよ」
穏やかな優しい声音に少し心を落ち着かせる少女。
「せやな……大丈夫。おおきになぁ。四音はん」
……せやけど、堪忍なぁ。
謝罪の言葉は小さく消え入る様で四音には届かなかったのかもしれない。不意に触れてしまった四音の今晩の夢は『深海で溺れ死に沈む夢』となってしまうだろう。クーが人との接触を避ける理由の最たるもの。
しかして、その深海の揺籃ですら含めて全てを包み込み楽しんでしまうであろう四音には、そういった心配は不要なのかもしれない。
ダーク・インディゴのコートに身を包んだ『いいんちょ』藤野 蛍(p3p003861)が手を上げる。
蛍の目には木々の影からヤギが居る小屋に向かってくるゴブリンがはっきりと写っていた。
こちらの声はまだ届かないだろう。
「数は情報通り。引きつけるよ」
――全員に緊張の色が広がる。
蛍のチャコール・グレイの瞳は敵影との距離を正確に測っているが、平和な世界から来た彼女にはこれから始まる命のやり取りが実感としてどんなものか分からない。
死ぬのも殺すのも怖いのだ。さりとて、無辜なる混沌で生きていくには始めなければならない。
ゴブリンの最後尾が行動開始範囲に入る。
(けど、やるしかないんだ)
「よーし。それじゃ一つ虐殺といくっすよ」
赤と黒が闇へ紛れる。
双色の血玉髄(bloodston/heliotrope)が風を切った。
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285)は戦利品の前で嬉しげに笑声を上げる弓ゴブリンへ飛躍する。
「今日もらくしょウだった……グギャ!?」
剣先から肉の切れる感触が、骨の砕ける音がヴェノムの手へ伝わった。
戦いを至上とする「戦士」の魂が刺戟される。血が滾る。
「オイ、どうしタ!?」
仲間の悲鳴に動揺するゴブリン達。
「私は『天狼牙』のシエラ! 悪いゴブリンさん達の墓場はこちらになります!!」
シエラの名乗りは静まり返った夜の牧草地に響き渡った。効果は絶大。ゴブリンの注意は突然大声で現れた彼女へと向けられる。
「何だァ! てめえ!」
「ギャギャ!」
「一人で俺たちとヤロウってのか!?」
一様に怒りを露わにしたゴブリンは周りで蠢く気配に未だ気づいていない。
シエラ一人に注視しているのだ。
赤き焔が弓ゴブリンの後方で夜の闇を染め上げる。『戦獄獣』雷霆(p3p001638)は今まで押し隠していた闘志を怒号と共に吹き上がらせた。
「さあ、待ちに待った戦いだ! 全力で楽しませて貰うぞ!」
黒き巨躯から振り下ろされる斧が成す風切音。それ聞いた時には、弓兵の頭蓋はアガットの血を地面に撒き散らす。
小屋の中でヤギを抱え上げていた弓ゴブリンが慌てて飛び出した所で、『剛弓』リーゼロッテ(p3p004303)の弓から放たれる矢が銀の軌跡を描き突き刺さった。
「ゴブリンめ、許せませんわ! これ以上の被害を出さないようにわたくしたちが頑張らないといけませんわね!」
震えるヤギに微笑むのはクーだ。
「ふふ、安心しなぁ。気合い入れて守ったるからな!」
覚束ない足取りで小屋の後ろから飛び出し、リーゼロッテが傷を負わせた敵にルージュ・アルダンを纏った魔力の塊を当てる。
「臆したか、所詮はチビのゴブリンじゃの」
重傷を受けて逃げようと走り出す弓兵に罵声を浴びせかけるデイジーは続けざまにディープ・パープルの術式を展開させた。
「――深海よりいずる神の子。大いなる”ディー”の名に呼応せよ!」
紫電の術式は弓ゴブリンの身体を穿ち魂を刈り取る。
「ゴブリン退治。基本ではありますね」
四音の呟きに蛍は首を傾げる。
「……いえ、こちらの話です」
カーマインの瞳に深淵を懐き、慈しむ様に微笑みを浮かべる四音は、蛍から残りの弓兵へ視線を移して指先を開いた。
「ふふ、逃がしませんよ?」
四音の攻撃と同時に蛍のロングバレルから打ち出された弾丸は、ペリドット・グリーンの火花を残し敵の頭部へ炸裂する。
怒りに我を忘れたゴブリン達はシエラへと剣先を向けた。思ったよりも動きが早い。防御の体制を取るより早く彼女の柔肌に赤き花が刻まれて行く。
普通の人間であればゴブリンの集中攻撃を受ければ一溜まりもないだろう。
「このスマッシュでオダブツだぜ!」
リーダーの痛打がシエラの身体に打ち込まれた。
「痛……っ!!!」
アガットの赤を地面へ滴らせながら肩で息をするシエラ。
さりとて、少女のシリウス・グリーンの瞳は輝きを失っていない。
「ここは必ず防ぎ切る、それが私の役目!」
手を大きく広げ空きを作り防御の盾へ。仲間を信じているからこそ出来る戦術。信頼の証。
●
四音は目を細め攻撃体制から回復の手を選ぶ。シエラの傷は思った以上に深いと判断したのだろう。
黒き水底から這い出る禍々しい手がシエラの傷口を撫で上げ癒やしを施して行く。
「回復も出来るって便利ですねえ」
この身体がどの程度使えるのかを確かめるように四音は小さな唇に微笑みを浮かべた。
(そうじゃのう。この辺りならば届くかのう)
デイジーの紫瞳は仲間との距離を測り、流麗な動きで地面をスタッフで打つ。それ即ち仲間を勇気付ける鼓舞となるだろう。戦場の真ん中で耐え忍んでいる彼女の為に。僅かばかりで有ろうとも。
勿論、攻撃も忘れてはいない。蠢く足から湧き上がったアクア・ブルーの魔力が槍兵へと飛来し右腕が空中へ吹き飛ぶ。
黒き獅子の眼に矮小なゴブリンが写り込んでいた。
雷霆の巨躯と対比すれば細い腕に縮れた体躯なれど、目の前に立ちはだかるのであればそれは敵となる。油断は無く、全身全霊を持って打ち砕く。それが幾多の戦場を駆け、戦い抜いて来た戦獄獣の気概。
高まって行く闘志に呼応して、古傷から赤橙の焔が膨れ上がった。
「さあ、俺と殺し合え!」
下段から振り上げられる斧刃に肉が割かれ、絶叫を上げながら槍兵が事切れる。
しかし、まだ足りない。戦場にはまだ沢山の獲物が残っているのだから。
雷霆と向かい合う様にゴブリンを包囲していたリーゼロッテは矢を番え、なめし革を巻いた握りに力を込める。引き絞られた弦と撓る弓の均衡を保ちながらアティック・ローズの瞳は敵を見据えた。
リーゼロッテは代々優秀な武人を世に送り出している名門貴族の令嬢である。
一族が名門足らしめるのは日々の修行を怠らない実直な者が多いからなのかもしれない。
しかして、リーゼロッテはその退屈な日々に正直うんざりしていた。
毎日の様に繰り返される鍛錬。変わらない日々。好奇心旺盛な狼少女は外の世界に思いを馳せる。
だから、自分が特異運命座標に選ばれ空中庭園に召喚された時、彼女の景色は色づいたのだろう。
少女特有の可愛らしい誇りを胸に『アルテミスの弓』を掲げ、戦場へ急いだ。
銀の髪が風に吹かれ、静止する。
「そこですわ!」
退屈な日々はもうお終い。
弦音は心地よい振動でリーゼロッテの耳を擽り、ゴブリンの胴に中った。
ゴブリン達の切り裂きや串刺しは要塞と化したシエラに浴びせられる。
3体どころではない。何もない場所で名乗りと共に飛び出したシエラを邪魔者として認識した低能なゴブリンは、イレギュラーズ達の機敏な作戦について行けず目の前の彼女を殴るに至った。
その機微に対し、囲まれる彼女から1体でも多く敵を引きつける様に動いたのはヴェノムだ。
走り、触腕を使い飛躍し間に割って入る。
「まぁ、試金石としては手頃な感じっすか」
目の前に現れたヴェノムに剣を向けるゴブリン。この時点でようやく自分たちが囲まれている事に気づいたのだろう。
「な、何だ、お前タチ!?」
ゴブリンの剣はヴェノムに向かう。だが触腕の力で飛び上がった『bloodston』には届かない。
「気づくの遅すぎっすよ」
体重を乗せて肩口から身体を縦断すれば、血飛沫がヴェノムの白い肌に散った。
まだ息のあるゴブリンは恐怖から防御すらもままならず眼前の少女を見上げる。
その瞳は黒と赤。愉しんでいるかの様に口の端が上がっていて。
ゴブリンが最期に見た美しき狂気だった。
クーは優雅で綺羅びやかな美しい人魚に憧れた。
彼女達はキラキラと煌めいて、自分がそうで無いことに少しだけ嫉妬する。
けれど、空中神殿に呼び出され自分にしか出来ない事を見つけた。
一息つける居場所(とまりぎ)を見つけた。だから――
「み、水ん中や無くたって、頑張れるんやで!」
深海で止まっていたクー=リトルリトルはもう居ない。勇気と共に、地上へ舞い上がる。
仲間が攻撃している敵へ指先を合わせ真っ直ぐに。赤い流星が飛んでいくイメージを打ち出した。
小屋の明かりに照らされて、ゴブリンの内蔵が傷口から見えている。地面に仲間の血が溜まっている。
蛍にとって、初めての戦闘。初めての殺し合い。
心臓は早足で鼓動を鳴らし続けていた。
非日常が現実として押し寄せてくるのだから無理もない。
家族の元に帰る望みもあるのだ。初陣で希望が潰えるなんて冗談ではない。
それに、この手にはトトラ村の村民達の命が掛かっているのだ。
「守ってみせるよ」
ロングバレルが月光を反射してスッと光る。
引き金を引けば耳元で響く爆発音と身体が後ろへ押される感覚。反動で少し上を向いた銃口の先、蛍が放った弾丸が敵の命を奪った。
●
「ぐ、っ……!」
「シエラさん!!!」
名前を呼ばれたシエラの視界が揺らぐ。まだ、負けない。負けたくない――のに。
――――
――
「深淵より触れる。癒やしの抱擁」
四音は僅かに眉根を寄せた。
集中攻撃を受け続けているシエラの回復が追いつかないのだ。
敵の数はイレギュラーズを下回り順調に減っていくが、リーダーゴブリンの痛打がシエラの体力を大きく削り取る。流石はリーダーと呼ばれるだけの力はあるのだろう。
「バカでチビのうえ臆病者とは哀れな奴らじゃ、妾達は寛大故尻尾を巻いて泣いて逃げるなら見逃してやっても良いのじゃぞ」
中衛からデイジーの挑発がゴブリンへと降り注ぐ。
傷を追い逃げようとしていた槍兵の矛先が彼女へ向けられた。けれど、デイジーは動じない。
ディープパープルの瞳は敵の背後に迫る黒い獅子を信頼していたからだ。
デイジーに向かう槍兵に追い縋り、得物を振るう雷霆の姿は純真無垢なる戦闘狂。
もし、この場でデイジーが彼に殺気を向けたなら攻撃を受けてしまいそうだと思う程に、雄々しく清々しいまでの戦の獣。仲間であるのなら、これほど頼もしい者も居ないだろう。
「グギャ……」
デイジーの鼻先を掠め、槍がガランと地に落ちた。
その様子を見守っていたクーは魔弾の照準を他方へ変える。
雷霆が間に合わなければ、走り込んで魔力を放つ算段でいたのだが、杞憂で済んだのなら僥倖。
ミモザ・ゴールドの瞳を伏せ意識を集中させた。
リーゼロッテは予測出来ない動きで戦場を飛び回るヴェノムを赤い瞳で追う。家の中では絶対に見ることが出来なかったであろう未知の戦術。仲間と共に協力し敵を打ち倒す一体感。
外の世界はこんなにも自由で、鮮烈なのか。
放った矢は敵に中たり、戦力を削いでいく。
蛍はロングバレルに弾を装填しながら戦場を見渡した。残りの敵影はリーダーと負傷した槍兵、剣兵3体。
やれるだろうか。
この一撃を外したら、仲間がもっと怪我を負ってしまうのではないだろうか。
敵の斜め向かいにクーが見えた。
手が少し震えているように見えた。
蛍の手も少し震えていた。
(ああ、そうだよね)
きっと、同じ。
蛍もクーも初めての戦いなのだ。
怖くないはずなど、無いのだ。
お互いどちらともなく頷き、目標を合わせ。放つ。
●
剣戟は夜の牧草地に響いていた。
ゴブリンリーダー以外の敵影は残って居なかったが、シエラの体力も限界を迎えようとしていた。
肩で息を、口から血を流し立っている。
リーダーのスマッシュがシエラの身体を打ち、地面へ叩きつけられる衝撃に吐き気がこみ上げた。
仲間の声が遠く聞こえる。ここで倒れれば仲間に被害が及んでしまうだろう。
それを許せるかと自分に問う。
許せるのか。シエラ バレスティ。
答えは――否。
――――否だ!!!
可能性の箱を抉じ開ける。
シリウス・グリーンの輝きがシエラの身体を包み込む。
「はぁ……、はぁ……ここは、通行止めだよ!!!」
リーダーの前に立ちはだかり腕を広げるシエラ。
逃げる事なんて許しはしない。
ヴェノムは敵の背後に回り込み絡みつく様に身体へ取り付いた。
「シエラ先輩大丈夫っすか?」
パンドラを使ってでも立ち上がった少女にヴェノムは感心していた。この世界にはこの様な一瞬の輝きがあるのだと。刹那の闘争。可能性に溢れた戦場。倒れても尚、戦い続けられる”システム”に歓喜する。
ヴェノムから繰り出される剣は苛烈に秀麗。敵を切り裂き高く跳躍した『heliotrope』は星に踊る妖精の様だった。
クーはヴェノムが敵から飛び退くのを見計らって傷口を狙いルージュ・アルダンの魔力を叩きつける。
この位置からであれば悟られる事無く攻撃できると思ったのだ。
それは戦闘の経験の無い彼女が、この戦場で仲間の動きを見て得た物でもあるのだろう。
デイジーは温存していた魔力を呪文に込める。
小さき者と、か弱き者と呼ばないで欲しい。彼女には彼女なりの矜持があり自我がある。
普段は受け流している自分の中の恨み辛みを増幅させていく。
「素は基。内なる怨嗟。魂のイド。苦の鎖!」
憎悪を込めてデイジーは術式を発動した。
リーゼロッテの銀の軌跡は弧を描き蛍のペリドット・グリーンの残光が爆音と共に瞬く。
ほぼ同時に着弾した二人の得物はゴブリンリーダーの体力を削った。
より高みへ。強い者との死合いを。
そう思ったのは双色の血玉髄か漆黒の赤焔か。
雷霆の鬣が炎を上げ、眼前の敵に相対する。
実のところ彼にとって”世界の終わり”は問題では無いのだ。戦うことを是とし、熾烈を極めた戦いに重きを起き、死合いを至上とする。命の駆け引き、狂乱に満ちた一刻の遭逢。
そこには面倒くさい柵など無く、ただ只管に力のぶつかり合いのみが存在する。
身体の傷はそれらを刻んだ対価なのだ。
雷霆は斧を身体の前に構える。足のつま先が土を噛む。
閃光が放たれたように世界はゆっくりと進む。
重心を前へ。
――前へ。
「さあ、行くぞ!!!」
声を上げた雷霆の口元は笑っていた。子供の様に純粋な闘志で。
雷霆の気迫に気づいたゴブリンリーダー。
振り下ろされる殺意の込められた斧刃。
敵が剣を盾に雷霆の攻撃を防ごうとするも一足遅く。
ドス黒い血を撒き散らしながらゴブリンリーダーはその場に大きく倒れ込んだ。
「やった……やったよ! さよならゴールド無し生活!!」
言いながら後ろへ倒れ込むシエラを四音の骨腕が支える。
「ふふ、よく頑張りましたね」
命を張った輝きに慈しみと称賛を送る四音。自分の心を揺さぶる「物語」に目を細めた。
愛してやまない人と言うモノのクロニクルを間近で見ることが出来る喜びは、吐息が漏れるほどに甘美で味わい深いものである。そう、例えばこの戦場の発端となったネリー嬢の事とか。
「後でじっくりと、根掘り葉掘り聞かないといけませんよね」
カーマインの瞳を細めて微笑む四音の言葉に、今度はシエラが首を傾げる。
「ど、どう。上手くやれてた思う……?」
クーは小屋の中で大人しく見守ってくれていたヤギへ誇らしげに微笑んだ。
牧草地に広がるゴブリンの死体と血溜まりにシエラと蛍は少しばかり憂う。
これが戦場。命のやり取りなのだと。この世界で生きていく為の決意。
(でも、仲間がいたからこそ逃げ出さず最後まで戦えた)
蛍は感謝を胸に刻み、チャコール・グレイの瞳を上げる。
インク・ブルーの空には一際大きく――天狼星が輝いていた。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。如何でしたでしょうか。
少しでも皆様の物語に彩りを添えられていたなら幸いです。
MVPは危険を承知でゴブリンの前に出て、耐えきった鉄壁のシエラさんへ。
称号獲得
ヴェノム・カーネイジ(p3p000285):『双色の血玉髄』
雷霆(p3p001638):『漆黒の赤焔』
鶫 四音(p3p000375):『カーマインの抱擁』
シエラ バレスティ(p3p000604):『輝きのシリウス・グリーン』
リーゼロッテ(p3p004303):『銀の弓』
デイジー・リトルリトル・クラーク(p3p000370):『ディープ・パープルの花舞』
クー=リトルリトル(p3p000927) :『ルージュ・アルダンの勇気』
藤野 蛍(p3p003861):『ペリドット・グリーンの決意』
ご参加ありがとうございました。もみじでした。
GMコメント
はじめまして。もみじです。
皆様の物語に少しでも彩りを添えられたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
●目的
成功の条件は『ゴブリン』の壊滅です。
生死は問いませんが、しょせんは魔物です。後顧の憂いは断っておきたいものですね。
●ロケーション
田舎の村外れにある牧草地。といっても季節がら草はありませんが。
ともかく広いので戦うには十分です。
雪は多少ありますが、足場にも問題はないでしょう。
冬の夜。近くの小屋にあるたいまつの灯りで視界に問題はありません。
小屋からは、ヤギ達が見守ってくれているでしょう。
しばらく待っていると、ゴブリン達が襲撃をかけてきます。
●敵
ゴブリンという魔物です。それぞれ武装していますが、知能は低く連携は苦手と思われます。粗暴ですが、臆病です。
○リーダーゴブリン
周りのゴブリンより一回り大きいです。トゲのついた棍棒を振り回します。
・強力なスマッシュ、体当たりの攻撃を仕掛けてきます。
○短剣ゴブリン4体
・切り裂き、体当たりの攻撃を仕掛けてきます。
○槍ゴブリン4体
・串刺し、なぎ払いの攻撃を仕掛けてきます。
○弓ゴブリン3体
・矢を放ってきます。
●コメント
ギルドからの初めての依頼です。
仲間と力を合わせて頑張って行きましょう!
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