PandoraPartyProject
夢小説:天香
私の家系は代々は武官となるのが決定的なルートだった。だと、言うのに帝がお隠れ遊ばされてから、『巫女姫様』と呼ばれる美しい女王様が国を取り仕切る事になった(らしい)
巫女姫様は女性で、帝はお妃さまがいらっしゃらなかったことでお側に控える女房も少なかった。だからだろうか、広い間口で巫女姫様と年齢の近い女房を、とお声かけを頂いたのは。
「天香様……私が、巫女姫様の女房に、ですか……?」
「うむ。其方は巫女姫様と年も近く、巫女姫様にとっても過ごしやすいじゃろう? のう、遮那」
私を御所に呼び出した天香様――遮那様ではなく、長胤様だ――は背後で仕えていた遮那様にそう聞いた。
快活な笑みを浮かべた遮那様は「勿論です、兄上」と微笑みを浮かべている。その笑みが女房達にも人気な事は私も知っていた。
けれど――私はと言えば。
「何か解らぬことがあれば遮那に聞くとよい」
年の近い遮那様よりも長胤様に夢中なのだ。
彼はカムイグラの長きに渡る歴史に置いて、尤も栄えある天香家の当主様だ。
ルーツをたどれば私も……きっと、天香様の血縁になるのだろうけれど――そんなの、カムイグラでは多い話だった。
代々、天香家の姫様方は高貴なる家へと嫁がれる。そして、脈々とお家の力を広げているのだ。
それだけ大きなお家であると言うのに、権威は曇らず、それどころか、何時だって堂々とされる長胤様が私は好きだった。
好き、といっても遠巻きにお姿を見る事しか叶わなかったのだけれど――
けれど、巫女姫様付きの女房となったのならば、これからお会いする機会だって多い!
私は、遮那様にこっそりと言った。
「長胤様って何がお好きなのですか?」
「兄上がですか……?」
きょとんと、大きな瞳を瞬かせた遮那様は可愛らしい。長胤様とは実際のご兄弟ではないのだろうけれど、ふとした拍子に見せる凛々しさが私にとっては長胤様を思わせて、遮那様の事もとても好きだった。
ううん、と唸った彼は「あまり兄上とはそういう話をしないので」と困った顔をする。
「でも、どうして? あかねさん」
「その……できれば、長胤様とお近づきになりたくて」
こんなことを言えば、普通は権力者と仲良くなりたい悪い女の扱いを受けるんだと思う。
けれど遮那様は、純粋に長胤様と仲良くなりたいと感じて下さり、喜んでくださるから。
「なら、協力しよう。兄上が喜んでくれることを!」
「はい! 有難うございます!」
暫くしてから、私は巫女姫様の許へと参上した。それから、遮那様へしたのと同じように長胤様と仲良くなりたいと相談する。
不思議そうな顔をした巫女姫様は「天香と?」と首を傾ぐ。そうしておられる姿はとてもお綺麗で……。
私は、同性ながらつい顔を赤らめた。巫女姫様はとても妖艶で、お綺麗で、それから儚げだ。
「私は余り『此処』の文化には疎いけれど、貴族は皆、文でコミュニケーションをとるのでしょう?
愛しい気持ちも、恋しい気持ちも、それから、貴女の胸の内の気持ちだって――」
うっとりとするような声音で私にそう言った巫女姫様はあかねと私の名を呼んだ。
「ねえ、文にしてみましょうよ。あかね。簡単なものでもいいわ。
うふふ、小さな子供のラブレターなんかでも、素直な気持ちならばきっと、きっと伝わるわ」
「あの、天香様――いえ、長胤様!」
名を呼んで、驚いたように振り返った長胤様がこちらを凝視している。
そろそろ、巫女姫様の許へ行って御用を伺わなければならない、けれど、どうしても。
「その――巫女姫様や遮那様と話し合ったのです。
長胤様のお気に召すかは分からないのですが……その、文を作りました……!」
梅の枝に、小さな文を巻き付けて。精一杯の文は『花』を共に見たいという誘い。
貴方は、その文を真っ直ぐに見てから、ふ、と小さく笑う。どこかおかしそうな、児戯の様な恋文を揶揄うように。
「……まあ、悪くはないぞ」
ふい、と視線を逸らした貴方に、私は「明日も、明後日も、持ってきますね」と微笑んだ。
するとあなたは可笑しそうに言うのだ。
「返事を待っておれ」
そうやって、毎日、恋をするんだ
――嘘つきなんて、いわないでよ