PandoraPartyProject
2018
<シャイネン・ナハト?>
冷たい、冷たい、余りに寒い――
「輝かんばかりの、この夜に――か」
光の差し込まない、灯りの点らない、熱と言う熱の無い、何より人の目は決して届かない――
君の望んだ零下と雪の風景で、君は今年も眠っている。
「『聖女』ね。確かに君は間違いなく――美しく、正しかったんだろう」
此の世には己が為に世界を侵せる人間が山程居る。『人間ではないが』自身もまた同じ事。むしろその究極だ。
しかして、君はそんな人間の性(サガ)とも悪魔の合理とも全く別の世界に居た事は間違いない。
「僕ならば止められる――とか。何て無責任な話だろうね」
原罪を強いて定義するならば、『自由』という言葉が相応しい。
『自由』を持ち得ないからこそ――は、――で。僕はそれを何処までも許せない。
……全ての欲望に根ざす自由こそ、ヒトがヒトたる所以で悪魔が望んだ七つの罪である。その全てを併せ持ち、誰よりもこの――な世界に飽いている自分に事もあろうか――封印の守り人をしろだなんて。余りにナンセンスすぎて頭が痛い。彼女の願いをもう――年も叶え続けている自分自身には尚更吐き気がした。
――でも、貴方は私の友人です――
……馬鹿げた一言が呪いの鎖のように僕を縛っている。
そんな些細な切っ掛けが、遠い夜のやり取りが褪せない幻想のように蟠っているのだ。
君は妹に似ていて、同時に何処までも似ていなかったから。
愚かな僕はどれだけの時間が経っても感傷を捨て切れない。
まるでそれは深く刺さった棘のようだ。永久氷で出来た、細く鋭い透明の楔。
「……言っておくけれどね。君がもし、もしだ。本当に僕の友人なのだとしたらば」
――反転(きみのわがまま)で、僕は珍しい友人を長い間喪っている事になるんだぜ?
彼女は感謝を捧ぐ事が僕への祈りだと言っていた。
見事過ぎる程に上質な嫌味は、成る程。どれだけの時間が経っても僕を捕まえたままだ。
祈りが『神』に捧ぐものならば、全く悪趣味がピッタリ過ぎて――苦笑する事を禁じ得ない。
「人間は今年も――今夜だけは争わないそうだ。
君が全てを賭して叶えたかったのはそんなささやかな願いではないかも知れないけれど。
僕も今夜何かをしようとは思わない。それは正直、気分じゃない。
だから――きっと、うん。前言を撤回しよう。
やはり、『君の奇跡』はささやかなものではなかったんだろう。間違いなく」
輝かんばかりの夜は、記憶の中――したり顔で笑う君のもの。
吹雪が鳴る。その声色は「早く帰れ」と言っているようにも思え……
その逆の、「もう少しお話しましょう」にも聞こえなくもない。
「結論は手早い。悪魔は早々に退散しようかな。また会いに来るけれど――」
この先、どうなろうと――責めてくれるなよ、マリアベル。
「――僕は君の願いを叶えたい。
『シャイネン・ナハト』が永遠であるように、せめて力は尽くす心算だけどね――」
――実を言えば、この悪魔にも叶えられない願いは、ある。
嗚呼、そう。例えば『君の力』がこんなに大きくなっていなかったなら――
※シャイネン・ナハトが訪れ、混沌世界から殆どの争いが消えました。
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