PandoraPartyProject
2019
<シャイネン・ナハト?>
冷たい、冷たい、余りに寒い――
「変わらないね、この夜は」
近くて遠い、始まりにして果ての場所。原罪(つみ)と原罪(ばつ)が踊った古い、古い戦場で。
望みの静寂と願いの零下。純白以外を許さないかのような雪原で、君は今年も眠っている。
「一年振りだ。人間の時間の尺度で過ごしていると、時間が過ぎるのはこんなにも遅いものなんだね」
『始まりの日』以降、一変したのは混沌だけではない。
混沌の裏側を覗く終焉さえ、在り様はそれまでとは全く違う。
永遠を過ごし、悠久を支配する――冠位が陥落した事そのものが異変である。
望む望まないに関わらず、錆びた歯車が動き始めた最も明白な証明だ。
「ベアトリーチェは滅びてしまった。次はアルバニアが相手をするという話になっているけれど。
いや、彼はきっと上手くやるだろう。僕はそれを信じない位、薄情じゃあない。
愚かにして愛すべき――人間を過大評価なんてしていないんだ。
でも、でもね。同時に考える事もあるんだ。『そういえば君も人間だった』ってね」
君に話しかける無意味を僕は誰よりも知っている。
これは感傷的行為であり、きっと自傷的な行為でもあるのだろう。
僕の唯一の『友人』は凍り付いた時間の中で今夜もきっと遠い日を夢見ている。
君の夢が醒めない理由を、答えが返らない理由を僕は誰より知っている。
『そんなもの、これ以上無く――僕自身がそれをそうし続けているからだ』。
――でも、貴方は私の友人です――
「……どれだけ律儀なんだ、この僕は。
悪魔だぞ、悪魔。それも原罪だぜ、マリアベル。
君は――そんな大悪魔に一体なんて事をさせているんだ」
人間は自問自答するものだろうけれど――
無数に繰り返した遥かな夜の彼方。原罪を友人とした女に今も殉じ、報いている理由は分からない。
目覚めを執拗に要求する彼女を、多大なる力で抑えつけている理由は分からない。
「起きたいんだろう? 分かってるさ。
そんな目で僕を見るなよ。責めるなよ。
君じゃない君が、他でもない君が僕に押し付けた重労働だぜ」
氷の結界がバチバチと音を立てていた。
焦げた匂いに目をやれば『抑えつけた』僕の掌は焼け焦げ、傷付いていた。
「……………何て損な役回りだ!」
七罪(こどもたち)にさえ見せたい姿ではない。
論理的に考えて、封印(こんなもの)放り捨てるのが最良だ。
元より彼女の目覚めはそれ自体が僕の目的にさえ合致しているのだ。
その上で心のままに動くなら、僕はこの瞬間にもまた彼女と言葉を交わしたいとさえ思っているのに!
人心を惑わし、甘言を弄する悪魔自身がまるで自分を縛り付けている。
ただ、少しでも手を抜けば――こんなものそれで終わりだというのにだ!
――貴方に向ける私の『祈り』、よ。
破滅の夜に透き通ったその声が懐かしい。
長い黒髪の甘やかさが懐かしい。
懺悔はざんげに。イノリに祈るなんて勘弁してくれ――そう言いたい相手は眠ったままだ。
我侭な眠り姫の揺り籠の門番を、他ならぬ僕が今年も引き受けたままだから。
原罪(ぼく)は大きな力を聖夜(シャイネン・ナハト)に割いている。
「争いは今年も止まる。今年も止まった。
愚者も賢者も、愛も憎しみも今夜は我を忘れる事だろう。君は今夜も満足かい?」
輝かんばかりの夜は、記憶の中――したり顔で笑う彼女のもの。
悪魔とのゲイムで遥かな勝ち逃げを果たした彼女のものなのだ。
「きっと満足なんだろう。不満何て言わせない――
いや、僕はきっと君の口から責められる日こそを望んでいる」
起きたいだろう。起きたいんだろう?
それなら僕の手さえ振り払え。君の願いを叶える為に『全力』を傾ける僕の手を振り払ってくれ。
君の願いを裏切るのがこの僕でないのなら、君の願いを否定するのが君自身だったなら。
僕は遠い日の約束を守り切れなかった自分を許せるだろう。契約を破った悪魔の面子も残るだろう?
「君の最初の言葉は懺悔か祈りか……おやすみ、マリアベル」
潮が引くように鎮静化していく『力』を握り潰し、踵を返した。
何時かきっと言ってやるのだ。君との星霜の恨みつらみを、最上の親しみさえ込めて。
全部君が悪いんじゃないかと笑ったら、君はどんな顔をするのだろうか?
※シャイネン・ナハトが訪れ、混沌世界から殆どの争いが消えました。
『御伽噺』はこちら
※『黄金双竜』レイガルテ公爵の気まぐれでイレギュラーズ達に3000Goldが配られました!
あと聖夜の戦いも始まったらしいです。王様も何か始めたみたいです……