PandoraPartyProject
ロストレイン家の不正義
「――ですって」
くすくす、と。ジャンヌ・C・ロストレインが鈴鳴る声で笑った。
傍らのジルド・C・ロストレインは指先で地面転がる聖遺物の欠片を弄ぶ。
魔なる者を呪うが如き、主の御言葉を遂行する聖職者を燃やし尽くして灰となったそれを塵の様に放り投げて。
「『不正義』だなんて言葉、何と不幸なのでしょう。
お父様、神は私達をお認めにならないという事ですか?」
「ううん、ジャンヌ。神はこう仰った。
『我が子よ、隣人を愛せよ。我らが愛は主が与えた最も尊い感情であり、そして、最も罪深きものであると』」
「『そして、その愛が向くままに感情を動かしなさい。
人が認めぬと石を投げたならば、皆も石を投げ返しなさい。
異なる事を懼れてはなりません。神は誰をも受け入れる万能なる存在なのだから』」
朗々と歌う。
聖騎士と聖女。幸福であるべき二人は聖都フォン・ルーベルグにて囁かれる噂話を耳にして明るい月明りに隠れるように都を進んでいた。
「『サン・サヴァラン大聖堂』――そこに?」
「うん。現世と常世。その二つを刻んだ秘蹟。
魂は炎だ。ランタンに入れられ、その命を燃やしながら冥府の罪と罰の天秤へと導かれるのです」
朗らかな親子の会話。そこに潜む狂気は確かな気配を感じさせて。
「ランタンから魂が逃げ出して、月夜に踊るだなんて。
嗚呼、神は『お言葉を伝える』気になったのですね!
私が『聖女』にならなくとも、神が重い腰を上げ、お言葉を下さりさえすれば!」
「そう、皆が幸せなんだ」
月光人形を止めてはならない。
命が記憶の川を渡る前に戻り、主の言葉を届けるメッセンジャーになるがいい。
二人にとって聖都に渦巻く不穏は眼中にない。
只、幸福であればいい――主が『そう仰る』筈なのだ。
「さあ、ジャンヌ、もう行こう」
「ええ、お父様。お父様の気の向くままに!」
※聖教国ネメシスを不穏の影が包もうとしています……