PandoraPartyProject

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楽園の金林檎(イミテーション)

 太陽のゆりかご。大海原のバージンロード。
 三角定規の大行列がエクストプラズムを演奏すれば、ビスクドールを有する教会司祭の美しい流線型が星屑の迷子を迎えに来るだろう。
 ああ意味など無い。意味など必要ない。意味などあってはたまらない。
 ここは夢の園。現実を捨てた楽園。
 ケミカルの綿毛がユートピアのイミテーションを産出し、持ちきれぬエンドルフィンを神殿の大通りに花びらとして蒔くのだ。
 最終列に並ぶ君の影は星屑の呼び声をもってファストパスチケットを得るだろう。
 意味など無い。意味などあってはたまらないのだ。
 現実を捨てこちらへ来い。
 夢の中で生命を終え、夢幻のパレードに加われ。
 ユートピアは眠る者を拒まないが目覚める者を許さない。
 享楽は無限に続く。ゆめゆめ顧みるな。君の肉体に意味は無い。
 意味などあってはたまらない。
「パパ……」
 巨大な蓮の花びらが開き、創世の色をした瞳が薄く開いた。
 夜のような手がはえいずる芽のように沸き立っては掛け布団を払い、折れた手が順々に階段を作る。
 銀のトレーを手に現われた『パパ』は、階段を上って暖かいミルクと干肉を挟んだパンを少女へ差し出した。
「パパ……もうどこへも行かない?」
 ネメシスの神父服を纏った『パパ』は頷いて、トレーを少女に差し出した。
 差し出したまま、固まったように動かない。
 テレビノイズが走るかのように、『パパ』の身体と顔がかすんでいった。
「パパ……」
 遠い遠い昔話だ。
 ある町のある家庭の、平和が終わった日のお話である。
 母を早くに亡くした娘は、神父に育てられていた。
 神父は献身的で誠実で、町の人々の求めることはなんでもした。
 金を手にしたら必ず町の人々のために使い、明日のミルクとパンがあればそれでよかった。
 娘も同じだった。『パパ』さえ居れば他に何もいらなかった。
 けれど幸福が潰えるのは、ろうそくの火が消えるように唐突だった。
 町の求めに応じ続け、国の求めに応じ続け、身を捧げ心を捧げ、何も欲しなかった神父は過労に倒れ、娘一人が残された。
 世界の全てを喪った娘もまた倒れ、ベッドの中で新しい世界を夢見るようになった。
 夢は狂気の世界を生み、狂気が魔を産出したのは唯の結果であり、結論でしかなかった。
 娘は全ての不幸と全ての憎しみと全ての怒りを現実の枕元に置き去りにして、無限の夢へと逃げたのだ。
 誰が悪かった訳でもない。それは有り触れた不幸に過ぎなかっただろう。さりとて――

 ――まさに彼女にとっての『怠惰』こそ『強欲』であり、甘く蕩ける罪の果実に他なるまい。

 手段を得る事は幸福だ。手段を持つ事は不幸でもある。
 その願いを叶えようと思うなら、誰が永遠に眠っても構わない。
「パパ……おやすみ。もう、ミルクもパンもいらないわ」
 ここには全てがあるもの。
 娘は……『真なる夜魔』は、石の神殿の頂上で、枕と掛け布団だけを大事そうに抱えて、うっとりと目を閉じた。
 神殿を、夜色のローブを纏った信者たちが円形に取り囲む。
「「夢に永遠の幸福を」」
「「現実を捧げよう」」
「「ゆめゆめ顧みるな」」
 嗚呼、嗚呼。
 始まりが如何なとて、唯の少女の願いとて。
 うねり、律動する破滅の音色は彼女程純粋でも、怠惰でもない!
 ゆめ忘れるな! この望みには絶対的な天敵があろうという事を!

※天義にて狂信者たちが動き始めているようです……

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