PandoraPartyProject

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前夜

(また人が……)
 皇 刺幻(p3p007840)が視線をあげた、その先で。
「あら妖精さんだわ珍しい。小さいのにそんなに震えて小さくなって、寒いのかしら?」
 Luxuria ちゃん(p3p006468)が首を傾げた。
「妖精さん……震えてる……」
「泣いている?」
 ふらふらと姿を現した『花の妖精』ストレリチア(p3n000129)を見つけたフラーゴラ・トラモント(p3p008825)は、辻岡 真 (p3p004665)と顔を見合わせ呟いた。
 ストレリチアは血の気が引いた面持ちで、石畳の上に座り込む。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
 その小さな肩は、フラーゴラの言葉通りに震えていた。
「……妖精サン 泣イテル」
 慌てた様子のフリークライ(p3p008595)の後ろで、アト・サイン(p3p001394)が腕を組む。
「妖精郷のストレリチア、か」
「オッ、どうした。アルコール足りてねえのか?」
 覗き込んだのはグドルフ・ボイデル(p3p000694)だ。
「アル中ってえのは全身震えるんだとよ! ゲハハハ!」
「スベっておるではないか!!」
 咎めたのは生真面目なクレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)である。
「いや、だってよう」
(落ち込んでる女の子ってこう、嗜虐心をそそられるよねぇ、ウン)
 東雲・リヒト・斑鳩(p3p001144)が一つ頷いた。
 イレギュラーズの反応は、どこか呆気にとられたものだった。
 無理もないだろう。
 イレギュラーズ達から『花金のおっさん』等とあだ名されるストレリチアは、イレギュラーズの前では酒瓶片手に元気いっぱいなのが常だったから。

 この日、ストレリチアはアルティオ=エルムのアンテローゼ大聖堂で、ローレットの情報屋やイレギュラーズと共に、決戦の準備を進めていた。
 進撃するのは妖精郷アルヴィオン。
 魔種が蹂躙し、あり得ない筈の冬に閉ざされてしまったおとぎ話の国である。
 情報を整理する中で、偶然タータリクスの過去が明らかになった。
 一連の事件は魔種タータリクスが起こした事件であったが、妖精達がタータリクスと出会ったのは二十数年前に遡る。
 アルヴィオンから遊びに来ていた(当時まだ女王ではなかった)ファレノプシスとストレリチア達は、少年時代の――そして当時は善良であった――タータリクスに出会っていた。
 ストレリチアが女王にイタズラを仕掛けた際に、薬草をとりにきたタータリクス少年に見つかってしまったのである。
 つまり彼女等は幼い日のタータリクスと出会っており、それをすっかり忘れていたのだ。
 情報屋の調査で偶然それを知ったストレリチアは、己を責めてひどく落ち込んでしまった。
 だが実際のところ、タータリクス反転の原因はクオン等の策謀によるものであり、ストレリチア達になんら因果関係はない。
 だが『あの時』に軽率なイタズラなどしていなければ。
 もしも出会わなかったなら、妖精郷は平和なままだったのかもしれない。タータリクスもまた善良な人間のままで居られたのかもしれない。そう思えてならなかったのである。
 こうして失意のストレリチアは謝罪の言葉を口にしながら、ふらふらと外へ出てきたのだった。

「なんだ……このどんよりした雰囲気」
 と思ったが。なるほど。
 眉をひそめたアラン・アークライト(p3p000365)はストレリチアの姿を見つけると得心した。
「えっと……妖精の国で何かあったのですか?」
 驚いた様子で尋ねたエル・エ・ルーエ (p3p008216)は、その事情を知らない。
 話すのもつらいのであればあえて聞こうとまでは思わないが、ストレリチアがしょんぼりとしているのは純粋に心配だった。
「……今日はどうした、ストレリチアさん。えらく沈んでいるじゃないか」
 モカ・ビアンキーニ(p3p007999)も心配そうに駆け寄る。
「あら、ストレリチアちゃん……どうしたのよぉ、そんな顔しないの」
「おや、ストレリチア。何時ぞやの、キミが迷宮森林に現れた時以来かな」
「……何があった? ストレリチア? 謝るようなことはないと思うが?」
 アーリア・スピリッツ(p3p004400)、黎明院・ゼフィラ(p3p002101)、サイズ(p3p000319)もまた彼女に声を掛けるが、その反応は――顛末を聞いたアーリアはあえてそうしたのかもしれないが――どれもあっけらかんとしたものだった。
 イレギュラーズに囲まれ、ゆっくりと顔をあげたストレリチアは、何度か口を動かすとぽつりと呟く。
「みんなは、わたしを責めないの?」
「望むのであれば、責めるけど」
 武器商人(p3p001107)が飄々と応じ、アーリアはしゃがみこんで小さな妖精と視線を合わせた。
「……責めてストレリチアちゃんが満足するなら、沢山責めるけど……それで、なにか変わるのかしら」
 エルもまたストレリチアの頭をそっと撫でた。
「みんな、やさしいの……でもどうしたらいいか、わからないの」
 ストレリチアは俯いて黙り込む。
「そういう時はあれですよ、ストレリチアさん。
 吐いてスッキリするのが一番です。
 怒りも、罪悪感も、悲しみも、吐き出したらスッキリしますよ?
 それは貴女がいちばんよく分かってるはずでしょう。ほら、お酒とかで」
「ねぇ妖精さん、もっとたくさんお話してくれないかしら?」
「……妖精さんの力になりたい人、いっぱいいる……
 何があったか、ワタシよく知らないけど……
 話せそうだったら、話してくれると嬉しい……」
 そう言った正純とLuxuria ちゃん、フラーゴラに向けて、ストレリチアはぽつりぽつりと事情を話し始めた。
「ストレリチアさんの行いの何が、悪なのですか?」
「責める必要が微塵も感じられないわ」
 イロン=マ=イデン (p3p008964)とメリー・フローラ・アベル (p3p007440)が首を傾げる。
「責メラレル 受ケ止メル 責メル 求メル 違ウ 別」
 フリークライの言葉は、そもそもの心情の是非を問うものだ。
 ゼフィラも続ける。
「なんだ。キミとの出会いを切っ掛けに妖精郷について知ったという点では私もタータリクスも同じだし。
 何なら私は問題が解決した後で堂々と妖精郷を調査するつもりだけども。
 その結果妖精郷に被害が出たなら悪いのは100%私だし、そうなったら容赦なく殴るべきだと思うよ?」
「ゼフィラさんは、ちがうの。大丈夫な人なの」
「それは嬉しいけどね」
「責めれば問題が解決するわけでもないしねぇ」
 斑鳩も述べる。そんなことする気力があるならもっと建設的なことに使う。

「あらましは聞いてはおる。
 ……責めてどうなるものでもあるまい。と言っても、お主はそうは思わんよな。妖精よ」
 アーリアとクレマァダの言葉に、ストレリチアは再びぽろぽろと涙をこぼし始めた。
「なにもかも、わたしが、へんなことしなければよかったの……」
 ストレリチアはそう言えど、モカは思う。
 世の中、誰かが良かれとおもってやったことが、おかしな方向に転がることは良くあるのだ。
 その『誰か』に責任がある訳でもない。

「えとえと……っ。
 またまたですが水まんじゅう、いっぱい作っちゃったので……どうぞ、みなさん食べてくださいねっ」
 事情を察したアヤメ・フリージア(p3p008574)が、居並ぶ一同におやつを配った。
「大丈夫? お夜食食べる?」
「のんびり食べてくれ。食べれる?」
 シグルーン・ジネヴィラ・エランティア(p3p000945)とランドウェラ=ロード=ロウス(p3p000788)もまた、ストレリチアに金平糖を握らせる。妖精は笑顔の方が良いのだ。
「涙の流し方を忘れちゃったのかな?」

 そも。実際に何がどうして自身に責任が及んだか、ストレリチアは理解していないのではないか。
 そう考えたのはセレマ オード クロウリー(p3p007790)である。
 激情に浸る少女になど、付き合ってはいられない。
 ロジカルに考えれば、一連の事件にストレリチアとの因果関係はない。
 あり得ない『たられば』を考えて、勝手に落ち込んでいるだけではないか。
 ならば誰かが甘やかせばそれで良いのだろう。
 感心はむしろセレマに全く似なかったアルベドの作者にある。ついでに用事があるなら聞いてやるが。

「仕事でクライアントの不始末を責めるようじゃプロフェッショナルと言えまい」
 仮に不始末があったとしても、アト・サイン(p3p001394)の言葉は正しかろう。
「ここには責める人はいないよ……」
「オイオイ、まだわかんねえか。
 やらかしちまったならテメエで始末つけやがれってこったよ。
 それとも何だ、てめえのケツをこのおれさまたちに拭かせる気かあ? ゲハハハ!」
 フラーゴラとグドルフの言葉に、ストレリチアは涙を拭いた。
「むむ、よくわかりませんが、わかったのです。
 つまり、ストレリチアさんは悪い事をしたのですね?
 ならば、頑張らないとです。良い事しないとです。
 けれど、焦ると勘違いで悪い事を重ねちゃいます。コレ、ワタシの経験談なのです。
 何が良い事かよく考えて、ちゃんと分かったらビュバっと行動なのです」
 ぐいぐい迫るイロンに、ストレリチアが顔をあげる。

 心中を察するなどとは言えないが――
 シズカ・ポルミーシャ・スヴェトリャカ (p3p000996)は切々と述べる。
「過去は変えられません、変えられるのは未来だけ」
 未来を変えるために、イレギュラーズが居るのだと。

 泣きたければ泣けばいい。
 飲みたければ飲めばいい。

「ストレリチア殿。辛き過去に、一日くらい、一月くらい、あるいは一生くらい。
 拭えぬ後悔に泣きぬれて使い物にならなくなるのは、ままよくあることござる。
 されど今、そうではない自分であろう、というのであれば、それが人生はじめの一歩。
 ……その背中、押されたくあろうとなかろうと、仲間である拙者らが押すでござるよ」
 観音打 至東(p3p008495)もまた述べる。
 イレギュラーズは口々に伝える。過去が変えられぬ以上は、前を向く他ない。
「済んだことは気にしても仕方がねーのさHAHAHA!」
 郷田 貴道 (p3p000401)の言葉は正しい。
「……そういうときは、いつも通りに「あの野郎しねなの!!!」などと叫んで酒でも呑めばいいだろう。
 むしろ、お前はそういう妖精だと思っていたが」
 夜式・十七号 (p3p008363)の言葉に、ストレリチアの顔がほころんだ。

 そして感情を吐き出すことも大切だとヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)も述べる。
 だから猫を愛でるのもおすすめだ。
「猫いいよ猫ー」
「……しっぽ、もふもふすると……心落ち着く……かも」
 フラーゴラがストレリチアに尻尾をかかえさせる。
「おちつくかも、なの」
「要するに飲んで酒に流せば良いのでは?」
 貴道が端的に正答を述べた。
「お、酒を用意するかぃ? ミルク酒でいい?」
 武器商人がくすくすと笑った。

「お話の景気づけによろしければ……」
「やはり宴会、か。マリアも、参戦しよう。まずは、飲め」
 小金井・正純(p3p008000)とエクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)が、酒瓶を横に置く。
 ストレリチアはイレギュラーズの話にじっと耳を方向け、泣をふいて微笑んだ。
「みんな、へんなの。おさけのむの?」

「あら、お酒!? それならいいのあるわよぉ、とっておきのヴォードリエワイン!」
「タダ酒ならいくらでも付き合うぜ」
「"来"ましたね、酒盛りの時間……!(!?) さあ、地獄の始まりですよ……!」
「エルはまだ大人ではないので、ジュースを飲みます」
「なんだ、酒盛りでもしてんのか?」
 イレギュラーズの人だかりをマカライト・ヴェンデッタ・カロメロス(p3p002007)が覗きこむ。
「キミら、さては呑みたいだけだな?」
 ゼフィラが笑った。
「……むつかしい話は終わりなのでしょうか?」
 十七女 藍(p3p008893)がひょっこりと顔を出す。
「あ、お話終わったみたいなので。お酒いただきますね」
 新田 寛治 (p3p005073)が現れた。
「まーこう言う時ゃ酒でぐっと流し込むのが、清濁併せ呑む大人ってもんさね」
 ヨランダ・ゴールドバーグ (p3p004918)がジョッキを担ぐ。
「女はたまにはばーんと戦って!それでその後飲むお酒は美味しいんだから、ね?」
 けたたましい音と共に、飛び込んできたのは笹木 花丸 (p3p008689)であった。
「反省している」
「ほぼ毎朝やってるという目撃情報があるんだが……」
 回言 世界 (p3p007315)の呟き。
「メイはお酒飲めないので、かわりに皆さんにお酒をかけるのですよ!」
 メイ=ルゥ (p3p007582)が瓶を手に持った。大変なことになってきたぞ。
 しんみりとした場は、徐々に雰囲気を変えてきた。アトもなんだかセンシティブな話をしている。
「よくわかんないけど、嫌な事を忘れるくらい飲んでべろべろになっても後始末ならまかせてね!
 あ、間違えちゃった。後片付け」
 タイム (p3p007854)さん、物騒ですよ!
「今夜も賑やかですねー」
 ピリム・リオト・エーディ (p3p007348)が呟いた。暑い夜だった。
(うわっ酒くさっ)
 茶屋ヶ坂 戦神 秋奈 (p3p006862)が、ちょっと引いている。
「泥の身にはいささか理解しがたい話であったが、宴が始まるというのならば一曲弾かせてもらおうか」
 マッダラー=マッド=マッダラー (p3p008376)がギターをかき鳴らして。

 ――おお~我らローレット~♪
   立ち止まらずに前に進むのものさ~♪

 宴の中で、クロバ=ザ=ホロウメア (p3p000145)が呟く。
「……何もかもあの男が悪いだけの話じゃないか。
 責があるのだとすればあの男を元の世界で殺せなかった、俺の責任だろう。
 だから君が責任を感じる必要なんてそうないだろう。すべては俺がつけるべき落とし前だ」
 どこかばつが悪そうな後ろ姿で……

「Nyahahahaha――涙を流す事。
 逸らしたのは何者だったのか。
 兎角。私からは何も言えぬ。言えぬが『頁』は捲られたのだ。貌(ジャンル)を問う必要はないな」
 オラボナ=ヒールド=テゴス (p3p000569)は、夜へと消える『ついで』に吐いて。

 ――例えそれがどれほど力に満ち溢れていたといえ、ヒトに出来ることは知れておる。
   それなのに、自分にはできたことがあったはず、と思ってしまう。

   その気持ちはなあ……わかる。
   わかるよ、痛いほど。

 クレマァダは天を仰いだ。

「ストレリチア、探したわ。こんなところに居たのね? 次回の作戦なんだけど……」
 そっと、特異運命座標に目配せしてから、フランツェル・ロア・ヘクセンハウス (p3n000115)はストレリチアの肩を指先でつん、と突いた。
「まだまだ大忙し、でしょう? 皆さん、ごめんなさいね。
 ちょっと私との先約があったの。
 アンテローゼ大聖堂で『ヒミツのお話』をしなくっちゃいけないから……。
 それじゃあ、おやすみなさい、また今度」

 ある者は酒盛りを、ある者は休息を。
 そうして決戦前夜の夜は更けていったのだった。

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