PandoraPartyProject

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夢の果て

夢の果て

 時計の針が進んでいた。
 刻一刻と等間隔を世界に刻む。何処であろうと誰であろうと。

 海洋首都リッツパーク女王の間。

 そこでは海洋の名立たる重臣たちが集まっていた。空の種も海の種も分け隔てなく。
 耳に届くはフェデリア海域における決戦、冠位魔種ならびに滅海竜との激戦の報告だ。
 それは第二十二回海洋王国大号令の顛末。
 死闘の果てに『絶望の青』の空は晴れ。
 奇跡の末に伝説は紡がれ――そして。
「そうか。海賊ドレイクは『先』へと進んだか」
「はい、海賊船ブラッド・オーシャンは一足早く彼方へ……先んじられましたね」
「よい。どうあれ滅海竜との戦いはこちらの艦隊に無視できぬ被害を与えておった……こちらが更に進むにしても立て直しの必要があったのだ」
 女王イザベラはソルベの報告を受け、さもありなんとばかりに呟く。
 記録によれば彼は『十三回』目の一人だ。言うなれば王国の先達者。
 我らより遥か先に絶望の青の先を目指していた――悲願を最も永く求め続けた男。
 ……くれてやろう。偉大なる先達よ、水平線の彼方に栄光あれ。
「しかし冠位はまだしも、まさか竜まで出てくるとはな。一片たりとも想像しておらなんだぞ」
「初撃でこちらの艦隊の二割が消し飛ばされましたからね……正に怪物でした。イレギュラーズ達がいなければ文字通り『全滅』していた事でしょう。そうならなかったのは……」
 命を賭して全ての命を繋いだ者達がいたからだ。
 水竜の出現、フェデリア海域に響き渡った『歌』、冠位魔種へと挑んだ者達……
 彼らの内一つでも欠けていれば第二十二回大号令は『失敗』と歴史に刻まれていた事だろう。
 またいつか、またいつかと夢見る日々に戻る所であった。
 イレギュラーズ――運命を覆す者達――

「――彼らに感謝を。海洋王国女王として、一人の海洋の者として」

 我らの悲願の成就は諸君らがいてこそ成った。
 今、報われたのだ。
 『絶望の青』へと挑み散って行った数多の海人達の全てが。彼らによって……
「しかし、僭越ながら女王陛下……まだ大号令の成功とは……」
「分かっておる。しかしな必ず『在る』のだ」
 ソルベの妹、カヌレの不安は尤もだ。
 大号令の成功とは『冠位魔種の打倒』や『滅海竜の封印』の事ではない。『新天地』の発見である。奴らを踏み越えたとて、この先に何も見つからねば全ては徒労となる。ただ只管『無』を求めていたという絶望が残るだけだ――
 だが、確信していた。
 本当に何も無いならば奴らが出てくる筈がないのだ。ああまで全力をもって妨害をする筈がない。
 あの『嫉妬』は本物だった。
 夢など希望など与えぬと、猛り狂い濁り切った地獄を見せてきた――だからこそ。
「新天地は必ず在る」
 その発見の栄誉は『十三回』に譲ったが。
 そこから先、夢の果ては我らが受け継ぐ。
 ――フェデリア海域の残存部隊を再編し先遣隊を繰り出して数日。
 間もなくだ。在るのならば、間もなくだ。重臣の誰かが固唾を呑んだ。
 時計の針が進んでいた。
 刻一刻と等間隔を世界に刻む。何処であろうと誰であろうと。
 この国そのものであろうと――今、全ての時計の針が進んでいたのだ。
 待ち焦がれた時は近い。喉の奥から恋焦がれた、絶望の果てには『希望』がきっと在るのだ。
 あぁ。
 はたして夢とは醒めるものか。
 それとも夢とは辿り着くものか。

「ほ、報告――!! 女王陛下、先遣隊より報告がッ――!!」

 女王イザベラは思い出していた。幼少の頃に味わったパイの味を。
 甘美なる味であった。忘れる事無き、王族に伝わる伝統の絶品。
 子供の心に輝いた至高……大号令の夢も、そうだったのだ。
 幼少の頃より夢見た悲願。父より母より教えられ伝えられた、水平線の彼方に在る夢。
 示した指の先にきっとあると信じた。子供の心にも瞬いた『浪漫』という名の甘美が――

「先遣隊は『絶望の青』を踏破! そ、その先に……我らの悲願が!!
 新天地が――発見されたとの報告が入りましたッ!!」

 今、此処に。
 ――世界に、新たな歴史が紡がれる。

新天地

 *海洋王国大号令が終了し『新天地』が発見されました――

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