PandoraPartyProject

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<Breaking Blue>

 ネオ・フロンティア海洋王国首都リッツパーク――
 イザベラ・パニ・アイスは『アクエリア』と名付けた絶望の青只中にある拠点開拓に送り出したイレギュラーズより『一つの幸運』の報告を受け、直ぐ様にカヌレ・ジェラート・コンテュールを王宮へと呼び寄せた。
「それで、何を致しますの?」
「ふむ、今日は『過保護な兄』は置いて来たのかの。良い心がけじゃ」
 頷いたイザベラは侍女にカヌレの身支度を指示した。美しき薄氷の如き肌を覆い隠すのは何時ものドレスではなく調理場にそぐうエプロンだ。カヌレは首を傾げ乍ら、侍女に身を任せ同じようにエプロンを着用した。
「お料理致しますの?」
「アクエリアの周辺掃討や拠点整備を経て、イレギュラーズ達が齎した福音は兄に聞いておるか?」
 カヌレは大きく頷く。イレギュラーズ達を中心に絶望の青の『アクエリア』では黄金の果実を発見するに至ったという。それはかの『呪い』に対する特効薬だ。――例え、それが小さく歪であれど、霊薬である事には違いない。
「それを、何……王家秘伝ではあるが、市井でも模倣のレシピが流行っておる物にし、イレギュラーズに振舞おうと思っての」
「王家秘伝……ああ! ベッツィータルトですわね! ふふ、とってもとってもピッタリで素敵です」
 ベッツィータルト。それはかつての女王エリザベスの得意料理にして、彼女が『ある男』の帰りを待つ際に彼の好物を作って待って居たという逸話がある素朴なアップルパイだ。その逸話が転じて航海に出た者の無事を願う陸(おか)の者が帰還を待ち作る料理となったらしい。
 陸より進むことは出来ず、その遥かなる海へと『送り出す』事しか出来ぬイザベラにとって、イレギュラーズという『協力者』へのせめてもの支援と願いを込めた料理なのだろう。調理場は女性の者だと言いつけられたソルベが料理経験のない妹を心配して外の廊下を右往左往している事もイレギュラーズへは面白おかしく伝えてやろうとほくそえんでイザベラは調理を続けた。

 青海と呼ぶには余りに昏く、重く伸し掛かる雲は進むべき道さえも覆い隠すようだった。
 それが『絶望の青』の後半。誰もが焦がれた先――女王は「進め」と号令を発するべきなのは分かっていた。
 座で凛とし号令を発することこそが王の尊厳であることをイザベラは知っていた。
 しかし、自身にできる事がないかと考えずにはいられなかった。
「のう、カヌレ」
「な、なんですの?」
 震える手で林檎に触れれば危なっかしくナイフを振り下ろす。そんな貴族令嬢を見てからイザベラは小さく笑った。
「喜んで、くれるかの?」
「ええ、きっと」
 まるで紺碧の海に星を結んだ星図の様に描いてきた航海の軌跡。その下に眠る悔悟を誰もが知っていた。怨嗟の如く、進む者の足を絡めとる者がその海には居る事も分かっていた。
 廃滅病(アルバニア・シンドローム)の進行を遅らせる事が可能であれど、その先に待ち受ける運命までは病を完治させるまでは変わらない。ただの、時間稼ぎでしかなく『完治』の為には大罪を打倒すしかないことを誰もが知っていた。
 だからこそ、女王イザベラはアップルパイで皆を激励し、あの紺碧の海へと送り出すのだ。

 ――後半の海へ赴け。そして、大罪『アルバニア』を盤上に引き摺り出すために大いに暴れてみせるのだ。


 ――海洋王国及びイレギュラーズの連合軍がアクエリアを完全に制圧しました。
 ――イレギュラーズの『廃滅病』が大幅に遅延しました。
 ――海洋王国軍の新たな作戦行動<Breaking Blue>が開始されました。

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