PandoraPartyProject
七罪語りき
幻想(レガド・イルシオン)が似合わない大団円と祝勝に沸く頃。
混沌の片隅、闇の領域。
誰の目も、光も届かない<終焉(ラスト・ラスト)>の片隅に『珍しい顔が揃っていた』。
「うーむ、全員おるのも久方振りですな。ざっと何十――はて、百年は超えておりましたか」
「いやぁね、ベルゼ―。ボケちゃったの? とっくに二百年は超えてるわよ」
天を突く角と竜翼を備えた紳士を女性的な風貌が特徴的な大柄の男が揶揄してみせた。
「いや、これは手厳しい。アルバニア殿は変わりませんな。相変わらず美容にも気を使っておられるようで」
「揃わなかったのはカロン坊やが眠ってばかりいたからでしょう?」
「……ベアトリーチェはすぐ猫のせいにするにゃ。協調性のないルストが悪いんだにゃ」
静かに言った黒いドレスの女に和装を纏った猫――そうとしか呼べない――は語るに落ちる反論をする。
「低レベルな話だな。私を付き合わせたいなら、もう少し己のレベルを上げたまえ」
横合いを水を向けられた複翼の青年はと言えば小さく鼻を鳴らし、そんな言葉を一蹴するばかり。
表面上が談笑の形を取っていようとも、まるでこの場は『煉獄』そのもの。
仮に世界の裏側に巣食う『魔種』なる存在を災厄とするならば、それはきっと黙示録のような光景だ。
身を浸したならば司教さえ信仰を捨て、聖女も姦淫するような。
悪徳の果て、異界の底、決して直視してはいけない絶対の冠位達がここに在る。
「相変わらずですわね。纏まらない連中は。さて、オニーサマ?
こうして私達を集めたのだから、いい加減お言葉を頂きたいものですわね」
「そうだ。いちいち勿体つけんな、イノリ。ぶっ殺すぞ」
「バルナバスは、本当に野蛮ですわねぇ」
機翼の少女は目を細め、隆々たる肉体を誇る青年は「お前もだ、ルクレツィア」とやり返す。
全員の注目を集める美しい男――イノリは、目を細めて好き勝手な一同を眺めている。
バルナバスの言う所の『勿体』をたっぷり嗜んだ後、彼は舞台俳優のように通る声で語り出す。
「君達兄弟が相変わらず仲良くやっているのを見て、安心したよ。
それはそれとして――今夜集まって貰ったのは『神託』の話をしようと思ってね。
神託(あれ)のフェーズに変化があったのは知ってるね?
一年程前になるか。特異運命座標の大量召喚が起きた。
この世界を『救う為』の可能性(パンドラ)はこれまでに有り得ないようなペースで溜まり続けている」
「滅びの運命(けってい)を覆す程に?」
複翼のルストが嘲笑混じりにイノリに問う。
「さあ、それは扉が開かなければ分からない。
だが、彼等が『この世界の悪足掻き』だとするならば――可能性はゼロじゃないんだろう。
僕は神(あれ)を心底信用しちゃいないが……
『誰かを犠牲にして永らえる』その合理性(いきぎたなさ)だけは疑えないからね。
彼等に関してはルクレツィアが詳しいんじゃないか?」
「ああ、そう言えばべそかいて撃退されたんだっけ?」
「オニーサマの言いつけを守っただけでしてよ!」
口元を歪めたバルナバスにルクレツィアが牙を剥いた。
双方で牙を剥く兄妹が些細な事で殺し合いに発展するのは日常茶飯事だ。
もっとも数十年、数百年に一度の大喧嘩を日常と称する事が出来るかは不明だが。
「喧嘩をしないの! ルクレツィア、アンタもレディなんだからそんな顔をしない」
双方を宥めるアルバニアに「苦労が多いですなあ」とベルゼーが気楽な言葉を添える。
「静かになさいな。イノリ様、お話の続きをどうぞ」
「ありがとう、ベアトリーチェ」。イノリは苦笑して再び口を開く。
「――結論から言えば、ルクレツィアの玩具(サーカス)は『あの』幻想で敗退した。
有り体に言ってしまえばそれは殆ど特異運命座標(かれら)の力と言えるだろう。
彼等と神託の力関係は未知数だが、僕達と彼等は相容れない。
世界が悪足掻きを始めたなら、そろそろその時は見えてきた――と言えるだろう。
僕達も大いに――大いに。この世界の全てを終焉の色に染め変えなければならない」
「嫌だにゃ。息をするのもめんどくさいにゃー……」
「君はそう言うと思ったけどね。だから君は君の好きな『あそこ』にしよう」
「てー事は俺は、『あっち』か」
カロンに応じたイノリにバルナバスが笑う。獰猛に。
「ならば、私は『あちら』だろうね」
「アタシはどう見ても『あそこ』よね」
ルストが鼻を鳴らし、アルバニアが頷いた。
七罪は全てを欲する。
終焉の望むのは些細なサーカスの芸等如き無い。この世界全てを各地を罪の色に染め、侵食する――
やがて来る最後の日の為に、それを為す為に産まれ落ちたのだから。
「細かい事はそれぞれに任せるけどね。今夜がその始まりである事は間違いない」
イノリは高らかに言った。
――罪の音色(いのり)を奏でよう。世界の懺悔を聞く為に。