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シャイネン・ナハトの伝説

「輝かんばかりの、この夜に!」
 それは、少なくとも今では無い――遥かな昔の『実話』であると言われています。

 冷たい北風が吹き荒ぶ、暗い冬の出来事でした。
 長い戦争状態にあった人々は、飢え、苦しみ、死に絶え、それでも殺し合いを辞める事は無く……
 ただただ、泥沼の悲劇を演じるばかりであったと言われています。
 最早人々の誰もがそれを望まず、兵士も、市民も、権力者さえそれに飽き。
 理由の全てを失っても、それでも振り上げた拳を降ろす術を持たず。
 誰もが、悪戯に意味のない犠牲を積み上げていました。

 暗い夜の出来事でした。
 何処にも救いは無い――暗澹たる世界に光が差したのは。
『聖女』と呼ばれた少女は、流麗な『悪魔』と長い話をしました。
「どうしたら、この争いを止める事が出来るでしょう?」
「何故止める。人間の業というものだろう? だから、彼等は――君達は人間らしい」
「沢山の人が犠牲になりました。もう戦いを望む者はいないのです」
 悪魔は鼻で笑います。
「ならば、止めればいい。少なくとも僕は――人間がそう信じ、そう決めた道を肯定しよう。
 何よりそれは人間らしく――同じく『要らないもの』である僕としては否定し難い。
 ……第一、君はどうして僕にそれを言う。解せないな、僕は不倶戴天の『悪魔』だろう?」
「貴方ならば、これを止める力さえ持つから」
「僕に戦争を止めろって? 面白い冗談を言うね。
 七罪を統べ、狂気の声で混沌に混沌を呼ぶこの僕に?
 要らないものとして切り離され、誰にも憎まれるこの僕に!」
「でも、貴方は私の友人です」
 全く馬鹿げた事に――人々の心の支えとなる『聖女』と世界の敵たる『悪魔』は友人同士でした。
 切っ掛けが何であったかは伝わっておらず、また大した意味も無いでしょう。
 唯二人は、雪の降り積もる夜――淡い月光の照らす聖堂で、こんなやり取りをする仲でした。
「力を貸して貰えませんか?」
「……言葉の意味、分かってる? 『聖女』が反転して――どうするのさ」
『悪魔』の声に耳を貸せば、大きな力が得られます。
 人の欲望を、人の狂気を――人の業を煽り、すがる者を破滅せんとす『反転』。
 それは、この混沌の禁忌であり、冒涜そのものです。原初の『悪魔』に際して尚、その声を意にも介さなかった『聖女』は全く、最もそれに遠い人物に他ならなかったのに。
「君は友人らしいから忠告するけれど――『反転』は都合のいいものじゃない。
『君のような人間なら』間違いなく大きな力を得る。ああ、君は戦争を止める力を持つだろう。
 だが、君の願いは正しい形では叶うまい。決してそういうものじゃない。過剰な力で皆死ぬ。
 ……まさかとは思うけど、それを望んでいるとでも?」
「いいえ」
 小さく首を振った『聖女』はこう続けました。
「簡単な事です。力を貸して欲しいと言ったでしょう?」
「言ったね」
「簡単な事だわ。願いが叶ったら」
「……」
「『私の』願いが叶ったら、貴方が私を――」
「言うと思った」と溜息を吐いた『悪魔』は苦笑いのままに言いました。
「悪魔に何て役を押し付ける」
「貴方に向ける私の『祈り』、よ」
「成る程、上手な嫌味だ。今後の参考にしよう」
『悪魔』は肩を竦めて諦めたように独白します。
「君の願いを叶えよう。やはり僕は、余りに人間らしい人間が好ましい。
 それに、君はどうしようもなく――放っておけない。きっと、全然妹に似ていないからだろうけど」

 暗い夜は輝かんばかりの夜になりました。
 その時起きた奇跡が如何ようなものだったかは不明です。
 しかし、暗い闇を切り裂いたその光は余りにも鮮烈で、人々は『聖女』が身を賭して争いを終わらせた事を知りました。
 ……『悪魔』の名は伝わっていません。しかし彼にとっては恐らく迷惑な事に……彼の事が伝承に伝わったのは、『聖女』がそれを遺文に残したからです。『聖女』からすればお礼だったのか、意地悪だったのか……答えは何処にもありませんが。
 毎年12月24~25日は混沌において戦いの禁じられる日です。
 幻想の勇者王も、鉄帝の皇帝も、厳粛たる天義の王も剣を置いたとされます。深緑に住まうとある魔女はヤドリギの木に祈りを込め、平和への願いの成就を祈り、輝かんばかりの夜に思いを馳せたと言われます。
 平和への祈りは、満願への成就にも通じました。
 やがて長い時が経る中で、輝かんばかりのこの夜は、願いを捧ぐ夜へと姿を変えました。ある者は己が冒険の成功を祈り、ある者は恋の成就を祈り、ある者はこんな夜(クリスマス)爆発しろと祈り――当時のままの魔女はヤドリギへと願い祈りし者たちの願いを捧げ続けました。
 さぁ、その願いが叶ったのかは分かりませんが魔女は言うのです。
「――願い祈りし者たちに祝福を与え、今日という日を幸福に満ち溢れさせるのです。
 きっと彼女が望んだのは――そんな優しい夜だから」
 その夜には祝福の星が煌き落ち続けます。旅人はその流星を雪のようだと称しました。

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