PandoraPartyProject
First Anniversary Contribution GMSS
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語彙力のないぱんどらぱーてぃーぷろじぇくと
黒筆墨汁GM
ヤガルデスがやべーっつってた。
ふつうヤバいつったら、『死ぬとか?』って思うじゃん。けど違う。もっとヤバい。
なんかもう終わっちゃうらしい。何がっていうか、全部終わるらしい。
だから、色んなとこからチョー呼ばれた奴らで、なんかすげー集めるって話。
こいつらまじヤバいよ。
まず呼ばれるトコロがすげーいっぱいある。
『え、外国?』とか思うじゃん。もうそんなんじゃない。もうなに、セカイからして違うらしい。
だから色んな奴いる。
ニンゲンじゃ無いのとかヨユーで、もうなんでもって感じ。
けどなんか、すげーしゃべれるやつばっかで、だいたいの奴はフレンドってる。
集めるのもなんかすげえよ。
まず目に見えない。なんかあるなーって感じのやつ、それがとにかくたまってくらしい。
なんかしてたらたまるらしくて、ぶっちゃけ何しててもたまるらしい。
だからそいつらマジでフリー。何しててもたまるから。
けどさ、フリーすぎたらなんかアレじゃん。
だからっていうか、そういうやつが居ないとセカイやばいからって、それっぽいギルドつくったんだって。
そのギルドがマジでハンパねえ。
どのくらいハンパねえかっていうと、なんでもする。
その辺のヤベえやつぶっ飛ばすし、メシ食うとこでバイトするし、孤児院焼くし、飛ぶし、落ちるし、もぐるし、頼まれたらだいたいやる。
だから、色んな奴いるよ。
悪いやつ許せねえってゆー、ジャスティスなソウルもってるやつとか。むしろ俺ワルだねってやつとか。なんかもーどっちでもねーやつとか。
けど頼まれたやるってのはマジだから、そこんとこだけは守る。
あとケンカとかよくねーってハナシだから、そういうのもしない。
でさ、そいつらに頼んでくるやつらもヤバいの。
金ちょー持ってるやつがさ、なんか気分で来んの。頼まれたらなんでもやるから、マジでなんでも頼んでくる。まーほんとにダメってカンジのは受ける奴がダメつってくれてるから、できるやつしかこねえけど。
けど頼んでることがやべえ。
その辺のやべえ奴をぶっ飛ばすくらいのはフツー。
孤児院とか焼くし。
飛ばされたり、沈められたりする。
ヤなやついるからコッソリぶっ殺しといてとか、フツーに言ってくる。
あとなに、プリン盗んだりとか。金とったりとか。
まーこいつら金めっちゃ持ってて、すげーズルいしアタマいいから、ワルいことしてもなんかこう、無かったこととかにできるっぽい。ほんとヤベーよあいつら。
でもそれが全部じゃない。他にもヤベーとこいっぱいある。
たとえばさ、なんかすげー神ってるとこあって。
どのくらい神ってるかっつーと、神ってねーやつはシメるくらい。
誰だって神ってねーことくらいあるじゃん。でもだめ、あいつらそういうの全部シメる。
だからチョーいいとこだと思うよ。みんな神ってっから。
道とかすげーキレイだし。金持ちもズルいこととかしねえ。
まあでもシメるとこばっか見えるから、キライなやつ多いよね。
ある意味いちばんヤベーっていわれてるし。
あとさ、すげえバトってるとこもある。
なんでもバトってる。まじツエーやつがヘッドってかんじのとこで、だいたいツエーやつがジャスティス。
テッペンとれっかなって軽くチョーシこいてっとすぐぶっ飛ばされっから。
けどいいとこだよ。みんなマジつえーし。嫌なことあったらとりあえずぶっ飛ばすから。
だからなんか、嫌なやつとかあんま見ねーよ。
まあでもとにかくなんでもぶっ飛ばすから。
ある意味いちばんヤベーっていわれてる。
それにさ、なんでも作るとこもある。
なんでもっていうと『テレビとか?』って思うじゃん。
そんなんじゃない。マジなんでも。
こう、神? が許してるやつぜんぶ作ってる。
逆に神が許してねえやつも作ろうとして、なんか神とバトってるかんじ。
すげーグルーブで生きてて、ファンキーなやつばっか。
なんかちがうセカイから来たっぽいやつばっかだから、すげー浮いてるし。
なんかヤベーもんあるなって思ったら、だいたいここの奴が作ってる。
気づいたらヤベーのがどっか行っちゃってたりするらしいし。
ある意味いちばんヤベーっていわれてる。
ついでに海すげーとこもある。
海すげーとこはとにかく海すげー。
海ってマジひろいじゃん? だからすげーじゃん。
でもそればっかじゃなくて、なんか海で? 悪いこと? してる? やついるらしい。
あと海すげーからやべー海のやつとか出るって。
けどなんかいい奴多くて、すげー海だなって感じのとこだよ。
ただなんかこのへんの海もヤベーくらいあるらしくて、どのくらいやべーかっていうとどこまであるかわかんないくらい。
マジでわかんなくて、ジャンプとかしても見えない。
ある意味いちばんヤベーっていわれてる。
あとなに、砂漠? みたいなのあったよ。
たしか砂とかすげーあって、なんか売ってるやつとかいて、けどあいつらあっちこっち行くの。
だからヤベーやつにやられたりするかもじゃん?
だからそういうのぶっ飛ばす係とか欲しいじゃん?
だからそういうやついっぱいいる。
みんななんかフリーなかんじするし、グルーブで生きてる感じあるよ。
あんまヤベーって言われねえんだけど、そういうとこほどヤベーのが隠れてたりするから。
ある意味いちばんヤベーっていわれてる。
あとなんかすげえ木? なところもある。
あそこはよくわかんない。すげえ木だなーってくらい。
なんか中にすげえいっぱい人がいるらしい。
どういう奴なのかわかんないけど、木の中にいるし木とか好きなんじゃね?
ヤベーふうに見えないけど、ぜんぜんわかんねーってのがまずヤバくね?
だからある意味いちばんヤベーっていわれてるね。
さいごなんだっけ。
なんかもうぜんぜんわかんねーとこがある。
とにかくわかんなくて、ヤベーのがあるってことだけわかってる。
たぶん世界ヤベーってのはここのやつのことじゃねーの。わかんねーけど。
だからいちばんヤベーって言われてる。
このくらいヤベーところで、ヤベーやつらがヤベーことする。
それがパンドラパーティープロジェクト。まじヤベえ。
ZANGE TYAN
茶零し(茶零四)GM
●空中庭園
朝起きた。意を決した。
必要なのはきっとそれだけだったんだ。男が向かう先は――神託の少女。
ざんげ。彼女の下である。
「頼む」
望みがあった。成したい事があった。それにはざんげの力が必要なのだ。だから――膝を付く。
「もう一度。俺に」
力をくれと。もう一度の機会をくれと言葉を紡ぐ。
力強い眼差しだ。これはとても断り切れない。いや、最初から断る気はないのだが。
それでもそれはそれとして意思は感じた。だから、ざんげは。振りかぶって――
ハンマーで頬を撃ち抜いた。
「――あふぅッ、ん!!」
左だ。左だった。左頬が撃ち抜かれて思わず頭部が――自身から見て右方向へと回転する。半回転程した所で全身を地へと強打。うつ伏せの様な状態で地を舐めれば、ざんげはハンマーを遠くへ放り捨てて。
「で? 満足でごぜーますか?」
「あぁ~……うん。いいよバッチリだざんげちゃん! ありがとう! また忘れたよ!」
自身が得たはずの技能が記憶からさっぱり失われている。これだよこれこれこの感覚。もう非常に形容しがたいこの感覚! うーむさてさて己は一体なんの技能を所持していたのだったか。ゆっくり思い出さねばならない。近接? 遠距離? 付与? さてなんだったか……
左頬をさすりながら帰っていく男の背を遠目に、ざんげは吐息を一つ。
……最近やたら多い。いや、分かる。このハンマー自体に力があるのは己にとってもよく分かっている。有用性があるのも。だから時々この力の効果を求めて客が来るのは理解できるし、別にそれはいいのだが。
「ざんげさん! すみません、今日もお願いします!」
「……おや? 貴方は昨日もやらなかったでしょーかね?」
疑問視すべきはリピーターがいるという事である。なぜだ。
先程のは歴戦の面影を伺わせる屈強な男だったが、次は少年とも言うべき年齢の男の子が目の前にいる。いや、イレギュラーズであるのならば年齢などさほど重要な要素ではないと、分かってはいるが。
「しかも持ってきたのは……こっちの方でお間違いなく?」
「はい! それで! それでお願いします!!」
満面の笑顔で――『ざんげハンマー2』と書かれた巨大鈍器を持ってきた心理はよく分からない。いいのか。今から振るうのだけれども。いいのか。本当にいいのかこれで。
「…………」
吐息。音は立てずに、しかし確かに深い息を一つ吐いて。
大上段の構え。期待の目に輝いている少年の頭を上から下に。ぶち抜いた。
「うぐ、ぁ!」
しまった。思わず力を込め過ぎたか? 地上に走るヒビが衝撃を物語っていて――
だが。
「う、ぉぉ……あ」
少年は、額から血を凄まじい勢いで流しながらも立ち上がって。
「ありがとうございました、ざんげさ――ん!!」
感謝の意を述べて、走って立ち去る。
イレギュラーズだ。色んな者はいる。特に大規模召喚が行われて以降は人数も増えているのだ。だから、だから――
「ざんげちゃ――ん!! 俺も! 俺も殴ってくれ――!!」
「待て俺が先だ!! 俺が先に殴ってもらうんだ!!」
「ざんげちゃん! これじゃなかったんでもう一回頼むッ!!」
「ざんげちゃん――! 蔑んでおくれ――!! 見下した眼差しをくれ――ッ!!」
――波の如くハンマーを持ちながら押し寄せてくるイレギュラーズがいてもおかしくないのだ。ていうか最後の奴。お前なんだお前ホントなんだ。なんなんだ!
「一列に並んでくだせーますか」
しかしざんげは動じない。真っ先に突っ込んできた奴のハンマーを奪い取り、捻りを加えて打ち倒せば。
「一人ずつやっていきますんで」
打撃音。殴打音。肉塊が築かれる音。ハンマーが投げ捨てられる音。
「次」
あぁ――今日も今日とて死屍累々。
空中庭園は時折こうして一日が過ぎて往く――日もあるかもしれない。
事実か否か。それはハンマーを手に彼女の下へと向かえば分かるだろう。
或る夏の日の二人
澤見夜行GM
●或る夏の日の二人
ある良く晴れた日のこと。
珍しく人のいないローレットの中を黒衣に身を包む情報屋『黒耀の夢』リリィ=クロハネ(p3n000023)が、何かを思い悩むように歩き回っていた。
「困ったわ……うーん、困ったわね」
口に出して困ったアピールをしたところで、聞く者はいない。
――こんなときにユリーカちゃんセンパイがいれば――なんてことを考えるも、ユリーカは情報を集めに外出中だ。
さて、本当に困った、といったところでローレットの扉が開く音がした。
「こんにちは~。……あれ? リリィさんお一人ですか?」
「ラーシアちゃん! 良いところに!」
リリィはパッと顔を明るくして、ラーシアに駆け寄ると、がっしりとその両手を掴む。
「へ? あ、あの、なにか……?」
「さあついてきて! 善は急げよ!」
「あ、あの私、書類を提出しに……ひゃぁ~」
あれよあれよという間にラーシアはリリィに引っ張られ今来たばかりの外へと連れ出されるのだった。
日に日に激しさを増す陽光が二人を照らす。
白々とする街並みの中、二人は連れ添うように手をつないで歩いていた。
「はぁ~、それで今度は何ですか?」
「ふふふ、人助けよ――人? うーん、違うわね? いや、あってるかしら?」
「はあ?」
二人は揃って首を傾げる。会話がかみ合っていない。
「もう、わかりましたよ。ついて行きますから、そろそろ手を離してくれませんか?」
「あら、ごめんなさいね。ラーシアちゃんの手が柔らかくてついつい、ね」
屈託なく――少女らしさを取り戻したように――笑うリリィにラーシアも強くは言えない。年齢的には間違いなくラーシアが年上だが、どうにもリリィに対して同年代と同じように接してしまう。リリィの持つ大人びた態度がそうさせるのだろうか。……自他共に子供っぽいとは見られない(主にバストが)ラーシアは、年齢不詳だ。
「それにしても暑いですね……日に日に陽射しが強くなっているような……」
「今、そんな格好で暑くないのか? って思ったでしょう?」
「あ、いえ、そういうことは……」
「ふふ、まあこの陽射しの中こんな黒い格好してたらおかしいですものね。けど、これが私のあいでんてぃてぃーなのよ!」
ビシッとポーズをつけるリリィは些か中二病をこじらせている気がしないでもない。
しかし、一体この少女はいつからこんな格好をしているのだろうか。ふとラーシアは疑問に思った。
その疑問は同じハーモニアとして森での暮らしを思い出せばついて沸いてくる疑問だろう。深緑――森の中で目立ち、動きにくそうな格好をしていればイヤでも好奇の視線に晒されるというものだ。
街の外へと向かって行くリリィに、思ったままに疑問をぶつけると、
「んー、そうね。……目的地まではまだかかるし、ちょっとだけ昔のお話をしましょうか」
そう言ってリリィは静かに語り始めた。
――ギフト『夢境界』。
その力をリリィは物心ついた時から身につけていた。
夜ごとに見る夢。それが現実に起こる出来事、事象なのはすぐに気づくことができたという。
けれど、子供の言葉に耳を貸す者はいなかった。ただの妄想だと決めつけられ、その話が事実として起これば偶然だと切り捨てる。
家族にすら信用してもらえない、その事がリリィの性格を大きく歪めていく。
――早く大人になれば、きっと信じてもらえる。
その一心で、大人びた態度を取るようになり、肉体もそれに呼応するように大きくなっていった。
けれど、容姿、態度が変わったところで、リリィの異能を認める者は身近にいなかったのだ。
「本当にショックだったわね。……誰にも信じてもらえないから、私もふてくされてね。夢の裏付けを取るんだけど、それだけ。それで起こる出来事には無関心だったわ。
一人で、起こった出来事を確かめて。ほら、やっぱりそうじゃないってね」
そうして幼少期を過ごしたリリィだったが、ある時、これまでにない程残酷な夢を見る。
リリィの住む村が魔物に襲われる夢だった。
この時ばかりはリリィも焦り、父に、母に、村中に伝えた。涙を流しながら懇願し、村の警備を増やすようにと頭を下げた。
だが、やはりその話を受け入れる者はいなかった。
ナリを潜めていたリリィの病気が再発した。村人達の評価はこれだった。
リリィは泣きながら駆けだして、家に置いてあった父が大事にしていた値打ち物の武器を手に取り、一人魔物を倒すのだと村の外へと向かっていった。誰も信用できない。ならば、一匹でも多くの魔物を倒して村を救うのだと。策などない、ただの子供が、癇癪を起こしたのだ。
「あはは、我ながらやけっぱちだったわね」
「それで、どうなったんですか?」
「無理に決まってるじゃない。魔物の鳴き声聞いた瞬間足が震えて動けなくなったわ」
苦笑しながら言うリリィは続ける。
――そんな時、あの人に出会った、と。
黒衣のドレスに身を包み、背丈に見合わない大剣を引きずる旅人。
武器を持って立ちすくんでいるリリィを見つけたその旅人は、「何をしてるんだ?」と尋ねた。声は凜とした女のそれだった。
藁にも縋る思いで、リリィは自分の見たものを打ち明ける。きっとこの人も信じてはくれない。そんな思いが胸中に宿りながらも、しかし必死に全てを話した。
話を聞いた旅人は、リリィの頭をそっと撫で、
「素晴らしい情報だ。それだけの情報があればどんな戦いでも負けはしないよ」
そう言って手にした大剣を肩に担ぎ踵を返した。
「どこへいくの!?」
「待っていなさい。悪い魔物は私が退治してあげるよ。……お礼はそうだな。その手に持つ武器を貰おうか。良い金額になりそうだ」
これは対等な取引なのだと、旅人は笑った。
自分を子供ではなく、大人として扱ってくれる。リリィはその事が嬉しくて、また思わず涙をこぼした。
「それで、その人は……村は大丈夫だったんですか?」
「ええ、その後少ししたら、魔物の頭を沢山持ったその人が帰ってきたわ。
そのまま村に戻って、大人達にお説教よ。あはは、あのときは本当に気分良かったわね」
リリィはそう笑うと、肩に掛ける鞄から一枚の羽を取り出した。
「それは?」
「……その旅人の忘れ物。私聞いたのよ、なんでそんな黒いドレスで戦ってるの? 戦いにくくないの? って、そしたら髪に挿したこの羽を私の髪に挿してね『それが私のアイデンティティーだからよ』って。
それだけ言ったら父さんの武器を持って行ってしまったわ。名前も聞きそびれたし、どこを拠点にしてるのかもわからない。でもとっても凜々しくて――そう憧れてしまうほどにね」
そう言ってリリィは立ち止まる。大きな木のそばに立ち、その羽を――黒い羽を空へと翳す。
「この羽を髪に挿して貰ったとき、あの時から私はリリィ=クロハネになったんだと思うわ」
「え、それじゃリリィさんの本名は――?」
「ふふ、秘密よ。――さぁついたわ」
驚くラーシアを尻目に羽をしまったリリィが木の上を指さして、
「じゃあラーシアちゃん、お願いね」
「ええっと……つまり?」
話が飲み込めないラーシアが見上げれば、そこには小さな子猫が枝にしがみついて震えていた。
「私、木登りは苦手なのよ……。ユリーカちゃんセンパイがいれば登らせたんだけど……。ほら、ラーシアちゃんも森出身で得意でしょう?」
「リリィさんも森出身ですよね!?」
本当にこの人は……。ため息をついたラーシアは、仕方ないな、と軽快に木に登り子猫を無事救い出すのだった。
「それで、用事はこれだったんですか?」
豊満なバストに顔を埋める子猫を見ながらラーシアが言う。
「ええ、ちょっとお昼寝したらそんな夢を見ちゃって、目覚めが悪いから早くなんとかしてあげたかったのよ」
難儀なギフトを持っているのは同情するが、良いように人を使わないで欲しいとラーシアは思う。
「はぁ……今度からはちゃんと言ってくださいね。あれ、でも人助けって?」
「ふふ、彼よ」
ローレットへ戻る道、その途中に何かを探す少年を見つける。
少年は二人に気づき――そして。
「ふふ、お困りかしら少年ちゃん」
得意げに話しかけるリリィと少年のやりとりを、ラーシアは微笑ましく見つめる。
陽光が照り返し肌を焼く。
リリィがその後どうやって街に出てきて、ローレットに情報を売り込むようになったのか、同じように森から街にでてきたラーシアには気になるところだったが、それはまた別の機会としよう。
――或る夏の日、二人の距離は少し縮まったのかもしれない。
狗刃の由来
稗田ケロ子GM
どうすれば貴方の様に強くなれますか。
テーブルの対面に座るブルーブラッド、エディ・ワイルダーは私の質問に目を丸くした。
「食事を奢るといったから何かと思えば、そんな事を聞きたかったのか」
私の様な子供に奢られるつもりなど元々無いでしょうに。それでも彼は私の質問に生真面目な態度で話しを始めてくれました。
「何故強くなりたいと思う。情報屋としてやっていけば、キミの様な子供でも食べていけるだけの収入は得られるだろうに」
彼の言う通り、ギルドに所属して働いていれば最低限の衣食住は保証される。しかし、私は――ボクだって男だ。『狗刃』と呼ばれる彼やイレギュラーズの様に、戦士として名を上げられるのならばいずれはそうしたい。無論、お金だってたくさん欲しい。その為だったら何だって出来る気持ちさえある。
それを崇高な目的の様に話すと、彼は分かってくれた様に頷いた。けれども、その表情は芳しくなかった。
「オレは他人に武芸を直接教授してやれるほど、強くはない」
謙遜の体裁でノラリクラリと躱すつもりなのだろうか。そう思って表情を歪めると、彼は「まぁ聞け」と制する様に口にした。
「だが傭兵として、決して弱くはないという自尊はあるつもりだ。経験談から話してやれる事はある」
私はそれを聞いて、大いに関心を唆られた。そもそも狗刃と呼ばれる彼 の経歴について、私は殆ど把握していません。情報屋としても、ボク個人としても彼の事を知っておきたかった。
是非とも。貴方が傭兵になってから、その名を上げたに至るまでを教えていただきたい。
私は出来る限り畏まった態度で頭を下げると、彼は苦笑をしながら頷いていました。私が畏まった素振りを取ると多くの人が苦笑するのは何故でしょうか……。
「そうだな。まずは、オレの事について話すとしよう。元々オレは幻想の生まれで、十五の頃に傭兵としてローレットのギルドへ入った」
傭兵となった理由は食い扶持が欲しかったのと、武装した傭兵の姿に憧れたからだ。そんな事を少し面映そうに話してくれました。
その頃から貴方は強かったのでしょ うか。そう質問を投げると、彼は首を横に振る。
「強盗に手慣れたチンピラの方がまだマシだっただろう。そういう意味合いでは、最初の頃はギルドの者達に助けられてばかりだった」
今の彼からしてみれば想像し難いものです。とはいえ、わざわざ嘘をつく話でもないのでそれは本当なのでしょう。彼は昔を懐かしむ様に話を続けました。
「先駆者の様に強くなろうと、不相応な武器を買ったりして形から入ってみたりもした。見よう見まねで同じ防具を付けてみたりもした」
その話に私も彼も、思わず少し笑みがこぼれてしまう。ボクだって先輩のシュウさんやプルーさんを見て、同じ仕事道具を買ってみた事もあるのだから他人事じゃない。
「そんな他愛も無い事を 続けている内に、ギルドで師と呼べる者を見つけた。高齢のブルーブラッドで、自分の子供か何かの様にオレを可愛がってくれて。仕事の合間に剣の使い方を教えてくれた」
その師というのにギルドで出会った記憶はないけれど、おそらくは彼が師と呼ぶに相応しい手練の者だったのでしょう。
「オレ以外にも彼を師と慕う者はギルドに多く居た。彼からは戦いの術、遠征時のサバイバル、金銭の交渉。数年に渡って傭兵としてのありとあらゆる事を師は教えてくれた。女の口説き方までは、教えてくれなかったが」
彼なりの冗談を交えながら、エディ・ワイルダーは師から教わった事を掻い摘んで私に伝えてくれました。その話から確信した事は、彼ら傭兵の生き残る術は一朝一夕に真似出来る事ではないという事。私の様な子供も弛まぬ努力を積めば傭兵の道も可能性があるという事。そして我々情報屋以上に、傭兵という存在が死と隣合わせという事。ますます彼らには頭が上がらない思いだ。
そして話の最中に気になった事がある。その師という方が今現在どうしているかという事だ。
彼の話し振りからして、ギルドでは会った事が無いはずだから、隠遁生活でも送っているのでしょうか。それとも職務上において名誉の死を迎えたのでしょうか。
彼が、エディ・ワイルダーがあまりに懐かしみ雑談の様に話すものだから、私も「その人って、今どうしてます?」と雑談の体で口にしてし まいました。
「死んだ」
後悔しました。
……イイヤ、傭兵という職業からそういう事があっても不思議ではないし、失言してしまった事に対してなんかじゃない……生真面目だけど穏やかな彼の瞳に、何か恐ろしいモノが入り混じっているのに気づいてしまった事です。しかも、その恐ろしいモノは自分にすら向けられているのではないか……そう感じざるを得ない様な、あの鋭い猟犬の眼……。
私が相槌に困っているのを見て、彼は表情を変えずに頷いてから話を続けました。
「……傭兵とは、命のやり取りをしているのだから敵に殺されるというのも常だ。だが彼は、同じギルドの仲間に殺されたんだ。しかもそれは彼を師と慕っていて、オレよりもずっと若い。キ ミくらいの年齢の子だった。師個人に恨みを持つ者に、その子は大金で唆されたんだ。戦いの最中に背中から刺され、呆気無いものだったよ。仲間を信頼していたから、その仲間から刺されるものだと思わなかったのだろう」
私は……ごくりと、生唾を呑み込んだ。よもや、そんなヤツと同じ様に見られているのではあるまいか……その予想が半分的中している事を示す様に、彼は遠回しな忠告を述べました。
「どのギルドにおいても掟として仲間同士の裏切りは御法度だが、それでも絶対に起こり得ないワケじゃない。それは情報屋に対しても言えた事だ。そしてギルドにはその裏切り者を捕らえたり、始末する事を自ら進んで受ける者が居る」
そこまで言われると、あぁ彼が『狗刃』 と呼ばれている由来がイヤな形で分かってしまいました。ローレットギルドの『狗刃』とはまさしく……。
……私は、気づかない内に怯えた様な表情を出してしまったのでしょうか。押し黙っていた私を、彼は本心から宥める口振りで、静かに頷きながら言いました。
「……キミがオレの手にかかるなんて事はありえない。そうだろう?」
それ以上、その場でお互い口を開く事はありませんでした。
……エディさんは私が思っていた以上に強い方だと思います。でも、私は彼の強さに近づく為に「何だって出来る」なんて言える気持ちは、少なくとも今はありません……。――柳田龍之介