PandoraPartyProject

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玉座の間にて

 イオニアス・フォン・オランジュベネが北伐を開始した――

 魔種たるかの人物の動きがあって幻想は再び戦火に塗れそうである。尤も、彼の動きは一度制されている。ここで再びローレットの助力も借りて撃退する事が出来れば、イオニアスに三度目はあるまい……だがもし仮にそうならなかったとすれば、この国に更なる災厄が降りかかることも想像に難くない所であるが。
「……正念場、と言った所ですか」
 部下より齎されたイオニアス一派の情報を『花の騎士』シャルロッテ・ド・レーヌは眺め、さて陛下へどう報告したものかと思案していた。多少善くなってきているとは言え王は王であり、報告した所で大概は『そっかぁ、大変な事が起こってるんだなぁ!』という感じの返答で終わってしまうのだが……
 まぁだからと言って報告に手を抜くのは性にも礼にも非ず。
 それに依然として自覚があるかはともあれ彼はこの国の頂点だ。ならばこの国で起こっている全てを知る権利があり、知るべきである。故に王の間の扉を開いた――その時。

「シャルロッテ、どういう事だ!」

 一喝する声が鳴り響いた。
 声は王――フォルデルマン三世に間違いない。が、
「なぜこんな事になるまで余に一切の話を伝えなかったのだ! 余は全く知らなかったぞ!」
「へ、陛下……!?」
「まさかこんな、こんな事態になっているとは……!」
 目を伏せ、眉間に皺を寄せて。嘆く様に感情を露わにしているフォルデルマン三世がそこにいた。
 その在り方に『放蕩王』などと称される姿は見受けられない。ああついに。ついにイオニアスの暴挙で国を想う君主の気質が露わとなったのか! 一刻も早く王の下に仔細を届けるという気概が湧かなかった、己の心情を恥じた花の騎士――であったが。

「――余の好物たるピーナッツバターが深緑から届かないとはどういう事だ! 深緑ミルク工房からのいつもの供給は!? あのまろやかな味わいがないと余は、余は――夜しか安眠できないんだぞ!? まぁ別に毎日食べている訳でもないが!」

 瞬間。この世のモノとは思えない程の凄まじい眩暈がしたので花の騎士は額を抑えた。
 倒れなかった事を偶には誰かに褒めて欲しいくらいである。ガッデム。
「…………んんっ。陛下、どうかご安心を。それは昨今深緑とラサで色々『問題』が発生している為でして……それらが解決すればまた全ては元通りになる筈です」
「うん? 深緑とラサ? って、何かあったのかい?」
「はい。昨今、色々」
 詳しく説明しても『そっかぁ、大変な事が起こってるんだなぁ!』で終わりそうなので省いたが、かの国々では『深緑の幻想種拉致事件』が相次いでいる。
 あくまで他国の事であるので自らの元には断片的な情報が舞い込んでくる程度だが……ラサに対し不信を抱きつつある深緑は、再び他国との交流を制限すべしとする機運が高まっているらしい。王のピーナッツバターとやらもその影響の一端だろう。単純に在庫切れかもしれないが。
 ともあれ向こうの件はイオニアスと異なり幻想に直接関係はない事件である。
 だがそれでも事態の推移次第では――例えば深緑からの物や人の流れが大きく変わる可能性もあるだろう。
 特に渦中の国である深緑とラサに関しては、その二国間でのみ繋がっている『特別な同盟関係』という糸も含めた全てが、だ。遥か過去から紐付いている積み重なりが崩れないとも――限らない。
(……聞き及んだ話では主犯格の存在に目星は付いた、との事ですが)
 花の騎士は思考する。サーカスから始まりここ最近は魔種の動きが強い、と。
 特に天義ではそうそう類を見ない規模の魔種達の暗躍があったばかりであり、イオニアス・フォン・オランジュベネに関しても魔種の一人だ。では――深緑とラサの件に関しても、もしかすれば『裏』に潜んでいるのは――
「……仮にラサの事態も『そう』であったのならば」
 ラサもまた彼らの力を借りる事になるかもしれない。
 滅びのアークを防ぐ為に活動している特異運命座標達。魔種の天敵と呼べる存在。
 ――ローレットの力を。



大規模な事件が立て続けに発生しています。
イオニアスの北伐を阻止するため、ローレットが動き出しています。
ユリーカレポート『ザントマン事件』が公開されました。

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