ヨシュア。
一つ、訊きたいことがある。仮定の話だ。
もしも君たちが現状を脱することが出来るとしたら、君は私の申し出に応じるかね？

……より具体的に言った方が好ましいだろうか。
もしも安定した衣食住と仕事のある場所が君たちに提供されるとしたら――私のことを信じて、手を取ってくれるかね？

おや、君もなかなか言うようになったな……。
生憎私は趣味の分野と瀉血の有用性以外のことには、極力柔軟性を持たせたい性分で――なんて、ね。
分かった。もしも適切な機会が訪れたら、君の提案も考慮に入れるとしよう。
……だが、現段階では仮定の話だ。余計な期待は抱かないように。

ところで今日は外が騒がしいようだ。
ああ、君が予想しているであろう通り、チョコレートの大袋を買ってきている。分けて食べるといい。

親愛なるヨシュアへ

御機嫌よう。
さて、いざ筆を執るとなると、どこから書き始めるべきか悩んでしまうが――。

楽しかった、な。
君たちと出会って、3年程が過ぎたのだろうか。
騒がしい君たちと普段の日々を過ごすのも悪くなかったし、君たちのためという大義名分で人を殺すのも愉快だった。
巡り廻る記念日を共に迎えるのも楽しかったよ。
グラオ・クローネや誕生日には、私にもプレゼントを貰ってしまったな。今でも感謝しているよ。
ファントムナイトも、実のところ、少しだけ楽しくはあったさ。少しだけ、だが。文句を付けようと思えばこの手紙10枚分は書けるのだが。

――面と向かって言うとからかわれてしまうだろうから、ここで伝えておく。
混沌に来て、初めに出会えたのが君でよかった。
ありがとう。

感傷的な文面を書き連ねるのも、そろそろ終わりにしておこうか。
私はこれから、終焉に抗う戦いへ向かう。私がそうしたいと考えているからだ。
あえなく戦死する可能性も、当然有り得る。
この手紙の裏面に、私の隠し財産の場所が書いてある。なに、人を殺しているとなかなか儲かるものでね。
私が帰ってこなかったら、好きに使うといい。
君たちは存外強かな人間だから、私の財産があれば生き長らえる道ぐらいは見つけられるだろう。

ああ、思いの外長い手紙になってしまったな。最後の用件を伝えたかっただけだったのだが。
そんなところだ。私が居なくなったとしても、それなりに上手くやってくれたまえ。

ルブラット・メルクライン