そちらの館はどうだ。
樫の実がそろそろ大きくなるころだろう。おれは相変わらずの風来坊。みやげ話なら沢山ある。

海洋で手に入れたうつくしい曲の楽譜と（――演奏は好むか？）、ほろほろとくちどけの甘い、豊穣の砂糖菓子を同封する。「落雁」というそうだ。淡い色合いの砂糖を固めて、花や鳥の姿にした菓子だ。口に合えば幸いだ。

アンタをどう、呼んでいいのか、迷ってしまうのさ、ヘレネ。
高貴の娘御でも呼び捨てるおれだが……ふと、嫌ではないか、と思ってしまってな。

この手紙が生活を彩る何かになることを祈る。

J.B

Jでいいさ、ヘレナ。後ろは、若かりし日に自分でつけた通り名だからな。おまけだおまけ。

今年の秋が実り多いものであることを願おうじゃないか。幻想の大地は疲弊している。出来るだけ、知る顔も知らない顔も満腹でいる方が気分がいいからな。悪党も腹が膨れてりゃ余計なことを考えないだろうし、太ってくれれば動きも鈍くなるってもんだ。

ピアノか。アンタが弾くなら、おれはギターをつま弾こう。歌い鳥のように清らかな声で歌うには年を食い過ぎたが、年を重ねた声も一部には評判だ。曲に合わせて即興の詩を諳んじることもできる。それで食ってるからな。会う日を待って、練習していてくれ。アンタが嫌でなければ、必ず、顔を出す。

体調が良くて何よりだ。そうでないと、なんだ、色々と……困る。
戦場での癒し手にはなれるが、根からの虚弱を治せるほどの医者じゃないからな。アンタが練達まで診察に行ければいいんだが、あそこは少々騒がしい場所だから、倒れちまうだろう。結局一番の薬は、慣れた場所で時折刺激を受けながら日々をゆっくりと過ごすことだと思う。おれのような流れ者には贅沢のような生活だがね。

この手紙が何かの暇つぶしになっていることを願う。
あまり愉快な冒険譚は聞かせられないが――まあ、いつか面白い物を見たら、詩の一つでも書いて送るさ。

それでは、アンタの日々が上々であるよう、知る限りの神々に祈りつつ。

J.B

（リンドウの鉢植えが添えられている）

ずいぶん間が開いてしまったな、すまん。練達国の方でごたごたがあってな。おれは無事だしお陰様で幸福だ。これは内緒だがな、あー、騎士ごっこなんぞやっていた。白皙の黒騎士だ。笑ってしまうだろう？

ギターは、まあ、普段はお上品なもんじゃない。酒場の酔いどれや、船の乗組員何かに聞かせるようなもんで……とはいえ、貴婦人向きの演奏ができないわけでもないさ、マダム。

そろそろそちらに向かおうと思う。二月にでも、時間があれば。

それと、最後に。新年おめでとう。あんたと領民の元に幸福が降り注ぐよう祈ってるよ。

こちらのの暮らしはどうだ。あまり、上品な場所ではないが。必要なものがあったら商人に頼もう。

今はちと、深緑で戦っているが。
すぐ終わらせて帰ってくる。

そして、ゆっくり話そう。おれに問い詰めたいことだって、まあ、色々あるだろうからな。

アンタの日々が健やかであるよう。
ヤツェク