「息災か」
当たり前のような顔をして臆面もなく顔を出した梅泉は何時もと何一つ変わらない。
「どの面を下げてそれを言いますか!」
牙を剥くように彼を威嚇する『親友』とどうしていいかオロオロとした顔を見せる『恋人』の両方を眺め、小夜は小首を傾げた。
六月の雨の日、外には天の涙が滴っている。不便な領地に彼が足を運んだ理由は分からない――
「安心せい。長居はせぬ。いいや、これは本来ならば文の一つも贈るが風流と言うものなのじゃが――」
梅泉の言葉の先は「主にそれは伝わらぬ」であろう。
盲目の小夜は誰かの介添なしに手紙を知る事は出来ぬ。そして秘める文はそれを余りに不都合にしよう。
「時濡れて
雨露に咲く
野薊と
紅紫の
あいらしきかな」
「――は?」
「邪魔をした。では、またな」
明らかに機嫌の悪くなった『親友』とやはりオロオロとする『恋人』の。
何とも言えない反応はさて置いて、察した小夜は自分の顔に触れた。
嗚呼、何だ。そう言えば今日は私の誕生日だ。
「そういうところよ……」
呻く自らが少々苦しい。
生娘じゃあるまいに――これじゃ私が可愛い野薊だわ。
2021/06/19 04:28:20