それはリュンヌ地区からの手紙だ。
エルスがネフェルスト郊外に領地を得てから、こうした郵便物が届くことは数多い。
内容は凡庸なもので、商業的な発展の進捗を知らせる物である。
だが手紙を読み終えたエルスは頬を薄紅に染めた。町の発展は喜ばしく、なによりあの方のお役に立てたことを実感出来たからだ。
手紙を仕舞おうとした時に、赤茶けた染に気付いた。
――それは……血痕。
手紙を読むために、ちょうど指で抑えていた所に――
その時、コウモリが羽ばたき暁暗の空へ消えた。
それがエルスの様相を観測し、恍惚の表情を浮かべる『彼女』の使い魔であることを、エルスは未だ知らない。
2021/01/19 05:31:15