PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

貴婦人と風来坊

関連キャラクター:ヤツェク・ブルーフラワー

騎士願望者の苦悩
『ヘレナ、元気にしてるだろうか? スライヤーから話は聞いてる。
 おれはアンタの娘との因縁に蹴りを付けてくるつもりだ。
 この戦が終わったら、俺を裁いてくれ。
 アンタは夫を奪い、娘を殺そうとするおれには、勿体ない女だ。
 裁かれるためにも、必ず生きて帰る』

そんなことを記した、たった一枚の手紙。
身体を大事にしてほしい、戦場から必ず生きて帰ると、そういう約束をした。

――そんなにも、母が恋しいのかしら? 愛しておられる?

『ああ、アダレード。おれはアンタの母君を心底抱きたいと思っているよ!』

 戦場で、盛大に、娘に向けて告げたその宣言は、今にして思えばあまりにも恥ずかしかったのではなかろうか。

――まぁ! 詩人とは思えぬ直接的な言葉だこと!
 血がつながらないとはいえ、娘に向かって言う事かしら!

 売り言葉に買い言葉。多分、そう言った類の発言だった。
 ――とはいえ、思い起こすとあまりにも恥ずかしい発言ではなかろうか!

「あああああああ」
 悶える、悶えるしかない。
 思い起こせば思い起こすほど、ヤツェクは戦場でのその発言に発狂したくなるのだった。

 だから――だから、約束を果たすつもりで呼び鈴に触れようとする手が震えるのはしかたのないことだ。

「いつまでそこで突っ立ってるんだい。ヘレナ嬢が待ってるよ」
 がちゃりと扉が内側に開いて、聞こえてきたのはそんな声。
「うぇ!?」
 大の大人にあるまじき声が出た。
「す、スライヤー! 心臓に悪いことをするな。止まったらどうする!」
「ははっ、そんなんで死ぬタマならあんな手紙寄越すんじゃないよ、ほら、お待ちだ」
 バシッと背中を叩かれ、ヤツェクは屋敷の中に足を踏み入れた。
「……ヤツェク、さま」
「……ヘレナ」
「御無事で何よりでした。あの、それで……」
 ホッとした様子で女が胸をなでおろす。
「……」
 ヤツェクは次の言葉を待った。
 けれど、その言葉は紡がれるには不思議なほど長く。
「……お話を、しませんか? 遠い異国で、冒険をされているのでしょう?」
 ――何かに曖昧に蓋をするように、ヘレナがそう言って笑って、スライヤーへ何かを目配らせするのをみた。
執筆:春野紅葉

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