PandoraPartyProject

幕間

雀の小話(おまかせ編)

関連キャラクター:ティスル ティル

甘くて優しい一休み

 幻想の国をぽてぽて、とことこと歩くティスル。
 ここ最近は様々な事件が起きては解決が繰り返されており、まともに休暇という休暇を取れていなかったのもあって、今日は絶対に休暇を取るぞ! と意気込んでいた。

 休暇と言ってもベッドの上でゴロゴロするのはもったいない。
 なので散歩にでも出かけて、目新しいものでも見つけるのもまた休暇の一つと言えるんじゃあないかと思い、幻想の国をお散歩中である。

「おや?」

 ふと、甘い匂いが何処からかふんわりと発せられていることに気づき、足を止めたティスル。
 平和な街並みの中に広がる甘い匂いは自然と人々を引き寄せ、いつの間にかティスルも同じように引き寄せられてゆく。
 気づけばティスルは露店のプリンを片手に、ベンチの上で座っていた。

 そっとスプーンですくい取って、口に入れるティスル。
 ふわりと口の中でとろけるプリンに舌鼓をうつ。

「んん……ほろ苦くて、それでいて素朴な甘さ……美味しい!」

 口の中に広がる卵と牛乳の優しい味と、カラメルによって引き起こされる大人の苦さ。
 つかの間の休息で見つけたご褒美は、予想以上に美味しかったそうだ。
笑顔の咲く場所
「あら、こんな所に公園なんてあったのね」
 買い物の帰り道、ティスルは小さな公園を見つけた。
 初夏の頃らしく木々は青々と鮮やかで、名前は判らないが小さな白い花が点々と咲いている。

 少し休憩がてらに寄っていこう。
 そう思いティスルはベンチに腰掛け、ティスルは改めて公園を眺めた。

 鬼ごっこをして遊ぶ子供たち。
 よちよちと歩いて母親の元へ向かう幼子。
 連れ添い歩く老夫婦。
 恋の噺に花を咲かせる乙女たち。
 エトセトラ、エトセトラ。

 この場所にはたくさんの笑顔と声が満ちている。それにつられてティスルの目元も和らいでいく。
 ゆったりとした時間が流れ、気が付いたら茜色に空が染まっている。
「あら、もうこんな時間なのね」
 ぐっと伸びをしてティスルはベンチから立ち上がる。序に欠伸を一つ。

 今日はいい一日だった。
 明日は何処に出掛けようか。
執筆:
善意を裏切るなかれ
 ギルド・ローレットに報告を終えた帰り道――その日、ティスル ティルは依頼を完遂させた足で、王都メフ・メフィートの通りを晴れやかな気持ちで歩いていた。
 多くの露店で賑わう市場通りに差し掛かると、ティスルは人々の活気に惹かれ、ふらふらとその通りを進んでいく。多種多様な品々が興味をそそり、ティスルは珍しい道具はないかと各所の露店を見て回る。
 ティスルは通りの隅で、遠慮がちに通行人に声をかける老婆の姿に気づいた。誰もが老婆のことをあえて無視しているのか、足を止める者はいなかった。
 老婆は荷物が満載された一輪の手押し車を移動させるのに手間取っているらしく、何度も傾きそうになる車体を必死に支えている様子だった。それを見かねたティスルは、老婆に声をかけた。
「おばあさん、大丈夫? お手伝いしましょうか?」
 老婆はティスルの親切に感激したようで、「すまないねぇ、お嬢ちゃん」と手押し車を支えるティスルに頻りに感謝を伝える。
 ティスル1人でも支えられないほどではない重量の手押し車に対し、ティスルは申し出た。
「どこまで行くの? 近くまでなら運んであげられるわよ?」
 老婆は最初こそ遠慮がちだったが、ティスルのやる気に押されるように荷物運びを託した。
「悪いねぇ……すぐそこまでで構わないよ、ついてきてもらっていいかい?」
 ティスルは老婆の頼みを聞くがままに通りから外れ、車体を押して人気のない路地の方へ進んでいく。
 何やら妙な雰囲気を感じたティスルは、老婆に目的地を聞き返す。しかし、その直後にティスルの嫌な予感は的中する。
 明らかにごろつき、浮浪者風情の男たちがティスルを挟むように前後に現れた。フードや巻いた布で顔を隠している風体からして、4人の男たちがよからぬ連中であることはすぐに察しがつく。
 ティスルは身構えつつも首を捻り、おおよその状況を理解する。
 ――んー? 私、いいカモになっちゃった?
 手押し車を支えるティスルには構わず、老婆はそそくさと男たちの方へ身を引いた。
「おとなしくしな。怪我したくなかったら――」
 男がその一言を発した瞬間、稲妻がほとばしる。雷の力をまとったティスルは、瞬時に男に向けて掌底打ちを放った。
 ティスルを脅した男は勢いよく吹き飛ばされ、全身を石畳の上に叩きつけられた。他の3人が怯んでいる間もなく、ティスルの攻撃は瞬く間に迫る。
 隣りでナイフをちらつかせていたもう1人の男の右手目がけて、ティスルは回し蹴りを放って弾き飛ばす。男が石畳の上を滑るナイフに気を取られている隙に、ティスルは更に襲いかかろうとするもう2人に向けて手押し車を勢いよく突き飛ばした。
 老婆は倒れ込むようにして車を避け、かろうじて巻き込まれずに済んだ。目の前に踏み込んできたティスルを見て絶望し、老婆は悲鳴をあげた。しかし、ティスルは老婆を助け起こしただけだった。それと同時に老婆が手にしていた杖を拝借する。
 杖を手にしたティスルは、すでにナイフを構え背後に迫っていた男2人に向けて杖を振り向ける。杖を剣のように振りかざすティスルの攻撃に翻弄され、男たちは呆気なく一撃で仕留められた。
 1人はミゾオチを強打されてうずくまり、もう1人は首筋を打ち据えられて気を失った。その拍子に、杖は完全にへし折れる。残る最後の1人は、手押し車と衝突した際に脚を負傷したらしく、片足を引きずりながらおびえ切った様子で逃げ出した。
 路地にへたり込んだままの老婆をティスルは見下ろす。
「まあ、勉強になったわ。こういう風に他人の善意につけ込む、あなたたちみたいな人もいるのね──」
 そう言って、ティスルはおもむろに老婆へと手を伸ばした。3人を討ち果たしたティスルを恐れた老婆は、悲鳴をあげて頭を抱え込む。しかし、老婆の予想に反し、ティスルはいくらかの金額を老婆の目の前に投げ出した。
「これで新しい杖を買ってね。勉強代も込みってことで」
 ティスルはその一言を残して踵を返し、他の男たちが起き上がる前にその場から立ち去った。
執筆:夏雨
色とりどりの楽しみ
「えーっと……今日はどれを持っていきましょうか?」
 リボンにバレッタ、カチューシャにヘアピン。
 ティスルの棚には髪飾りがいっぱいに詰まっている。
 髪色が変わってしまうギフトは、扱いが難儀な時もあるけれど――似合いそうな髪飾りを買い揃えるのは楽しかったりする。
 クローバー色のリボンで髪を結いて、鏡の中のティスルはにこりと笑った。
執筆:

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