PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

悍ましき現世より、愛を込めて

 目まぐるしい一日は終幕を迎え、深い夜が舞い降りる。
 もはや見慣れた寝室は、今日という日を機にいくつかの変化を経た。
 彼はその変化の中でも、書き物机に置かれた物品に目を遣った。仮面越しではない、一種の独特な憂いを宿した眼差しで。
 白の花。赤の花。
 それから、銀色のインク。
 何秒か見つめた後、彼は寝床にその身を横たえた。一時の旅を終えた身体は直ぐに眠りへと導かれる。

「主よ」
 夢現を彷徨う最中、彼の唇が微かに動いた。
「私はあなたに感謝します。こんな私に、人と出会いを恵んでくださったことを」
 ……けれど、その代価として私があなたに捧げることが出来るのは、ただ愛だけで……。
 混迷とした考えは、やがて微睡みに塗り潰されてゆく。まるでそれが■■の赦しとでも云うかのように。

 ……眠りに落ちる直前、一日の思い出がそっと耳に囁きかけるのを、彼は感じた。


関連キャラクター:ルブラット・メルクライン

おまえを独りになぞしてやるものかと世界は言った
「よっ、おかえり旦那」
 ヨシュアはルブラットを見つけると小走りでやってきた。
 茶色の帽子を小鳩のように傾けてはニヤニヤと笑っている。
「随分と大荷物じゃん。これ、どうしたの?」
 彼の言う通り、ルブラットの両手には様々な物がぶら下がっている。
 真紅の花に菓子包み。錠前のついた古書にツヤツヤとしたポスター。
 まるで統一感の無い雑多な荷物を両翼に抱えた白鴉の医者は、咎めるように声を出す。
「ヨシュア。これらは君の新聞から端を発して交換され続けた結果、私が得てしまった物質であり、その成れの果てだ」
「……本当に何があったのさ?」
 ヨシュアの質問に対してルブラットには答える術がない。
 短くて長い話になる、としか言いようが無い日なのだ。今日は。
「とにかく少し持て。このままではファントムナイトの二の舞になる」
「了ー解」
 いつもより少しだけ早口の『真っ白な先生』を見上げた新聞売りは、流れるような仕草で鞄から茶色の包みと白い花を取り出した。
「……今のは?」
 当然の如く服の袖へ突っ込まれたソレにルブラットは疑問を呈した。
「皆から感謝の贈り物。臨時収入もあったしな」
 晴れやかな顔で子供は笑っていた。
「流石に本物の水銀は無理だったけどさ」
「成程」
 月が皓々と道を照らしている。
「今日は鈴蘭の日だったか」

執筆:駒米

PAGETOPPAGEBOTTOM