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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

鬼の往く道すがら

関連キャラクター:日向寺 三毒

実りの秋

 ただ震えるばかりの冬が去り、植えた種が花開く春が来て、畑に緑が目立つ夏が来て、そうして隠れ里にも秋が来た。
 隠れ里のある山の木々は葉を赤や黄色に染め、山の恵を人々に齎している。
(昨年はどうしていたか……もう思い出せないな)
 イガ栗が目立つ木を見上げた満春は吐息を零した。それは諦観からのものではなく、安堵の吐息だ。
 昨年は――栗の木を見上げることも、落ちてくるのを楽しみに思う気持ちも無かったはずだ。里に集う人々の心に刻まれた傷は深かった上に、里が襲われたのもこれくらいの頃だ。守られたとは言え襲撃と門を焼かれた打撃は大きく、怯える者たちの心は萎縮した。実り落ちてくれば食料となる栗を拾うこともなく、ただ朽ちて土へと還ったような気がする。……気がする、なのだ。満春自身里長と忙しくしており、栗をどうしたかなどと気にかけることも無かった。
「満春、休んでいると栗ご飯はお預けだぞ」
「そうだぞ、満春。全部俺たちが食べてしまうぞ」
 いいね、そうしようか。ハハハと重なる笑い声が心地よい。
「休んでいた訳じゃない」
 しっかりと精を出していると眉を上げて見せれば、ドッと笑われた。
 里人もだが――里長も明るくなった。『喪われたあの頃』のようにとまでは言えはしないが、それでも歯を見せた大口で笑うことも増えた。満春はそれがとても嬉しかった。
「今日だろ?」
「ん、ああ」
 主語を抜かした言葉。けれども満春にも里人にもそれで足りる。
 ――今日は、『あの人』が来る。
 度々訪れてくるその人の訪いを、里人たちはみな楽しみにしている。
「そういえば……栗ご飯は好きか聞いた者はいるか?」
「……いや、聞いてはいないな」
「苦手でなければいいな」
「芋も用意しておくか?」
「そうだな」
 花壇を整備するために肥料を運んでもらったり、脅威がなくなったことから山を歩き回れるようになり腐葉土を多く得たため今年は畑の実りも良い。里の外に作った芋畑にはたくさんのサツマイモが蔓を伸ばしていた。
「栗ご飯も芋ご飯も具材が甘いから、塩を少し多めに入れて炊こうか」
 去年よりもずっと潤沢になった調味料を惜しまず使えるのも良い。
 汗を拭って笑い合う里人と里長の姿。
 空の青さと木々の赤や黄色。
 ああ、世界はこんなにも色で溢れていたのかと、季節が巡る度に満春は思い出す。
 春は美しすぎて涙がこぼれた。
 夏は畑の青々とした生命力に驚いた。
 秋は実りに感謝をし、冬は――雪の白さも美しいと思えるようになるだろうか。
「里長ー! 満春ー! 来たぞー!」
 栗を拾うのをやめて顔をあげれば、今日の門番当番が大きく手を振りながら駆けてくる。
 彼の後ろには大柄の――
執筆:壱花

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