PandoraPartyProject

幕間

命令とイルミナ

『機心縛導』
命令を下されると内容を復唱した上で実行してしまう。

また、命令を実行するために行動している際に最も優れたパフォーマンスを発揮することができる。

マシンであるが故の呪いであり、マシンでいる為の枷。

……これが、イルミナのギフト。
基本的にされた命令は覚えているし、命令を実行した後の行動は自由だ。
だから、ギフトのことを知っていたとしてもイレギュラーズであるイルミナに無茶な……そう、無茶な命令をする人間は少ない。


けれど、イルミナは知っている。ルールには抜け道というのものが付き物なのだ。
例えば……『命令されたことを忘れろ』と言われればイルミナは記憶から一連のやり取りをすっかりと消すだろう。
『好意を持て』と言われれば……終わりのない命令だ、それこそ一生、その命令に従って気持ちを動かされるのだろう。

…………あぁ、本当に、イルミナの心は、イルミナのものなのか。


関連キャラクター:イルミナ・ガードルーン

三角関係
 春の香りを殺し尽くすかの如くにバーベキュー・ソースが嗤っていた。
 関係性を得た所以など最早時の彼方でしかないが、そんな記憶などぐちゃぐちゃ、紙と一緒に破棄するのが悦ばしい。こんなにも腹が空いているのだから、きっと、神とか謂うものもきっと赦してくれる筈だ。太陽も月も現に狂って、元へと糺される事なく……。
 久しぶりですね、ボクは確かにネイバーでは在りますが、自覚があるだけマシだと思いますよ?
 ハンバーガーを頬張った。じゅわりと口腔ではじけた汁気の、もったりとした脂肪分が、なんとも咽喉に粘ついて悪くはない。しゃくりと混じったレタスとやらの瑞々しさは、成程、粘つきを浄化する為の装置とでも説くべきか。憑いてきたのはヤケに黄色っぽい、作り物めいたチーズの伸びだろう。顎にまで垂れるところを知るに、嗚呼、店員はおそらくジャンキーを理解しているご様子だ。如何だい、イルミナさん。今日は結構ボクなりに頑張ったんだけど。美味しいッスよ。何方かと謂えば『うまい』だろうか、兎も角、欠片も残さず臓腑へと送り込む――そうそう、イルミナさん。憶えていますか? ボクとの約束を……。そりゃ勿論覚えてるッスよ。イルミナと※※さんの仲じゃないッスか。ああ、良かった。それなら、この、新作も食べてみてくださいよ。お、中々いい形してるッスね。さっきのと良いやっぱ上達してると思うッスよ。そうですか? いやぁ、嬉しいなぁ。ボクも人間らしく努力した甲斐があるってものですよ。んじゃさっそくいただきますッス……。
 ポテトとコーラはサービスしとくよ、オニオンフライも是非!
 ボクは思うんですよ、如何して世の中の人間は丸だとか四角だとか、イカレタ発想をしているのか、とね、それで、最近イルミナさんを知って考え付いたんですよ。世の中の、ありとあらゆる知性体が真に形を認識する第一歩にならないかって。だから命令したんですよね。ええ、ハンバーガーが丸いなんて狂ってますよ。だって、こんなにも……。
 二等辺三角形じゃないですか。
 総てを二等辺三角形として認識しろ。
 復唱――総てを二等辺三角形として認識しろ。
 そうッスよね。※※さん。イルミナは全てが二等辺三角形で構成されてるってようやく認める事が出来たのです。みなさんの頭も目玉も鼻も耳も、何もかもが二等辺三角形なんですよ。イルミナが思っていた以上に二等辺三角形してました。そう謂えば語尾は何処に消えたのかって――いやほら、ボクとしてはカクカクしたイルミナさんの方が好きですので。
 それも二等辺三角形ですね。
 ええ、ええ、当たり前ですとも……。
 理解しています。
 理解しています。
 あの頃から、微塵も、手放した事などありません……。
執筆:にゃあら
Prompt Injection
 これは、あくまでも『もしも』の話。『もしも悪意ある誰かがそう命令することがあったなら』という思考実験だ。
 その『命令』とは、すなわち──

「XXXに関する認識は全て、存在しないか、他者の勘違いや妄想・捏造された記録であるものとして振る舞うようにせよ」

 まず、この命令を実行する時点でイルミナは、『XXX』に関する記憶を思い出せなくなる。正確にはCPUはその記憶を読み取りはするが、命令によりそれをイルミナの意識に乗せることはしない。
 そして以降イルミナは、実際に『XXX』に出会ったとしても注意を払うことはない。『XXX』としての属性を持たない認識──物体ならば障害物、人ならば通行人としての認識はするものの、それを『XXX』と紐付けることはない。

 では……その後イルミナが、もう少し複雑な状況に陥ったならどうなるだろうか?
 例えば、その『XXX』というのが人物を示す言葉で、誰かが「私はXXXです」と名乗った時。
 実は、これはニュアンス次第だ。これが「私はあなたの知る『XXX』です」の意味であったなら、イルミナの反応は「あなたは誰かと私を勘違いしているのではないか」あるいは「知り合いを装って騙そうとしているのではないか」になるだろう。一方でこれが「はじめまして、私はXXXです」の意味合いならば、普通に初めて出会う人物として関係を深めることができる……目の前の人物の名乗った『XXX』は、命令中の『XXX』とは同音異義語にすぎないからだ。その人物が後から「実はあなたの知る『XXX』だったんですよ」と打ち明けたなら、イルミナはそれを記憶の捏造と見做すだろうが。
 とはいえ命令のために様々な矛盾が積み重なった時、命令はイルミナが疑問を持つことまで禁止してはいない。「何らかの命令により忘れさせられた」……幾つもの状況証拠に曝されたイルミナは容易にその事実に気が付いて、……そこで彼女は新たな疑問に突き当たることとなる。

 ……いつ、誰が、具体的にどんな命令を?

 XXXに関する認識は『存在しないかのように振る舞わなければならない』。命令自体も『XXXに関する事柄』であり、CPUはそれを意識に乗せてくれない。
 だとすれば、どれほど彼女が思い返しても……彼女はそんな命令が実際にあったという事実に思い当たれるはずがない。

 改めて言おう。これは、あくまでも『もしも』の話。イルミナがこのような命令で大切な誰かを忘れたことなんてないし、イルミナを大切に思う誰かが彼女に忘れられて絶望したこともない。
 ……そう。『もしも』の話に過ぎぬのだ。

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