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幕間

03さんぽ

03さんぽ


関連キャラクター:チェルハ 03

星の楽園
 仕事の帰りだった。冬の名物とでも言うべきものだろうか――イルミネーションを目にした。
 普段から遊園地として運営されているところらしかった。昼間は老若男女の楽しそうな声で溢れるここは、夜はしっとりと落ち着いた空気で支配される場所に変わる、らしい。

 折角だからと遊園地の中に入ると、きらりと瞬く光が降り注いだ。頭上は星のしずくを思わせるような灯りが広げられ、植え込みには青白い光が灯され、足元を穏やかに照らしている。思わず、03はほうと息を吐く。

 星と雪で満たされたような場所を歩いていると、ちらほらと遊具が現れ始める。空に登る月の装飾がされたジェットコースター、天使が躍るメリーゴーランド、妖精が座るコーヒーカップ。遊具の一つひとつに施された意匠を眺めては、それが何を表しているものなのか思考を巡らせる。時折自分も遊具に乗っては、すぐ側で瞬く星に手を伸ばした。

 この遊園地のテーマに、特に明記されたものはない。だけどこの装飾達を眺めていると、「星の楽園」をイメージして作られたものなのではないのかと思うのだ。
 遊んでいる時間は、一時の夢。だけどその夢を壊さないように、この場所は作られている。現実に戻ったとしても、思い出が鮮明に生き続けるように。遊んでいたときはまさに「楽園」にいたのだと、確かに言えるように。

 良いところに来たものだ。03は口の中でそう呟き、再び星の世界に身を沈めた。
砂漠の朝焼け。或いは、変わったものと変わらないもの…。
●いつか見た砂漠の朝焼け
 夜の闇に紛れ、それはゆっくりと歩き続けた。
 砂漠の夜は酷く冷えるが、寒さなんて感じていないみたいな薄い衣を纏って、共も連れず、馬にも乗らず、どこを目指しているのかさえも分からないまま、砂漠を1人で歩き続けた。
 そうして、長い夜を超えて、もうじき朝が訪れる頃、それは古い遺跡に着いた。
 残っているのは、かつて家だったものの土台だけ。割れて散らばった家具の欠片や、折れた銅剣、槍の穂先に、損傷の激しい鎧だったもの。
 それから、すっかり白骨化して今にも砂に還りそうな誰かの遺体が、そこかしこに。
「ここには、どんな人が暮らしていたんだろう」
 死後、100年以上の時間が経過しているだろう。そこにかつて暮らしていた誰かの顔も、笑い声も、暮らしも、それからどんなことがあって、どんな風に死んでいったのかも、何もかも失われて久しい。
 ともすると、こんな場所に遺跡があることさえ今を生きる誰も知らないのかもしれない。
 
 地図には載っていない遺跡だ。
 遺跡に残った破壊の痕から、きっと大きな戦いがあったのだと予想できる。
「……人形?」
 チェルハ 03は、砂に埋もれていた人形をそっと拾い上げた。作ったのは子供だろうか。出来の悪い粘土で出来た人形は、チェルハの手の中で砂と化して形を崩す。
 また1つ、ここで生きた誰かの思い出が消えた。
 手の平の上に残った砂を見つめていると、乾いた風が吹きつける。風に運ばれ、砂はどこかへ消えていく。
 砂の吹かれた方向へ、チェルハはふと視線を向けた。
 東の空が白い。
 朝が来たのだ。
 夜闇が光に払われて、砂漠が白に染め上がる。
 こんな風にきれいな朝焼けを見たことは無い。
 そして、きっと……かつてこの地に住んでいた、今はもうこの世にいないどこかの誰かたちもきっとこんな風な景色を見たのだろう。
 朝日と共に1日が始まる。「おはよう」なんて、いつも通りの挨拶を交わして。
「おはよう。はじめまして」
 それから、さようなら。
 おやすみなさい。
 風に吹かれて消えていく、手の平の上の砂を見送りながらチェルハはそう呟いて。
 それから彼女は、また1人で砂漠を歩き始めるのだった。
執筆:病み月

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