PandoraPartyProject

幕間

やせいの リコリスが あらわれた!

関連キャラクター:リコリス・ウォルハント・ローア

リコリスサメ
 ネオ・フロンティア海洋王国、アクエリア島。
 総督府が置かれた場所から30km程離れた沖合がリコリスサメの群れの主な生息地です。サメは一般的には群れを作らない生き物として知られています。
 しかしリコリスサメは身体が人間の8ヶ月の子ども位の大きさしかなく、好奇心旺盛な性格が災いし、近寄った鰯の群れに追いかけ回されたり鴎に突かれたりする程、か弱いサメとして知られています。その為彼女らは群れを作り、自らの身を守っているのです。
 彼女らの容姿はとても特徴的です。人間の幼児によく似た顔に手足のように見える鰭がついています。この鰭を器用に使ってバランスを取り、彼女らは二足歩行を行えます。こうする事で天敵に追われた際も陸に逃げることができるのです。
 また、その体もあのホホジロザメにそっくりでこれはリコリスサメが自らの身体を強く見せる事で、敵を寄せ付けないようにしているのではないかと言われています。また、人に懐きやすく時折海面に顔を出しては、船乗り達から餌を貰っている姿も確認できます。

 しかし決して彼女らに危害を加えようとしてはいけません。口を開けば鋭い歯が幾重にも生えており、自身に危害を加えると判断した者には容赦なく噛みつき、その腕を食いちぎろうとするからです。
執筆:
遊びの終わり
 リコリス・ウォルハント・ローア。
 それはこの混沌で、最も完成されたイキモノ。
 主として高台に巣食うリコリスは、偶然通りがかるだけの獲物には目もくれず、ただ『目標』と定めた人物のみを狙うとされています。
 その集中力が、途切れることはありません(横から1カメ)。
 ただじっと、スコープ越しに通りを見下ろします(背後から2カメ)。
 しかしそれは単なる没入ではなく、全方向への警戒を怠ることはありません(ヒキの画で3カメ)。
 その証拠に……ほら。
 (スローモーションリプレイ)
 リコリスの周りを飛ぶ羽虫が、尻尾の一打ちで消えています。

「ええ、彼女は当然、私のことにも気づいていましたよ。
 何ブロックも先から、双眼鏡で見ているだけなのに」

 スコープを覗く目と、外界を眺める目。
 その両方がついに、同一の何かに焦点を合わせる時。
 ……息を呑む音でさえ、気取られるかのような緊張感が、周囲を包み込みます。
 …………キ、チッ。
 トリガーがしずかに引かれ、しかし、セカンドステージの始まりに至った正にその瞬間。
 リコリスは銃口を上げました。その表情は、どこか残念そうな笑顔のように見えます。
 一言二言、何かを呟いたようですが……そのままリコリスは、荷物をまとめてこの場を去りました。
 その後スタッフが調査に出向きましたが、足跡一つ、髪の毛一本、見つけることはできませんでした。

「ということで、リコリスの調査は全く進んでいません。
 あの時に、一体リコリスが何を――いえ、『誰を』狙っていたのか。
 それが分かれば、大きな進歩となることでしょう」(カメラ、窓の外の光景へパン)( ‘ᾥ’ )
執筆:君島世界
M2-56の動物王国。或いは、リコリスとの遭遇…。
●動物研究科、M2-56
 砂漠の国での出来事だ。
 夕暮れ時、オアシスの畔で微睡むそれを見つけた時は身震いがした。小さな身体に赤いコート、背に負う狙撃銃という特徴から、私はそれが夢にまで見た幻の生物、リコリス・ウォルハント・ローアであると確信した。
 リコリスは基本的に人に対して友好的な生物であると伝わっている。だが、それと同時に野生の獣らしく、時に残酷に、あっさりと人の命を奪うとも言われていた。
 私の目の前、距離にして20メートルほど先で微睡むリコリスは先ほどから身じろぎの1つさえしない。だが、決して油断はしていないことが分かる。頭頂部にある尖った耳が、時折ピクリと震えて私の一挙手一投足を監視しているのだ。
 気持ちよさそうな寝顔は愛らしい。けれど、うっすらと開かれた眼光には警戒心が浮かんでいるようにも見えた。
 近づけばリコリスは逃げるだろうか。
 それとも、私を敵と判断し襲い掛かって来るだろうか。
 思案した時間は極僅かだったように思う。こんなこともあろうかと、私の鞄の中には幾つもの食糧が詰め込まれていた。そのうち1つ、干し芋を取り出すと私はゆっくりリコリスへ近づいた。
 意外なことにリコリスは逃げる素振りを見せなかった。私の手にある干し芋が気になるのだろう。( ‘ᾥ’ )とした顔で、形のよい鼻をヒクヒクとさせている。
「それ、食べていいの?」
 声をかけて来たのはリコリスからだった。
 その視線は、私の手にある干し芋の方に向いている。
「あぁ。プレゼントだよ。さぁ、遠慮なくお食べ」
 そっとリコリスに干し芋を差し出した。リコリスは躊躇なく私の手から干し芋を受け取ると、それを口に放り込んだ。
 木の実を齧るリスのように、前歯で削るようにして干し芋を食べる。干し芋はあっという間になくなった。リコリスは名残惜しそうな顔をしてから、私の鞄へ視線を向ける。
 なんと賢い生き物だろう。リコリスは、鞄の中に食糧が詰め込まれていることに気付いていたのだ。
「あぁ、干し芋はまだたくさんあるよ。それとも肉の方がいいかな?」
「んー」
 リコリスは首をひねって思案する。
 それからそっと、小さな両手を差し出した。
「どっちも」
 リコリスの要求に従って、私は干し芋と燻製肉を差し出した。
 一心不乱に食事を続けるリコリスに向け、私は問う。
「毒が入っているとは思わなかったのかな?」
「入っていればすぐに分かるよ。おじさん、命拾いしたね」
 そう告げるリコリスの視線は冷たい。いくら愛らしい容姿だからと油断は出来ない。なにしろリコリスは野生の獣だ。自身に敵対する生き物に対して、リコリスは決して容赦をしない。
 私とリコリスは、それから幾らかの間、話をした。
 野生のリコリスとこれほどまでに長い時間、会話をしたというのは人類史上でも類を見ないのではないか。そう思えば、少し誇らしいような気持ちも湧き上がって来る。
 リコリスと私は、きっと気持ちが通じている。
 そう確信した私は、リコリスに1つの提案をした。
「きれいな毛並みだね。少し撫でてみてもいいかな?」
 リコリスは( ‘ᾥ’ )とした顔で、少しの間思案する。
 それから、そっと手を差し出して来た。
「ちょっとだけならいいよ。ご飯をくれたお礼ね」
「あぁ、ありがとう」
 私はリコリスの手を取った。
 そして、そこから先の記憶がない。ゆえに以下に記すのは、後ほどリコリスから聞いた私の台詞を書き記したものである。
「よーしよしよしよしよしよし! 可愛いですねぇ、お利口さんですねぇ。あははは、リコリスちゃんが藻掻いてますけど、これは喜んでいるんですねぇ。ほーら、怖くない怖くない。手を噛まれてもねぇ、鉄騎種だから全然平気なんですねぇ。リコリスちゃんに引っかかれるなんて本望ですよ! ライオンに指を食いちぎられたのに比べれば、このぐらい怪我の内にも入りませんからねぇ! ほら、よしよしよしよし!」
 その後、私はリコリスのアッパーカットを喰らって気絶したという。
 翌朝、目が覚めた私に上記の顛末を伝えた後、リコリスは砂漠へ去って行った。願わくば、この広い砂漠で、いつか再び逢いたいと思う。


地獄の釜出版『M2-56の動物王国』より

著者紹介:M2-56
種族は鉄騎種、職業は動物研究科。
鉄帝国ゼシュテル出身。鉄帝動物研究所にて動物学を学んだ後、希少生物の研究、保護に関わる。その活動は鉄帝国内に留まらず、海洋、幻想を旅した後に広い土地を求めて砂漠の国へ移住。後にこれが「M2-56の動物王国」へと発展する。
執筆:病み月

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