PandoraPartyProject

幕間

フーガとクウハくん

関連キャラクター:フーガ・リリオ

ある長い午後。或いは、誰も知らない静かなところ…。
●小川の畔
 ヴィーザル地方。
 とある花畑から、北へ数キロ進んだ場所に細い川が流れている。
 舗装されていない荒地を通って、鬱蒼と茂る森を抜けた先の小川に、大きな魚の類はいない。得るものは無く、道程は過酷。あるのは小川のせせらぎと、チラチラと揺れる木洩れ日程度のものである。
 そんな場所に男が2人。
 1人は、木と木の間に張ったハンモックに寝転がる浅黒い肌の偉丈夫、フーガ・リリオ。もう1人は、小川の畔の下草に背を預けた、紫髪のゴースト、クウハだ。
 2人がフーガの領地を出たのは、今から数時間ほど前のこと。少し早めの昼食を採って、何とはなしに荒野を超えて、森を抜けて、小川の畔へ辿り着き……思い思いに怠惰な午後の時間を過ごし始めたのである。
 チチチ、と遠くで小鳥が鳴いた。
 ふと目を覚まして、クウハは視線を空へと向ける。
 畔へ辿り着いたころには真上にあった太陽が、いつの間にやら西の方に傾いている。
 クウハはポケットの中へ手を入れた。
 仕舞っている懐中時計を取り出そうとしたのだ。
「んー? 結構、時間が経ってるなァ? 今、何時……」
「止めとけよ。せっかくの休暇に時間を気にするなんて無粋じゃないか?」
 クウハが時計を取り出す前に、フーガはそれを制止した。
 ハンモックに寝ころび、目を閉じたまま。
 川の音と、鳥の囀りに耳を傾けているようだ。
「俺ァ、別にいいんだが……オマエ、仕事が溜まってんじゃなかったかァ?」
 時計を仕舞ってクウハは問うた。
「おかげでここ暫くは寝不足だった。昼寝なんていつぶりだろうな」
「まだ仕事残ってたろ? デスクの上に紙の束が積みあがっているのを見たぜェ?」
「あぁ、紙の束な……あれはただ“そこにあるだけの紙束”だ。休暇中に気にするようなもんじゃない」
 フゥン、と鼻を鳴らしたクウハは、再び地面に寝転がる。
 日が沈むまであと1時間か2時間か。
「休暇ァ、いつまで?」
「まぁ、こっから帰るまでかな?」
 それっきり、2人は何も話さない。
 ただのんびりと、時間だけが過ぎていく。
執筆:病み月
初めてのゲーム実況
「よぉ、親愛なる暇人共。今日は事前告知通り、リアルのダチと実況やってくぜ。紹介しよう、フーガだ!」
「フ、フーガです……。実況プレイは初めてですが、よろしくお願いします……」
 緊張で固くなるフーガの肩を、クウハが軽く叩く。
「――悪りぃ。マイクの音声ミスってたみたいだからもう一度やってくれ」
「えぇぇ……?」

 二人がプレイするゲームは『サモンモンスター オニキス』。サモンモンスターといえば練達で人気を博しているゲームシリーズだ。とはいえ、旅人である二人にとっては完全な初見プレイとなる。
「三匹の中から一匹選べとさ。んじゃ、今回は特別ゲストのフーガさんに決めてもらうか」
「おいらが? うーん……この緑色の竜みたいな子がいいかな」
「ニックネームは?」
「……ドラドラ?」

「おら、やっちまえ。躊躇うな。相手のサモナーごと殺れ!」
「ちょっとクウハ、全世界に今の発言が」
『大丈夫』『平常運転だよ』
「えぇぇ……?」

「ヒャッ!? おおお、お化けが!」
「今更こんぐらいのホラー要素でビビんなよ! ……お、幽霊属性のサモモンだ」
『!?』『声にびっくりした』『フーガさんホラーゲームやってほしい』
「へへ、いつかはホラーゲーム実況もアリかもな。フーガだけで」
「せめてクウハも一緒にプレイしてくれよ!?」

「……。…………」
「まさかオマエ、俺が飲み物取ってくるまでの間、ずっと撫でてたのか?」
「ドラドラもよもぎもプルタブも、みんな可愛くて」

 ●

「次の実況まで、このゲーム借りてていいかな?」
「いいぞ。どうせ少し歩いたらオマエの部屋なんだし。レベル上げでもやるのか?」
「うん。それにもっといろんなモンスターも仲間にしたかったんだ」
「すっかり嵌まってんじゃねェか」
 はいよ、と笑いかけながらクウハはゲームを手渡す。
 ゲームが面白いのも勿論だけれど――この正反対の親友と一緒に、何気ない楽しい時間を過ごせたことが、フーガにとっては輝かしいものだった。彼も笑い返して、ゲームを受け取った。
執筆:

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