PandoraPartyProject

幕間

Trick and tricks!

揶揄い好きな悪霊とイレギュラーズ達のお話。


関連キャラクター:クウハ

魔と霊。上と下。
 優雅な所作で紅茶を運びながら男は話始める。
「君のいた場所ではどうだったか知らないけど、俺のいた場所では霊と魔は天と地ほどの差があるのぉ♡
分かりやすくいえば、貴族と庶民くらいの差がねぇ?そんな中でも俺は所謂王族と言われる立場。そんな俺を君らと同等に語るだなんて、いい度胸をしているね、クウハ?」
 ズシリと空気が重くなる。目の前の男―クインはいつも通りの笑みを浮かべているのにまるで処刑台に立たされたような気分になる。
やってしまったとクウハは思った。いつもいつも会う度に弄られ揶揄われているのでちょっとした仕返しだったのだ。
『あんたって色欲の悪魔って言うけど結局は色情霊と大差ないんじゃねぇの』
 そう、ケラケラ笑って言ってやったのだ。だって目の前の悪魔はなんだかんだ揶揄ってばかりで悪魔らしいところだなんて一つも見せた事はないのだ。揶揄うために悪魔なのだと姿を見せたくらいで。だから、
(だから、これくらいの事なら笑って許してくれるかなって!ネタにできるかなってそう思っただけなのに……!)
「この世界での逢瀬で良かったね、クウハ。 俺の世界でお前が俺にそんな事を言いだそうものなら、俺のありとあらゆる権能を使ってお前を色欲の牢獄に閉じ込めているところだったよ」
 静かにけれども重い殺意が紡ぎ出された言葉に乗せられている。ゴクリ、とクウハの喉が鳴った時。
「なぁんてねぇ♡ クウハは俺のお気に入りだしそんな事するわけないじゃない?怖かったかなぁ?怖かったなら、もう二度と馬鹿なことは口にしないようにねぇ♡」
 いつもの笑み、それでも瞳は笑っておらずまるで捕食者のようにクウハを鋭く睨みつけていてクウハはこくこくと首を縦に振る事しかできなかった。
(あ、悪魔ってろくでもね~~)
 やっぱこういうのには関わらない方がいいと改めてクウハは思ったのだった。
けれどもその翌日、またクインに突撃される羽目になる事をクウハはまだ知らない。
執筆:紫獄
月灯りのステージ
 月の輝く晩だった。
 青白い光がちらちらと落ちるその場所は、深い森の奥深く。ほんの少し開けたその場所は、今だけはステージのようだった。

 一曲どうだィ?

 クウハの囁くような一言に、千代は頬を赤く染める。クウハの仕草がどこか恭しく見えて、物語の王子様を思い起こさせた。真っすぐな瞳が、千代を見据えている。

「あ、えっと」

 差し出された手を取るか取るまいか。顔を赤くしたり隠したり、慌てふためいている千代に、クウハはいつもの笑みを見せるのだ。

「ハハ、冗談さァ」

 からからと声をあげて笑うクウハと、羞恥で騒ぎだす千代で、そのステージは彩られたという。
その口癖は。
「クウハさんって、独りでいるか、野良の霊魂を従えてそうなイメージでした。」

 それはいつ何をしているときだったろうか。ある時ふと水月からかけられた言葉だった。

「あん?」

 どういう意味だ? と続けようとする口を、思考が止める。あぁ、なるほど。あの主人のことか、と。

「俺様が誰ソレの眷属になるのが以外だったか? ワルい人外オトモダチが他人のモノになって、寂しくなっちまったか? ン?」

 からかい半分に肩を組み、ウリウリとみぞおちあたりに拳をおしつけてやる。
 けれど、なよっちぃ妖怪君は、その時ばかりはいつもの気弱な弄られ反応ではなくて。

「い、いえ。ただ、よかったなって。誰かとの繋がりって、すごく……温かいものだから。」

 穏やかに笑うその表情はとても安らいでいて。
 思わず、肩にまわしていた手を緩め、そのまま頭に手を置いてやった。

「……? えっと……?」

 いつもならばワシワシと髪をグシャグシャにされそうなものだが、思いのほか優しく、ポンポンと撫でられるその状況に困惑しながら水月が見返した彼の表情は、果たしてどんなものだったのか。

「オマエさんも大概、いい子だな。」

 ただ、彼のその言葉は、どこか皮肉めいているようで、それでいて、以前の彼の言葉ではないような、まるで誰かの口癖だったような、そんな気がした。

(お互い、妖怪と悪霊、人に仇なすワルのはずなのによ。)

 ……つーか、今こいつ惚気やがったか?
執筆:ユキ
シャッターチャンス!
「クウハさん。写真の撮り方は、ご存知ですか」
 ギルドでくつろいでいたクウハに対し、ハンナは両手で生真面目に、aPhone<アデプト・フォン>を差し出した。飾り気のない外観とロック画面は、おそらくローレットから支給された物だからだろう。
「おーおー、オマエさんが俺を頼ってくれるなんて嬉しいねェ」
 ニカリと口角を上げる彼に、ハンナはぴんと来ない様子で首を傾げる。
「はあ。……依頼で、証拠写真を撮ってくるように言われたんです。しかし、使い方が分からなくて」
 aPhoneを受け取ったクウハは、早速いろいろな場所をいじりだす。
 尤も、それには最低限の機能以外は備え付けられていなかった。やはり支給品のようだ。この確認作業はaPhoneの性能を確かめるためであって、あわよくばハンナの趣味嗜好を探ろうとしたわけではない――はずである。きっと。
「どうでしょうか?」
「大丈夫だ、難しいことじゃねェよ。このカメラっていうのを触ってから、下の丸を押せばいいだけだ。――ほら、こんな風にな!」
「ひゃっ!?」
 不意打ちじみた撮影は無事成功し、つんとした表情の写真が一枚と、突然の光と異音に驚いた写真が一枚、アルバムに収まる。
 あわあわとした驚き顔は、冷静沈着たろうとする彼女からはあまり引き出せないものだ。普段は伏し目がちの瞳はぱっちりと見開かれ、固く引き結ばれていた唇は無防備に綻んでいる。これにはクウハもご満悦である。
「一体何をして……また撮りましたね?」
「いや、今のはインカメで自撮りした」
「インカメ? 自撮り?」
 意気揚々とクウハが見せたaPhoneには、ウインクを決める彼の姿が映っていた。周りには光の玉が浮かんでいる気がするし、空間が奇妙にねじれている気もする。
 立派な心霊写真を見せられたハンナは、思わずこめかみを押さえた。
「教えてくださったことにはとても感謝しています。ですが、写真は消してください」
「こんなに可愛く撮れてるのに?」
「依頼人の方にこれを渡してどうするんですか」
「……そりゃそーだな」
 人を揶揄うことを好むクウハとて、自分のせいでハンナが怒られてしまうのは望むところではない。
 写真を消す方法も教えながら、まずは自撮り写真を削除して……それでも、ハンナの写真を消すのは、無性にもったいない気がしてしまうクウハであった。
執筆:
シャンデリアトラップ。或いは、誰も知らない古城の一幕…。
●ある夜、ある洋館
 夜の闇を、知った顔が駆けていた。
 フード付きのマントを羽織り、顔を隠した男の名前はアーマデル。アーマデル・アル・アマルでは無かっただろうか。
 人気のない夜闇の中、蛇か何かのように音もなく走る彼の姿を目にして、クウハはにぃと口角をあげた。
 アーマデルが向かった先は、丘の上の洋館だ。
 街も、城も、人が住まなくなって久しいはずではあるが、果たしてアーマデルはこんな時間、こんな場所に何の用事があるというのか。
「まぁ、何でもいいやなァ」
 呵々と笑って、クウハはするりと虚空を滑る。
「待ってなァ。その澄まし顔、すぐに崩してやるからよォ」
 
 ぴちょん、と。
 水の滴る音がした。
 黴と埃の匂いが漂う廃城の一室。
 燭台の明かりに照らされた床に、じわりと赤が広がった。
「供回りも無し、抵抗も無し……すっかり憔悴していたようだな」
 こうなるぐらいなら、そもそも逃げなければいいのに。
 そう呟いて、アーマデルは鞭剣を振り抜いた。
 剣身を濡らす鮮血が、ぴしゃりと壁や天井に散る。
 アーマデルが殺めたのは、とある都市で殺人を犯した1人の貴族だ。彼は罪が明るみになると同時に、数名の部下と共にどこかへ逃げ出したのだ。
 暗殺を依頼されたアーマデルは、数日のうちに貴族の居場所を見つけ出す。すでに破棄された古い城に隠れ潜んでいるらしい。
 連れていた部下との交戦を覚悟していたが……部下たちは既に貴族を見限り、どこかへ姿を晦ませた後だった。
 暗殺にかかった時間はほんの数分。
 剣を振った回数はたったの1度。
 殺めた人数は1人。
 準備にかけた時間に対して、仕事に浪費した時間は極僅かなものである。
「いや……もう1人いるか」
 引き戻した鞭剣を、アーマデルは再度振り抜いた。
 空気を切り裂き、刃が伸びる。
 鈍く光るアーマデルの剣が、天井に下がるシャンデリアを切り裂いた。
 一瞬の停滞。
 プツン、と支えを切断されたシャンデリアが、貴族の遺体の上へと落ちた。
 ガラスの砕ける音に、飛び散るシャンデリアの残骸。
 その真ん中には、ぽかんと口を開けたクウハの姿がある。
「っ……ばっ!? い、いきなり斬り付ける奴があるかァ!? オマエ、これっ……危うく首と胴がお別れするとこだっただろうがよォ!」
「……霊が死ぬのか?」
 呆れたように吐息を零して、アーマデルは剣を腰の鞘へと仕舞う。
 シャンデリアに隠れていたクウハに気付き、前動作も無しに斬りかかったのだ。しなる刃はクウハの首元を掠め、シャンデリアの支えを切断。
「よからぬ気配を感じたが……そもそもクウハ殿は、シャンデリアを落とすつもりだったんじゃないか?」
「あー……ははァ」
 アーマデルが指すクウハの手には、1本のナイフが握られていた。
執筆:病み月
人外問答
「ヨゥ、色男。今日も一段と黄昏た顔がソソルな。」

「からかわないでくださいよ、クウハさん。」

「心配すんな、お前さんにはまったく食欲わかねェからよ。」

「僕もクウハさんを怖がらせるなんてできませんし、しようとも思いませんよ。……ハァ。」

「あんだよ。新婚夫婦がもう倦怠期か?」

「ば、馬鹿いわないでください! 僕と彼女はまだそういう仲じゃ……!」

「けどよ、渡したらしいじゃねぇか? ゆ・び・わ。」

「ど、どこで聞いたんですか!!?」

「ハッ! 人の口に戸は立てられネェよ。おまえさんなんざそういうのを散々鏡の中から見てきた口だろ? ア?」

「……わ、渡しましたけど。」

「受け取ってもらったんだろ?」

「……はい。」

「趣味じゃねぇとか、センスネェとか言われたか?」

「そ、そんなことは……」

「最近、身体も鍛えてるっつーじゃねェか。依頼もがんばる優等生君は、腕っぷしも俺なんざよりよっぽど上がってるんだろ?」

「……自分としては、そうなんですけど……」

「……しけてんなァ。ナァ、おまえさんヨォ。その彼女さんと、どうなりてぇんだ?」

「ぼ、僕は、彼女が幸せでいてくれたら……彼女を護れたら、それで。」

「10点だな。」

「えぇ!? 言わせといてなんですかソレは!」

「1億点中のな。」

「厳しすぎませんか!?」

「……っつー冗談は置いといてよ。お前さんその彼女さんがどうあったら幸せなんだ?」

「? それはもちろん、彼女が無事で、笑顔でいてくれたら……」

「テメェが彼女を笑顔にしてぇとか、俺が彼女の唯一なんだ! とか言い切る甲斐性がネェのは分かってるからそこはいいけどよ。」

「ゆ、指輪渡しましたよ!?」

「ハイハイ。んで、その笑ってる彼女サン、ウマそうか?」

「え?」

「ウ・マ・そ・う・か?」

「……何を言っているんですか?」

「想像してみろよ。彼女サンが叶わない強敵を前に絶望しているところを。護ってくれていたお前さんの姿が見えなくて恐怖しているところを。」

「……クウハさんでも、言っていいことと悪いことがありますよ?」

「そうだよなぁ。彼女サン、強ェんだよな。それなら、おまえがズタボロになって、ソレを見た優しい優しい彼女さんが嘆いてくれている所なんてどうだ?」

「いい加減に……!」

「喉が鳴らなかったか?」

「!!」

「……なんてな! 冗談さ。悪ィ悪ィ。詫びに一杯奢ってやるよ。水だけどな。」

(けどよ、水月。)

 俺たちが俺たちである以上。
 その”欲”と”渇き”は、お前サンを放しちゃくれねぇんじゃねェかな。
 それで、お前サンは本当に幸せなもんかね。我慢できるもんだろうかな。
 ただの人間様になれりゃ、それも変わるかもしれねぇが……果たして、それもまた幸せなもんなのかネ。
 難儀なもんだ。
執筆:ユキ

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