PandoraPartyProject

幕間

( ‘ᾥ’ )お師匠といっしょ

関連キャラクター:リコリス・ウォルハント・ローア

Hunting of wolves
「今日の依頼は美女が相手だから、私が相手したかったんだけれど。゛趣味゛が合いそうになくて。頼んだぞ、愛弟子?」
「はーい!」
 元気良く返事をしたリコリスの格好はいつもとは違っていた。
 普段とボタンの左右が違うシャツとネクタイ。
 緑と黒のシックなチェック柄の短パン。
 ソックスガーター付きの黒い靴下。
 赤茶色のコインローファーはわざわざ゛複数回履いた゛加工がある。
 いつもと同じなのは真っ赤なフードくらい。
 知り合いのお姉さんがしてくれた化粧も相俟ってか、『男の子のリコリス』がそこにいた。
「それじゃあ、お師匠。いってきます!」
 ターゲットが勤務先から出てきたのを確認し、リコリスが勢い良く走り出す。
「まあ僕、大丈夫?!」
 ターゲットの近くで石畳の段差に躓いて転んだフリーーの筈だったが、リコリスは本当に躓いて転んでみせた。
 うるっと目に涙を貯めればターゲットは優しい貴婦人を装ってリコリスの手を取って歩き出す
 けれどこれは嘘。彼女は小さな男の子にだけ、これをする。
 そうやって言葉巧みに家に連れ去っては無惨な姿で彼らを還しているのだ。
 その前にーーリコリスを連れ去る手を、撃つ。
 リコリスが無邪気なフリをして、ターゲットを裏路地へ引っ張った直後だった。
 ため息1回分の間でリコリスがターゲットの手を振り解いて後ろ側へのバク転を決めた直後だった。
 リーディアの弾丸がまっすぐ、ターゲットの足を撃ち抜いた。
 もがき苦しむターゲット、慌ただしく駆け付ける警官。

「お師匠! 大成功だよ!!」
「ああ、良くやった!」
  今日の依頼は、ふたりの成果。
執筆:桜蝶 京嵐
狼師弟の甘い日

 ある日、お師匠が言った。
「リコリスさん、良いところへ行こうか」
 良いところ? 良いところ? おいしいものが食べれるところかな?
 ボクは嬉しくなって、ブンブンと尻尾を揺らしてお師匠についていく。
 半歩前に立って案内してくれるお師匠は再現性東京202X街『希望ヶ浜』へと向かった。希望ヶ浜には北の国にはないたくさんのお店があることを賢狼と名高いボクは知っている。色んな種類のご飯があるファミリーレストランでしょう? お魚とお米の載ったお皿が勝手にクルクル移動しているお寿司屋さんでしょう? 編みの上でじゅうじゅうお肉が歌う食べ放題の焼き肉屋さんでしょう? ボクの顔よりも大きなハンバーガー(玉ねぎ抜きにしてくれる)とアツアツで外はサクサク中はホクホクのポテトが食べれるハンバーガー屋さんでしょう? 後は、後はね、それからね――……。
「お師匠、どこまで行くの?」
 お師匠にはしっかりとした目的地があるみたい。時折aPhoneを確認しながらも何処かへ向かっている。
 今日は何を食べるのかな? ボク、お腹がペコペコになっちゃったよ。
「もうすぐだからね、リコリスさん」
 お師匠がボクへと視線を下ろし、にっこり笑う。お師匠はいつもボクに優しくて、ボク大好き! こないだだって海の島――えーっと、リゾート地って言われてるところ? で、お師匠の分もお肉をくれたんだ。いつも優しくて、ボクを見てニコニコするお師匠がボクは本当に大好きなんだ!
 ボクは大きく「うん!」と返事をして、お師匠に続いて角を曲がる。
 曲がって、そうして――眼前に見えたソレに、ボクは息を飲んだ。

『○○病院』

 いつもお師匠が褒めてくれる賢狼たるボクは、そこが何なのか知っている。あの鋭い銀色からピューってお薬が出て、お医者さんがニコニコしながら「痛く有りませんよ」とウソをつくにっくきアレ! 注射を打つところだ!
 どうしてどうして、と゛う゛し゛て゛――!?
 お師匠だって注射嫌いなくせに! 良いところに連れてってくれるって言ったくせに!
「リコリスさん? どうしたんだい? ほら、すぐそこだよ」
 行こう。
 足を止めたボクの手をお師匠が掴む。
 やだやだやだやだ! ボクは行かないよ!
 散歩を拒否する柴犬を見るような目をしないで! ボクは賢狼だよ!
「行きたくないのかい?」
 そうだよ、お師匠! お師匠がきれいなおねえさんと歩いていても声を掛けないから許して!
 ブンブンと顔を振って拒否をするボクを見るお師匠は、どこか悲しげだ。ごめんね、お師匠。でも、ボクにだってゆずれないものはあるんだよ……!

「そうか……。季節のフラペチーノ、リコリスさんが好きそうだと思ったのだが……」

 えっっっ!?!?!?!?
 パッと視線を向ければ、病院の向こうに『ステラバックス』のお師匠が好きそうなきれいなおねえさんが微笑んでいる看板が!! お師匠ーーーーーーーーーーー! ボクはずっと信じていたよ! 疑ったことなんてないよ! 本当だよ!!
「お師匠、早く早く!」
 お師匠の手を引いてボクは駆けた。そんなボクをお師匠は見守ってくれている。
 その後ボクは、ステラバックスで桃のフラペチーノとメロンのフラペチーノを口にした。お師匠が両方薦めててくれたからだ。
「おいしいね、お師匠!」
「リコリスさんが気に入ったようでよかった。おかわりはいるかい?」
 やっぱりお師匠は今日も優しいや!
執筆:壱花
月が綺麗な夜でした
「お師匠、お師匠! すっごーくかっこいいよ!!」
 目の前には大好きなお師匠が少し照れくさそうに頬を掻いていた。
 いつもの白いコートじゃなくって、ボクが選んだ軍服っぽい白い浴衣!
 お師匠はかっこいいからなーんでも似合っちゃう!

「ありがとう、リコリスさん。しかし私には些か華やかすぎやしないかな?」
「そんなことないもん! お師匠は世界で一番かっこいいもん!
 こんなにかっこいいのに……きれいなおんなのひとといっしょに歩くんだ……( ‘ᾥ’ )」
「ふふ、そうだね、美しい女性とのデートは心が躍るね」
「もう~~!」
 
 残念だけど今回お師匠の隣を歩くのはボクじゃない。
 この後お師匠はきれいなおねえさんと夏祭りデートに行くんだ。ボクの選んだ浴衣を着て!!
 むっすりほっぺが膨らませたら、お師匠は困ったように笑ってボクを撫でてくれる。
 この顔と手がボク大好き! でもやっぱり面白くない。
 面白く、無い。
 

「お師匠かっこよかったでしょ。あの浴衣ボクが選んだんだよ」
 目の前の女は「ひっ」と情けない声を上げて後退っている。お師匠といた時はうんざりするほど甘ったるい声を出して擦り寄っていたくせに。
 ――ああ、本当に腹が立つなぁ……。

「……あ」
 はっと我に返ったときには女は額に穴を開けてぐったりとしていて、息はしていなかった。
 確かこの女はお師匠の標的だったはずだ。うっかりしていた。
 とりあえず、死体の処理を――。
 そう思ったけど、コツコツとこっちに近づいてくる足音が聞こえてきてボクは急いでその場を離れた。


「まさか、こうなっているとはね」
 何時まで経っても標的が顔を出さないので、私は様子を見に行くことにした。
 そして『標的だったもの』を確認した。額に開いた穴が既に獲物の命が失われたことを証明している。
(リコリスさんだね)
 彼女はフードを被ると別人のようになる。
 普段は待てができるいい子なのだけれど……今回は抑えが効かなかったかな。
 懐から無線機を取り出した。

「私だ。すまない任務に失敗してしまった。いや、逃がしたわけじゃない」
 疑問符を浮かべるオペレーターに淡々と告げる。
「どうやら可愛い赤ずきんが、私より先に狼を食べてしまった様だね」
 それにしてもどんどん銃の腕が上がっている、素晴らしい。
 愛弟子の成長が嬉しくて私は口角を上げた。
執筆:
狼殺し
 一面に広がる綺麗な彼岸花の中にボクは立っていた。目を焼かれる様な鮮烈な赤に対して当たりは真っ暗な闇が広がっていた。そしてボクの目の前には間違えようもない大好きな真っ白な背中があった。

『お師匠!』

 夢の中だからか上手く声に出せなかったけど、ボクに気づいた様にお師匠がゆっくり振り返った。
『リコリスさん』
 声が聞こえなかったのは残念だったけどボクをいつも見守ってくれる優しい眼差し。ボクはその眼差しに向けて――。

 銃を、構えた。

『えっ』
 なんでボクはお師匠に銃口を向けているの?
 なんでお師匠は逃げないの? 抵抗しないの?

 なんで、嬉しそうなの?

 やめてと叫びたいのに掠れた息しか出てこない。そしてボクの意思と反して、引き金に指がかかる
『あ、あ、お師匠』
 逃げて、と言う前に放たれた弾丸がお師匠を撃ち抜いた。微笑みを湛えたままで、お師匠はゆっくり後ろへ倒れて、綺麗だった彼岸花はいつのまにか血溜まりへ変わっていた。止めどなく溢れてくる鮮血にボクは銃を落として、叫んだ。

「――リコリスさん?」
「……っ!」
 ボクは飛び起きた。
 嫌な汗が流れて、心臓が破裂しちゃうんじゃないかってくらい五月蝿く鳴っている。真っ赤な血溜まりはなく、ボクはベッドの上にいた。目に飛び込んできたのはさっきボクが殺したはずのお師匠の顔だった。心配そうに眉を八の字に下げている。
「大丈夫かい? 酷くうなされていた様だったから起こしてしまったんだけれど」
「……ううん、大丈夫だよ! ありがとうお師匠!」
 お師匠に心配をかけたくなくて、ボクはわざとらしく元気な声を出した。本当は夢の中の光景が瞼の裏に焼き付いていて、まだ少し手が震えているけれど。
「……怖い夢でも見たのかい」
「えっ、なんでわかるの!?」
「私は君のお師匠様だからね。可愛い愛弟子のことは大体のことはわかるよ」
 なのにお師匠はボクがどれだけ隠し事したってすぐ見抜いちゃうんだ。きっと髪に隠れて見えない片目は心の中を見通してるに違いない。
「どんな夢を見たのかな」
 決して責めている訳ではなく、話せと言ってる訳でもないのにあの切長の氷の様な色の目に見つめられると勝手に口から言葉が溢れていく。
「……ボクがお師匠を殺しちゃう夢」
「そうか。私がリコリスさんを殺す夢じゃなくて良かった」
 そう言ってお師匠は腕を広げた。何も言わないけど「おいで」という意味だ。躊躇いなくその腕の中に飛び込んで、左胸のあたりに耳を寄せる。トクトクと規則正しく鼓動を刻む心臓の音が、お師匠が生きているということをボクに教えてくれる。お師匠を殺すなんて夢の中だって絶対に嫌だ。小さい子みたいに擦り寄って甘えてもお師匠は優しく撫でてくれる。それが心地よくて遠のいた眠気がまた戻ってきて、ボクはもう一度眠りについた。
 
「……リコリスさん? 寝てしまったかな」
 安心したのか、腕の中で寝息を立てているリコリスさんを抱き上げ再度ベッドに寝かせる。つい先日十八歳になったばかりの彼女を人殺しに育て上げたのは他でもない私だ。若い彼女にはいろんな未来があった筈なのに。その芽を摘み取って赤頭巾を血に染めあげたのはこの私だ。
 後悔したことがないと言えば嘘になる。それでももう後戻りはできない。彼岸花の様に真っ赤な路(みち)を歩いていくしかないのだ。
 
 夢の中に旅立って、こちらの言葉が聞こえてないことをいいことに卑怯な私は、ささやかな願い事をする。

「もし、もし私が君の敵になったとしたら。その時は君の手で私を殺して欲しい」
 きっと、君は泣いて嫌だと言うのだろうけど。

 君は、狼殺しなのだから。
執筆:
赤ずきんの花籠

「ねえ、お師匠」
「なんだい、リコリスさん」
 ボクは解らないことがあると、なんだってお師匠に尋ねる。お師匠はどんな些細なことにだって、優しい眼差しと穏やかな声で教えてくれるんだ。
 銃の握り方。獲物の急所に行動予測。足音や気配の消し方。『皮』の被り方。それから、人間社会に溶け込むための一般的な常識。
 どれも全部、お師匠から教わった。
 たくさん教えてもらったけれど、それでも世の中にはボクが知らないことがまだまだいーっぱい! だから今日もね、あのねお師匠ってボクはお師匠に尋ねるんだ。
「赤ずきんは、どうしてお花畑で花を摘むの?」
「ああ、おばあさんにお土産を持っていくところの話かな」
「うん。おばあさんに見せたいのなら、連れて来ればいいのに」
 そうすれば花は枯れず、きれいなままお花畑で咲き続けることができる。
 どうして? と問うボクに、お師匠はパチリと瞳を瞬かせた。まるでボクの問いが予想外だったみたいに。
「リコリスさんは優しいね」
 お師匠はボクを撫でて優しい声でそう言ってから、

「ひとはね、愛しいものを摘まずにはいられないからだよ」

 少し悩むような間を開けて、そう言った。
 ボクにはお師匠の言っていることがよくわからなかったけれど、お師匠が言うからにはひとはそういうものなのだろう。お師匠は何でも知っていて、やっぱりすごいや!
 花籠いっぱいに大好きな花を摘んでおばあさんの家に向かう赤ずきんの姿を思い浮かべ、それをボクはボクに当てはめる。
 それってちょっと、『任務』みたいだなって思った。
 摘み取る命はただの標的だからボクは愛してはいないけれど、摘み取って花籠(かんおけ)に入れて、お師匠に見てってする。そうするとお師匠は「よくやったね、リコリスさん。えらいね」って褒めてくれる。
 わあ! ボク、赤ずきんの気持ちがわかっちゃったかも!
 やっぱりお師匠に聞くのが正解だね。
 お師匠はいつだってボクを導いてくれるんだ!


 最近たまに、怖い夢を見る。
 お師匠を、ボクが殺しちゃう夢。
 暗い路地裏にじんわり広がる黒に近い赤。
 真っ白な雪原を染める美味しそうなリンゴみたいな赤。
 いつかお師匠と標的を仕留めに行った屋上で、廃屋で、花畑で、神社で。
 赤、赤、赤、赤、赤、赤、赤――。

 いつだってその赤の中心に、お師匠が居る。
 嫌だって心で叫んでも身体は勝手に動いて、お師匠を殺しちゃう。
 殺せなくて躊躇う時もあった。ボクはすごくホッとしたのに、お師匠がリコリスさんってボクのことを優しく呼んで、銃を握ったボクの手を自分の頭に導くんだ。いいこだね、できるねって、いつも通りの優しい眼差しと穏やかな声で。
 ……どうしてこんな夢を見るのだろう。
 ボクはお師匠のことが大好きだけど、摘み取りたいなんて思わない。
 そりゃあお師匠はおんなのひとにだらしなくてボクだけを見てくれる訳ではないけれど、それでもお師匠の一番はボクだって知っている。ずっとボクだけじゃないのは確かにちょっと……うん、ちょっとだけ。面白くないって思うけど。ボクだけを見て欲しいって思うけど。
 でも、ボクは! お師匠を摘み取るくらいなら、ボクはお師匠に――。

「リコリスさん。また、怖い夢を見たのかい?」
 口から飛び出そうな心臓が血流を早くして、頭の中でガンガンと鐘を鳴らす。これは警鐘だ。ボクからボクへ、いつか現実になるぞって告げる警鐘だ。
「お師匠……」
 それが怖くて怖くて、今日も広げてくれたお師匠の腕に飛び込んだ。
 お師匠の腕の中は安心する。
 優しく背を撫でてくれるぬくもりを感じながら生きている証の音を聞いていれば、すぐに瞼が重くなった。
 ――お師匠の腕の中は安心する。
 きっとお師匠は、ボクを摘み取った時もこうしてくれるから。
『お疲れ様、リコリスさん』
 そう言って、組織の不要物となり下がったボクでも労ってくれるんだ。

 ボクは大好きなお師匠の腕の中、お師匠に摘まれる日の夢を見る。
 ひとは愛しているものを摘まずにはいられないのなら――お師匠の『大好きの証』をボクにちょうだい。
 お師匠の花籠の中の一等大切な花に、ボクをしてほしい。


 ひとは、愛おしいものに唇で触れたがる。
 愛おしいと思うものを目にした時、それがひとであれ花であれ、芳しい香りに誘われる蝶のように唇を寄せずにはいられない。
 けれどひとは、傲慢だ。美しい花々のために地に跪いて唇を寄せず、摘み取って持ち上げ、唇を寄せるだろう。花の命を散らすことを知りながら、その傲慢さに気付きもしないで手折るのだ。
 愛しいから、手を伸ばす。
 愛しいから、手折る。
 愛しいから――自分だけのものにする。
 美しい花籠は、花たちの棺桶だ。

 私の可愛い赤ずきんは、先程まで魘されていた苦しげな表情から開放され、今は安らかな寝顔で幸せな眠りに落ちている。
 この子の不安が少しでも取り除かれることを願い頬をそっと撫でてやれば、もう拾八だと言うのに子供らしさしかない唇がむにゃむにゃと動き、言の葉を紡いだ。
「……おししょー、ボクうれし……」
 どうやら幸せな夢に私も同伴させて貰えているようだ。
 そんな彼女の姿に、胸にあたたかさが灯る。
 いたいけな少女に血塗れた道を歩ませておいて幸せを感じるなど、烏滸がましいのかもしれない。けれど私は、このひとときに確かに幸せを感じていた。
 赤ずきんの眠りを守る、このひとときに。

 ねえ、リコリスさん。
 君の花籠が棺桶になりませんように。
 私は身勝手にも、そう願わずにはいられないのだ。

 たとえ君が真っ赤な路を歩いているとしても、少女らしく無邪気で無垢な、花籠であってほしい。
 けれどもし、君が無垢な気持ちで手折ったのなら、それは仕方がない。
 私たち狼は本能には抗えぬ、ということなのだろう。
執筆:壱花

PAGETOPPAGEBOTTOM