幕間
誰かのための街、再現性秋葉原
誰かのための街、再現性秋葉原
関連キャラクター：佐藤 美咲
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- ちょっと異質な黒い二人
- 再現性秋葉原、誰かが見た幻像と虚空な現実が混じり合う街。
乾いた瞳でビラを配り歩くメイド服の女が、向こうから来た警察官を避けて物影へ。
大きな電気屋で素人では何の部品か検討さえ付かないものを探す人々。
その中に、異質と言っていいほどある意味で目立つ姿がある。
中肉中背の黒い服。目深く被ったフードから確信は難しいが、腰回りと胸辺りのシルエットから女と思われる。
彼女が目立つのはこれだけではなく、連れ合いがいかにも、という風情なのである。
中肉中背に仕立ての良いスーツ。人好きする笑顔を台無しにする目元の濃いクマ。
この彼を荷物持ちとして扱っているせいで周囲から好奇と恐れの視線を受けていた。
だが二人ともそんな視線に狼狽える事もなく、秋葉原を慣れた様子で歩く。
「いや、悪いッスね。付き合って貰っちゃって」
「いえいえ、構いませんよ。自分も用事がありましたし」
それより目当ての物はありそうですか、と男ーーバルガルが訊ねれば外れだったと女ーー美咲が答える。
「ちょっと店員に聞いてくるんで、そこら辺を見ててくださいッス」
美咲が奥にいる店員の元へ駆け寄って行った後、バルガルは物珍しそうに商品を見て回る。
実の所、バルガルの用事とはいわゆる推し活なのだがバニーガールのバーだった。
その為、開店は夕方からで午前中いっぱいはこうして友人の荷物持ちが出来るのだ。
「ああいったパーツショップは初めて入りますが、静かな熱意みたいなのが伝わってきて変に緊張しますね」
美咲の用事が済んだ後、バルガルの用事の方へ向かう道すがらバルガルがやや疲れたように言う。
「まあ特殊な世界かもッスね。自分でパソコン組んだりする人向けというか」
それよりも、と美咲は楽しそうにバルガルを見上げて声を弾ませる。
バルガルがこの後、バニーガールバーへ行くと聞いてついて行く事にしたのだ。
「ええ、推しをご紹介させてください」
そうして二人は荷物を駅のロッカーに預け、貴重品だけを持って店へ向かったのだった。 - 執筆：桜蝶 京嵐
- アキバのアリア
- 再現性秋葉原。此を読む汝らにとっては馴染み深いであろう、彼の街のレプリカ。偽物が本物を超えられぬ道理は無く。たった今怪物を追いかけて目上を通り抜けた保安官、『学生』を謳歌するマシンっ娘、更には刀を平然と持ち歩くメイドさん。もしも真の秋葉原の民がこのレプリカへと迷い込んでしまったのなら、この混沌に魅せられてしまうのだろう。なんてったって、この世界は無垢なる混沌。あらゆる世界或いは物語が収束せし――
「あのさ、語りすぎ」
「んだよ、別にいいだろ。"物語"を観測できる我らくらいしかこういう話しねえんだから」
「はぁ……本音は？」
「他人の金で飲む珈琲は美味い」
「そういうとこだぞ」
我、『夢野幸潮』はジト目をしてくる『有原卮濘』にデコピン。そういう話はご法度だぜ。
「とは、いえだ。これだけ多様性に溢れた街、毎日のように事件が起きるよな」
「そうだなー。今も下の道路でニチアサっぽい戦いやってるし」
「今朝なんて再現ラジ館屋上に人工衛星落ちたってよ」
全く。物語のネタに事欠かないな、この街は。改めてそう思うよ。
「さて、そろそろ行くか。珈琲ご馳走さん」
「ありがとね〜」
店を出た我らは『天に映る天の流星』に跨り向かう。次の物語へと。 - 執筆：わけ わかめ
- サブカルチャーとの邂逅。或いは、趣味人たちの聖地にて…。
- ●Concept
道を行き交う人の群れ。
客を呼び込む女性の声に、どこか挙動のおかしい男たち。
パステルカラーに彩色された無数の看板。
某人気PBWのマスコット的美少女キャラが描かれた巨大なパネルと、大音量でアニメソングを流しながら通り過ぎていくトラック。
再現性秋葉原を一言で称すのならば、まさに“混沌”が相応しい。
そんな街の片隅で、肩を並べてショーウィンドウを覗いているのは武器商人と蓮杖 綾姫の2人であった。
「これは宝剣の類かな？ それにしては、刃がついていないようだけど」
「奥に見えるのは鎧でしょうか？ まるで下着のようですが……あんなもので、一体何が守れると言うのでしょう」
陳列された宝剣……とあるアニメ作品の姫騎士が扱う剣の模型だ……を、様々な角度からみる銀髪商人に、尊厳すらも守れそうにない極小面積のビキニアーマーを茫然と見やる女剣士の2人連れは、ひどく目立つ存在だった。
道行く人々は2人を遠巻きに眺めては「一体何のコスプレだ？」とひそひそ言葉を交わしているし、店内の販売カウンターに座る厳ついスキンヘッドは居心地悪そうにそっと視線を逸らしている。
「看板には“武器・防具屋”と書いているけど、どうにも売り物になりそうなものは無いねぇ。サヨナキドリの商品ラインナップとは、随分と赴きが異なるようだよ」
「えぇ、私の目にもそのように映ります。細工や飾りはなかなかですが、見掛け倒しも甚だしい。どれも剣として扱うには随分と足りませんね」
「こんな商品を客に売りつけるなんて、命を何だと思っているんだろうね」
「武器とは命を預けるに足るものではないとなりませんのに……持ち主を置いて先に折れてしまう剣など、とても武器と呼べません」
どうやら、2人のお眼鏡にかなう武器や防具は無かったらしい。
それもそのはず“武器・防具屋”とは銘打っているが、並ぶ商品の主な用途は観賞用。実用的な例といえば、コスプレイベントに持ち込む程度が関の山。そもそもの話として、実戦を想定して作製されたものでは無いのだ。さもありなん。
「向こうの木刀は素振りに丁度良さそうですね。何やら柄の部分に湖の名前が書かれていますが」
「今更キミがあの程度の木刀を振って何の訓練になるのかな？ それなら、我が鉄刀でも仕立ててあげようか？」
ひそひそと言葉を交わす2人であるが“武器・防具屋”から離れるつもりはないらしい。
それと言うのも、現在2人はここで人を待っているのだ。
不慣れな土地を訪れるに辺り、2人は佐藤 美咲に街の案内を依頼していた。
蛇の道は蛇、と言うわけでも無いが、見知らぬ土地を歩くにあたって案内人は不可欠だ。武器商人、綾姫の両名とて歴戦のイレギュラーズであるため、ちょっとやそっとのトラブルは自力で解決できる。
だが、解決できるからと言って、初めて歩く土地を舐めてかかっていいというわけではない。むしろ、初めての土地ほど事前および現地での情報収集と、その土地の地理や文化、風俗に明るい案内人の確保は欠かせぬものだ。
そう言うわけで白羽の矢が突き立ったのは、イレギュラーズ随一の趣味人……現地の言葉で“オタク”と言うらしい……美咲であった。
サブカルチャーに明るい美咲にとって、再現性秋葉原はまさに庭のような場所。
二つ返事で案内役を引き受けて、待ち合わせ場所に“武器・防具屋”を指定していた。待ち時間の間、武器商人と綾姫が退屈しないようにという配慮である。
美咲の気遣いは、成功したとも失敗したともいえるだろう。
2人は確かに退屈せずに過ごせただろう。しかし、それと同時に2人の脳裏には「どうしてこんなに粗末な武器を、これ見よがしに並べているのか」という疑問が溢れかえっているではないか。
難しい顔をして、ひそひそと意見を交わす2人の姿を美咲はじぃと見つめていた。
無理に笑顔を作ろうとして、しかし上手くいかなかった。
美咲の頬は引き攣っているし、かける言葉も見つけられないでいる。
「マジッスか……これは予想以上にタフなミッションになりそうっス」
再現性秋葉原というのはある種、特殊な土地である。
本来であれば“サブ”として扱われるカルチャーが、何故かメインを張っているのだ。
美咲の見立てでは、2人とサブカルチャーの相性は最悪に近い。
「……メイド喫茶にでも案内してお茶を濁すか？ いや。それも悪手……絶対、ひと悶着あるっス。どうして女ばかりがメイド服を着ているのか、なんて言われた日にゃあ……」
イレギュラーズの中には、男だてらにメイド服を着こなす者も大勢いるのだ。
それを見慣れた2人には、女ばかりのメイド喫茶は“異常”に見えるかもしれない。
もっとも、2人としてもメイド服が女性用にデザインされた衣服であることは理解しているので、以上のような美咲の不安は杞憂に過ぎないのだが……焦っているのか、悲しいかな今の美咲は冷静ではない。
「どうしようか？ 待っているだけというのも暇だし、試し切りでもさせてもらうかい？」
「そうですね。ともすると掘り出し物が見つかるやもしれません」
なんて、言って。
店の中へと入って行こうとする2人を、美咲は慌てて呼び止めるの。
こうして美咲の、長く辛い孤独な戦いが幕をあげるのだった。
- 執筆：病み月
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