幕間
気まぐれ幽霊の悪戯記録
気まぐれ幽霊の悪戯記録
俺様の何より好きなこと!
それは他人を揶揄うことさァ!
くだらねェことから、手の込んだ事まで
なんでもやるゼ、俺はよォ!
あァ、でも本気で嫌がられる様なことはナシな。
構ってもらえなくなっからよォ。
後、カップルにも手は出さねェ。
ああいうのに手ェだすと後が面倒くせェだろうし。
正体隠してやるならアリかもしれんが。
さァて、今日はどいつをどんな風に弄ってやろうかねェ!
気紛れ、性悪、悪戯好き。
だけどちょっぴりお人好し。
そんなクウハの悪戯記録。
Twitter紹介文+FL記録。
https://rev1.reversion.jp/guild/1335/thread/20147
関連キャラクター:クウハ
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- からから、からかう。
- 道を歩く。何処かに良いターゲットはいないものかと、視線をゆらゆら動かして。
道を歩く。何処かに悪戯を出来る相手がいないかと、首を左右にうっすら動かして。
道を歩く。何処かにからかっても良さそうな相手がいないかと、身体を前へ動かして。
クウハの視線の先には幾人もの人々が映っている。
誰もが皆、日常を過ごしているだけのただの一般人。この中から誰をどうからかってやろうかと思考を巡らせているが、良い悪戯が思い浮かばない。
さて、そうなるとどうしたものかと考えたのも束の間、突如街の中に子供の泣き声が聞こえてきた。
「おっとっと、なんだなんだァ?」
そちらに視線を向けてみれば、どうやら迷子のようだ。母親を求める男の子がずっと泣いている。
誰も皆、彼に手を差し伸べようとはしない。関わりたくない、近寄りがたいといった様子で皆足早にその場を去っていった。
(しょうがねぇなァ……)
ふう、とため息を付いたクウハは泣き叫ぶ男の子に近づいて、じっと見つめる。子供はずっと泣き叫んだままでクウハが来たことにさえ気づかない。
そんな男の子の服には、街で一躍ヒーローとなっている人物が描かれている。涙でぐしゃぐしゃに濡れた服をみて、クウハはピンと閃いた。
しゃがんで子供と同じ目線になったクウハ。子供がようやくクウハに気づいたところで、小さく嘲笑ってやった。
「だっせェなぁ。お前、そのヒーローと一緒にいるのに泣いてるとか、マジでだっせェ」
「うぇ……だ、ダサくないもん!」
「そうかァ? ヒーローだったら親がいなくなったぐらいで泣いたりしねェぜ?」
喉の奥で小さく笑ったクウハに対し、子供は泣き止んでキリッとした顔つきになった。涙も鼻水も止まらない子供だったが、それでも、ヒーローのようになろうとして。
「お、カッコイイ、カッコイイ~。これはヒーローになれたね」
「ホント? ぼく、ヒーローになれる?」
「なれるなれる。もうナンバーワン確定よ」
「やったぁ!」
そんな未来なんて知らねェけどと少し笑ったクウハ。
悪戯に笑ってやった子供が救われたことに気づいたのは、あとからのことだった。 - 執筆:御影イズミ
- 一般的な幽霊ってヤツ、サ
- とある街の、人の往来がある商店街から少し路地に入った一角。
夕暮れ時で日が陰ってきているからなのか、或いはもともとのビル群に囲まれているからなのか……人通りのないこの道は多少の薄気味悪さを感じさせる。
そんな路地裏のチカチカと点滅する街灯の下に、クウハは暇そうに立っていた。
「あー、暇だなァ。良い感じにおどかせそうなやつはいねえのかよォ……」
ふわぁ、と欠伸を一つ零して伸びをする。そんな彼の願いが届いたのか、男の声が2つ3つ、そして、困ったように声を震わせる女性の声が一つ聞こえた。
内容はよく聞き取れないが、とにかく楽しそうにしてるところにドッキリを仕掛けるチャンスだ。ニヤリ、と口元を釣り上げて歪ませ、彼らのもとに忍び寄っていく。
近付いていくにつれて、声が大きくなっていくが、どう脅かしてやろうかということばかり考えているからかその現場がどういったものなのかについては深く考えてはいなかったらしい。
女性に絡んでいる男たちうち、一番ガタイのいい男の首筋に、そっと彼の手を添える。
ヒヤリとしたクウハの『幽霊ならではの人間を感じさせない』冷たい手は、思わず男の背中にゾクリとした寒気と浅黒く焼けた肌を粟立たせた。
「ヒッ……?! ってオイ、なんだァお前?!」
男が振り返ればそこには普通の男に見えるクウハが、してやったりという顔をして立っている。
「なんだァ? なんだァって言われりゃ、まぁ、あれだァ……」
──どこにでもいる一般的な幽霊ってやつ、サ。仲良くしようぜェ、あんちゃん方よォ……。
人間離れした幽霊としてのクウハの空気感が、その場を包み込んでいと、タイミングよく街灯の明かりが消えた。
「あ、あ……うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい! お助けぇ!」
「呪われるぅ! 逃げろぉ!」
散々好き勝手に喚き声をあげながら、男たちは蜘蛛の子を散らすように一目散に逃げていく。
街灯にもたれかかるように、女性は一人へなへなとその場に座り込んだ。
「あぁ、ちょっと怖がらせすぎちまったようだなァ……ケケケ、本気で嫌がることは意図してねぇからよォ、お嬢ちゃんも気を付けて帰るん」
「……ありがとうございました」
「……ア?」
クウハの言葉を遮って女性が口にしたのは、彼が予想だにしていなかった感謝の言葉だった。
絡まれていたところを、たまたまクウハが助けてくれた……と、女性は思っているらしい。
「本当に助かりました。通りかかってくれなかったら、私、どうなってたか……本当に『神様、仏様』っているんだと思いました……!」
彼女はペコリと頭を下げて何度もお礼を言うと、そのまま明るい大通りの方へ駆け出して行った。
「……神様でも仏様でもねぇよ。俺様はただの一般的な幽霊ってヤツなんだわァ」
ぽつりと少し残念そうにつぶやくと、クウハはまたぶらぶらと路地裏を歩き出す。
明かりが消えてしまった街灯の代わりに、沈んでいく真っ赤な夕陽がクウハの背中を照らしていた。 - 執筆:水野弥生
- シャム猫は月夜の下で乙女と踊る
- 再現性東京のとある満月の日。
今日は誰を揶揄って遊ぼうかと街をぶらついていたクウハは廃れたビルの奥上に立つ影を見つけた。
女だった。長い黒髪が突風に靡いている。
表情は見えないが、決して明るいものではないだろう。顎に手をやり暫く様子を眺めていたクウハだが、女が下を覗き込んでは引き返すのを繰り返すのを見てニンマリ笑った。
決めた。今日の標的はあの女だ。
フードを目深く被り直し、屋上へと続く非常階段を登っていく。カン、カンと冷たい金属の床を靴底が打ち鳴らし硬く無機質な音を立てた。
少女はまだクウハには気付いてはいない様子で、下から観察していた時と変わらぬまま眼下の光景を覗き込んでいた。
「よぉ、何してんだ」
「ひうあっ!?」
気配を殺すのなんて悪霊にとって当たり前。
バランスを崩して前のめり、なんてことにならぬ様に細心の注意を払いピッタリとくっついて声をかければ少女の華奢な身体が跳ねた。なかなか甘美な悲鳴だ、悪くない。満足そうに頷き、クウハは少女の手を引いた。
華奢だとは思っていたが、明らかに細過ぎる。碌にちゃんとした飯は食べてないと見ていいか。
「あの、あなたは……?」
「あ? そうだなァ……通りすがりの悪霊だと思えばいいサ」
「あ、悪霊?」
「そんなことよりオマエ。飛び降りようとしてたのか?」
「……っ」
くい、と指さした方向を見て少女は気まずそうに目を逸らす。否定はしなかった。
「止める気ですか? や、やりますからね! こんな生きてても辛いことしかない世界なんて耐えられない!」
少女が吠える。予想は付いていたが彼女を取り巻く環境は彼女に自ら生命を絶たせようとさせるほど劣悪だったらしい。
クウハは首を振った。
「いーや? 言ったろォ、俺は悪霊だぜェ? むしろ仲間が増えるのは大歓迎」
わざと大袈裟な身振りで少女を腕の中に囲めば、小さく悲鳴を上げた。
「ただ……」
「え」
クウハは少女の小さな顎を掬い上を向かせた。不安げに揺れる大きな瞳には意地の悪いシャム猫が穏やかに微笑んでいる。
「あんまりにも俺好みのお嬢さんだったんでなァ。飛び降りちまうくらいなら俺が攫っちまおうと思ったのさ」
「えっ、ええっ?!」
砂糖をこれでもかと溶かした紅茶の様にとろりと甘く囁かれたならば途端に少女の顔は青から赤に変わった。そのまま月明かりを背に紫苑の双眸が少女を捉え、ゆっくりと近づいてくる。
「えっ、あ、ま、待って……!」
数秒後にきっと唇に触れる柔らかな感触に備えぎゅっと少女は目をきつく閉じた。
……。
…………。
「あれ……?」
待てども待てども唇が重なり合うことは無く、少女はクウハを見上げた。
「くっ、ふふ……」
面白くて仕方ないと言わんばかりに、クウハは口に手を当て笑い声を噛み殺していた。
「か、揶揄いましたね!?」
「いや、面白くて、つい……くっ」
「さいってい!」
揶揄われたのだという事実と舞い上がってしまった自分が情けなく少女は憤然としていた。
「ははっ、言っただろォ? 俺は悪霊だぜェ? 人を揶揄うのが生き甲斐……いや、霊だから生きてはいねぇか? とにかくそういう奴なんだよ」
暫くツボに入っていたクウハだが、呼吸を整えた後、少女に向き直った。
「ま、でもオマエのコロコロ変わる顔は見てて飽きねぇな。それにオマエが可愛いのは本当だぞ」
「もう騙されませんからね!」
- 執筆:白
- チェシャ猫のイタズラ
- とある街の駅前。
クウハは鼻歌を歌いながら、街を闊歩していた。
彼はご機嫌そうに、缶ジュースを手に持ち、シャカシャカと振りながらターゲットを探す。
街には道行く人々がいくらでもいる。その中で、イタズラをしても良さそうな人物を探していた。
ふと、クウハの視界に、ひとりの女の子が映った。
ひとりでつまらなそうに、駅の壁にもたれて、自分と同じように街の人々を眺めているその女の子に、クウハは口の両端をつりあげる。
――今日のターゲットは、この女にするかァ。
「お嬢ちゃん、随分ヒマそうだなァ?」
クウハが声をかけると、女の子は不審そうな目を向ける。
「なに、ナンパ? あっち行ってくれる?」
「そんなつれないこと言うなよ。退屈そうなお嬢ちゃんにプレゼントがしたいだけサ」
そう言って、先ほどまで持っていた缶ジュースを手渡す。
「……なんか変なものでも入ってるんじゃないでしょうね」
「そんなに信用ないなら調べてもらっていいぜ」
女の子は缶をひっくり返す。底に穴も空いていないし、もちろんプルタブを開けた痕跡もない。
「……ふん、まあもらってあげてもいいけど」
女の子が缶ジュースのプルタブに手をかけるのを、クウハはニヤニヤと眺める。
缶ジュースを開けた瞬間、ブシュッ! と、中の炭酸が噴水のように溢れ出した。
「わっ!? な、なに!?」
「ククッ……ケッケッケッケ! さっきまでシャカシャカ振りまくってたから、いい噴き出しっぷりじゃねえの!」
女の子はぽかんとして、噴水のように湧き出る炭酸ジュースを見つめている。
そして、クスクスと笑い始めた。
「ん? なにかおかしなことでもあったか?」
怒り出すと思っていたし、怒られても仕方のないイタズラをしたつもりだった。
「ううん、こうやって、誰かとふざけて戯れるの、久しぶりだったから……ありがとうね、お兄さん」
女の子の言うところには、友人と待ち合わせをしていたのだが、到着時間が遅れるとのことで退屈していたようだ。
女の子は噴き出しが落ち着いたジュースを飲んで、「ごちそうさま」とクウハに微笑みかけた。
「じゃ、友だちも来たみたいだから、私はもう行くね。暇つぶしに付き合ってくれてありがとう」
友人がこちらに寄ってくるのを見た女の子は、手を振ってクウハのもとから離れていく。
「うーん、こんなはずじゃなかったんだがなァ……?」
イタズラは成功したものの、思っていたのと違う結果に、クウハは笑いながら残念そうな顔をする。
――まあ、思わぬ方向に転ぶから、イタズラは楽しいのだ。
クウハはまた、次のターゲットを探しに、街をブラブラと歩き始めたのだった。
- 執筆:永久保セツナ
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