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幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

蒼薔薇のタナトス日記

関連キャラクター:善と悪を敷く 天鍵の 女王

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●君は遠い空の下
 ――さて、ひと月ばかりほど遅れてしまいました。
   こちら、贈り物のチョコとなります。
   少々手が混みすぎまして、お渡しがこの頃となってしまいました事をまずはお詫びを申し上げます――

 余りそういうイベントに縁のない屋敷に甘やかな贈り物が届いたのは小春日和の麗らかな三月中旬の出来事だった。
 かつて蛇蝎のように嫌われたアーベントロートの薔薇園の雰囲気も、今日この頃は気候のように和らいでいる。
 当の当主が諸悪の根源だったという事実は、正直を言えば醜聞極まりない話なのだが、それはさて置き。『悪い憑き物』が落ちたかのように穏やかさを増したその場所は以前よりはずっと誰にも近しく門扉を開いていたけれど、アーベントロートの新しい執事はこの時ばかりは些かおどおどと主人の様子を伺わずにはいられなかった。
「……レジーナ様は、何と?」
「用件があるから、手紙でこれをとの事ですわね」
 文字通りの薔薇のような美貌をぷっくりと膨らめ、白磁のカップに唇をつけたリーゼロッテ・アーベントロートは見るからにご機嫌斜めであった。
 執事が思い浮かべた顔はそんなリーゼロッテにそっくりな一人の少女の姿である。誰よりも彼女に忠実で、誰よりも彼女に尽くしている――
 そんなレジーナ・カームバンクルがイベント事を『外す』のは確かに珍しい話である。
「……とは言え、今回はやむを得ない話なのでは……」
「……」
 釈迦に説法とはこの事だ。彼女等は幻想の暗部を司る『諜報機関』なのだ。
 鉄帝国動乱は国境を接している北部アーベントロート勢力圏でのトップニュースである。
 世話焼きで面倒事に首を突っ込むローレットの連中がそれを捨て置かない事は知れていた。
 ……そして、少なくともこのリーゼロッテ・アーベントロートはそんな彼等のお節介癖を悪く言える筋でない事だけは間違いない。
「ねぇ」
「……はい」←嫌な予感がしている
「貴方は、例えば――そう。例えば恋人に」
「……………はい」←やだなあこの話題と思っている
「『仕事と私、どっちが大事?』と聞かれたら、どう答えます?」
 気まぐれな猫のようなお嬢様は問うておきながらその答えは期待していなかったらしい。
 贈り物のケーキを銀のカトラリーですくった彼女は無言でそれを小さな口の中に放り込んだ。
「分かってますわよ、そんな事」
 怒るに怒れない。拗ねてみせても――余り上手にはやれないだろう。
 不器用で淡い甘みは作り手の事を知るに十分過ぎたから。

https://rev1.reversion.jp/illust/illust/77457
執筆:YAMIDEITEI

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