PandoraPartyProject

幕間

ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。

追想の花園

関連キャラクター:ルミエール・ローズブレイド

英雄
 私が見て来た中でも随一に魔術の素質が有った仔。
 雲が裂けて、明るい空から降り注ぐ日照り雨の様な黄水晶の眸を持っていたわ。しとしとと雨の降る此の時期に出逢ったのよね。
 貧民窟に在りながら他の誰よりも明るくて、眩かった。けれど黄玉を宿した他の子供達に何時だって利用されてた。
 『黄玉の身代わり』『シトリン・トパーズ』。
 此れが昔の不名誉な黄水晶の呼ばれ方。其の『みにくいアヒルの仔』を私は拾って――春夏秋冬を過ごしたわ。
 
 誰に教わった訳でも無いのに魔力で物を手繰り寄せて人のお財布を奪ったり、店の苹果をちょろまかして暮らしていたと云うから驚きで――永い生の暇潰しに魔術の基礎を叩き込んでみれば、うんと吸水力の強い海綿みたいにぐんぐんと吸収して行って、流石の私でも舌を巻いたっけ。
 マンドレイクの牙、蝶々蜥蜴の尻尾に四葉のクローバー、月が零した泪に薔薇とお塩を少々。其れらを点火魔法で燻して水分を飛ばし、粉末にした物を生地に練り込めば飢えを凌ぐパンの出来上がり。
 其れから、痛みを和らげる殺菌作用のあるポーションに、迷いや悩みを解消して楽に死ねる甘いトローチ。
 調合魔法に強い興味を示して、且つ熱心だから初めにあげた手帖はみるみる使い込まれてぷくぷくに膨らんで――其れを誇らし気に見せて来た。精霊とも仲が良かったし、本当に優秀な仔。

 そんな唯一の門下生も、何れ旅立つ時が来る。
 何処かの領の領主の圧政に、煮湯を飲まされ続け苦渋を強いられる日々から民を救う為のレジスタンスとして、彼の噂を聞き付けた貧しい子供達に願われて――望まれて――担ぎ上げられて、旅立った。
 其処からの動向までは私が知る由も無いし、特段興味も無かった。過干渉は母親失格だもの。
 或日の朝、美しい『白鳥』が私の工房を訪ねて来て――挨拶をする様に頭を垂れて、空高く飛び立って行ったから。
 屹度、逝ってしまったのだなあ、とだけは解ったわ。ねえ、初めて口にしたトローチはちゃんとに甘かった?

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 其れはとてもよくある話。よくある、人の生の形。
 今でもすきっと爽やかな檸檬を見ると思い出す時がある。
 嗚呼、もう随分と経ったのね――屈辱極まりない二つ名も今はそんな風に呼ぶ人は居なくて、黄水晶は黄水晶として、其の透き通った美しさに希望を見出されているのよ――あなた。
執筆:しらね葵

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