PandoraPartyProject

幕間

突撃!エリカの今日の晩御飯!

関連キャラクター:エリカ・フェレライ

愛の味
「俺を食べて欲しい」
 そう、言われたのでありがたく頂くことにした。愛しているから食べて欲しいと。
(どういう意味なのでしょう)
 ブチブチと音を立てて肉を。バキバキと音を立てて骨を。余すことなく食べながら考える。
『愛している』と『食べて欲しい』はイコールではないと思っていた。だってそれが普通なのだから。
 けれども今、自分の腹を満たす食材となった彼は『愛しているから食べて欲しい。君の血肉になりたい』そう言った。そう言ったのだけれど。
(エリカには理解できない感性なのです)
 愛した事があったかは覚えていない。だって人間も場合によれば彼女の食料に過ぎないから。
 バリバリごくん。肉体を全て平らげて彼女は嗤う。
「あなたの『愛』とやらは理解できませんでしたし、味に影響もありませんでしたけれどエリカの腹は多少満たされました。喜んでくれてます?」
 返事はない。魂まで喰らってはいないけれど、生憎と魂の声を聴くことも応えることもできないのだ。何故なら彼女は暴食。
 殺し、喰らい。いつまでも満たされない腹を抱えて生きていく暴食の化身「エリカ・フェレライ」なのだから。
執筆:紫獄
ケイブ・フィースト
「困ったのです。このままでは外に出られないのです」
 エリカ・フェレライはローレットで受けた洞窟調査中に突如入口が落盤してしまい、一人で閉じ込められてしまった。残念ながら、日帰りで終わるだろうと持ち込んだおやつしかないし、その気になれば岩や土を食べれば良いが気は進まない。不幸中の幸いか窒息はなさそうだ。
 何をするにも腹が減るからと壁面から生えていたキノコを毟り取り口に運んでいたら、奥から何かの息遣いが聞こえてきた。その声は人ではなく、眠りこけている丸々と太ったクマのイビキ。こっそりと近づいたエリカには一切気づく事はなさそうだ。
「ふふ、美味しそうなのです」
 エリカはそう呟いてペロリと舌舐めずりをしながらクマの頭を一撃で粉砕した。無防備のクマは容易く物言わぬ食材と化した。
 食材を調達したら次は調理。どこでも簡易キッチンを使い、薄切りにして焼いていく。獣ならではの臭みが周囲に充満するが、エリカはお構いなしにお腹を鳴らす。焼けるたびに肉は口の中に消え、次の肉がフライパンの中に飛び込まされる。
「臭みはすごいですが脂はよく乗っていて美味しい……これだけ大きなクマさんならもっと沢山の料理を食べられそうです……そうだ、持ち帰れば誰かが調理してくれるはずなのです!」
 思い立ったが吉日、まずはクマをグラの亜空間に収納し――食べたい欲を抑え、次は落盤した入口を腹ペコパワーでこじ開けて脱出。それからクマの体積は帰ってくるまでにさらに3割ほど減ったが、エリカは無事にローレットまで帰還し、ベアシチューを始めとした熊料理に舌鼓を打つことができた。
「臭みが抜けていてただ焼いた時よりも何倍も美味しいのです……!」
 依頼は達成、食材も確保、美味しい料理も大量に食べられて、今日はエリカにとって最高の結果になった一日だった。
紅き夕餉
「散々他人から奪う生き方をして、そんな顔をするんですね」
 エリカ・フェレライは鼻で笑い、追い込まれた男の前に立ちはだかった。
 ――時は夕暮れ。山賊の退治を請け負った彼女は、今まさに彼らの隠れ家を襲い、同時に夕食も摂っている真っ最中である。手狭とはいえない洞穴はすでに、何処へ行こうが人血の芳香が付いて回るような有り様になっていた。点々と続く返り血の跡は、ついに首魁の居室へと。
 エリカとて道理を無視するほど冷酷ではない。生きるために致し方なく強奪を続けているのならば、情状酌量の余地は残っていた。それがこんなにも、そそられるほどに肥え太ってしまって!
 舌舐めずりをする。善悪と倫理にまつわる問答をするつもりもなければ、命乞いを聞き届けるつもりもなかった。もう何人も胃に収めたが、まだまだ欲求は満たされない。疼く飢餓が目の前を眩ませ、単純化された思考が即物的な手段へと掻き立てる。
 彼女の柘榴色の髪が靡き、背後の闇より影が伸びた。
 影。立ち昇る貌はやがて捕食者の輪郭を形作る。緋色の双眼が灯り、今宵の獲物を睥睨した。
「た、たすけっ――」
「いただきます」
 甘く酔いしれた声音が、食事の始まりを告げた。
 影が牙を剥く。絶叫が響く。
 永い静寂の訪れた洞穴で、最後に残ったのは、機嫌良く腹をさする少女と、彼女に付き添う闇の獣だけだった。



「あぁ、よく無事で! 戻ってこないかと思ってたよ!」
「この村の皆さん、もう山賊の心配をしなくていいのですよ」
「え? ……と、とりあえず、中に入りな。まだ夕食も食べてないだろう? 量は少ないけど、特製のスープを用意してるよ」
「やったぁ!」
執筆:
悪食たちの集う店。或いは、レストラン・ハンニバル…。
●限定メニュー
 薄い肉を箸で摘んで、口の中へと放り込む。
 硬い肉に染みた塩味が、噛めば噛むほど舌の上に広がった。
 醢(ししびしお)と呼ばれる料理だ。
「雑食のお肉は少し癖が強いのです」
 もぐもぐと肉を嚙みながら、エリカはにぃと口角をあげた。
 上質な塩で仕上げた癖のある肉も、しっかりと噛めばなかなか味わい深いではないか。
 ゆっくりと時間をかけて、醢(ししびしお)を味わうとエリカ・フェレライはメニュー表へ手を伸ばす。
 海亀のスープに、肉餅、肉鍋。
 料理の名前を指でなぞって、エリカは笑みを深くした。
「肉餅と海亀のスープをお願いするのです。あぁ、付け合わせはマンドラゴラのサラダでお願いします」
 厨房へと視線を向けて、エリカは次の料理をオーダー。
 無言のまま、料理人は調理へと移ったようだった。
 
 暫くして肉餅……つまり、ハンバーグと海亀のスープが運ばれる。
 濃い味付けの肉餅を綺麗に切り分けて、大きな口で咀嚼した。じわり、と溢れる肉汁が口内を満たし、喉から胃へと滑り落ちた。
 次にスプーンでスープを掬うと、音を立てずに唇へ運ぶ。
 さっぱりとした味付けに、小さく切られた赤身肉。
 舌に残った脂っぽさが、するりと洗われるようだった。
 くすり、と。
 エリカは笑って、ポケットの中からドッグタグを取り出した。
「そちらは?」
 厨房の奥から、料理人が問いかける。
「エリカを襲った、人攫いさんのドッグタグです。ご丁寧に所属している組織の名前が書いてあるので、近々遊びに行こうかと」
「然様ですか。その際はぜひまた当店をご利用ください」
 なんて。
 どこか嘲笑を孕んだ風な声音でもって、料理人はそう告げた。

 食事を終えて、エリカは店を後にする。
 レストラン・ハンニバル。
 客の持ち込んだ素材を使って、その場で料理を仕上げてくれる小さなレストランだ。
 料理の腕は超一流。
 扱う食材は選ばない。
 けれど、その店の場所を知る者は少ない。
 悪食たちの集う店など、広く知られる必要はないのだ。
執筆:病み月

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