PandoraPartyProject

幕間

アナタの譜面

関連キャラクター:リア・クォーツ

星の旋律
 長い睫毛を震わせてリアは目を覚ました。
 するりと肩から滑り落ちたシーツを手繰り寄せて時計を確認すれば時刻は午前二時三十一分。真夜中だった。
 もう一眠りしようかと再度ベッドに横になるが、どうにも目が覚めてしまったらしく、手放した眠気は戻ってこなかった。これはダメだと諦め身を起こし窓の外の濃紺の星空を見上げる。

 夜空に輝く星々はいつだって規則正しく軌跡を描いて廻っていて、いつだって残酷なくらい変わらずにそこに在り続けている。

 リアが産まれた時も。
 孤児院(ここ)に来た時も。
 大切な誰かを想う時も。
 ずっと、変わらずに煌めいている。

「……頭が痛いわ」
 こんなに穏やかで優しくて、美しい旋律(メロディー)なのに頭蓋を叩き割る様な酷い頭痛がする。
 触れたいのに、触れられない。
 凍りついた薔薇の様だった。
 リアの周囲は優しくて、温かな人々でいっぱいだ。なのに、その人達の笑顔が。言葉が。
 幸せな音が零れる度に荊の棘はリアを傷つけた。
 痛くて痛くて仕方ないのに、このリア・クォーツという女性はどうしたって痛いんだと泣き叫ぶことができなかった。それが強がりからなのか、はたまた痛みに慣れてしまったからなのかは解らないけれど。

 窓ガラスにそっと触れると夜の空気に冷やされた硝子が指先を伝い、その冷たさをリアに教えてくる。どうにもその冷たさが心地よくて、暫くリアは硝子をなぞっていた。楽譜に書かれた音階を指先で追う様に。
 どれくらいそうしていたかは分からないが、時計の針は随分進んで深夜三時を大幅に廻っていた。
「流石に寝ないと」
 もう一度ベッドに横たわって瞼を閉じる。そのうち睡魔がじわじわ押し寄せて、リアを幸せな夢へ誘った。

 空には相変わらず星が輝いて、強く瞬いた。
執筆:
太陽の旋律
 幻想バルツァーレク領の一角にあるのは『セキエイ』。緑豊かでありながらしっかりと整備され治安も良い為、バルツァーレク領の流通の要のひとつとして栄えている街。その近くにある森の湖畔に建っているのは、ここの名所の一つ『クォーツ院』である。
「おーきーろー!!」
「うわあぁぁ!!」
 朝。院外まで響くのは見習いシスターのあの子達を含めた院に住む子供達の声だろう。この声は殆ど毎日聞こえてくる。余程の寝坊っ子が居るのだろう。この声がこの森に響くようになって数年……それはもう日常なのである。
「そんなクソうるせー声出さなくてもいーじゃねーか!!」
「毎日毎日素直に起きないアンタが悪いんでしょ!」
 その後の声は普段の声に戻ったのか聞こえにくくなっていた。きっと朝ごはんだからと言う話だろう。この二つの声を聞くと一日の始まりを感じるし、聞こえないと何かあったのでは時になってしまう。

 この通りを散歩道にしてから数年経つが私はそこまで院の人々と関わりを持てていない。だから気にしても仕方の無い事ではあるのだが……日常的にずっと聞いてきた声の主へ妙に親近感が湧いてしまっていけないのである。
執筆:月熾
嫌悪、嫉妬、アンダンテ

 嫌悪の音色を御存知だろうか。
 いいや、それを知っているひとは少ない方がいい――と、リアは思う。
 突き刺すようなメロディ、不協和音。耳障りで不愉快な、それでいて聞かなければならないと言う使命感に苛まれてしまうのだから、クオリアの祝福は面倒極まりない。
 リアがはじめてその音色を理解したのは、幼い頃に少女から嫉妬の感情を向けられた時だ。
(……何、この音)
 いつも穏やかに笑っているだけの少女から、これでもかと言うほどのつんざくような音色が響いてくる。
 それはリアにとっては恐怖と興味のないまぜになった譜面(たいしょう)で。

「ねぇ、あたしに何か言いたいことでもあるの?」

 なんて言ってしまえば、少女の心も爆発すると言うもの。
 泣きわめき恨みの積もった目を見たその時、リアは理解した。
(ああ、)
 それは嫉妬なのだと。
 後から聞いた話だ。
 その少女は、リアのヴァイオリンの音色に焦がれてヴァイオリニストを志したのだという――
執筆:

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