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幕間

狩人の日常

関連キャラクター:ミヅハ・ソレイユ

鹿肉のステーキ
 時刻は早朝五時、涼しい森林迷宮でミヅハは狩りに来ていた。
 風の音、木の葉の擦れる音に混ざりがざり、と何かが動いた音がした。そちらを振り向けば鹿が駆けていくところだった。
(おっ……)
 透き通ったダークブラウンの双眸が標的を捉え、愛用の大弓を構える。
 鹿は可愛らしく人に害を与えることは無いが放っておくと餌を求めて農作物を荒らす為、害獣として指定されている。
「悪く思うなよ」
 弦を引き絞り、獲物の動きを予測して手を離した。風を切り真直ぐ飛んだ矢は正確に鹿の心臓を射抜く。
「ぎっ」と短い断末魔を上げた後、鹿はその場に斃れた。
 仕留めた獲物の元へ駆け寄り死を確認すると、腰に提げた鞄から解体用のナイフを取り出す。
 狩りをするときは迅速かつ、的確に。
 ヘタに仕留め損ねれば肉の鮮度が落ちるだけでなく、獲物を長く苦しませてしまう。命を奪うからにはできるだけ苦しみは最小限に、それが森で暮らす狩人の心得だ。
「ありがたく頂くからな」
 手慣れた様子でナイフで切り込みを入れ、皮を剥ぐ。剝き出しになった肉を部位ごとに切り分け川で血を洗い流す。
 わりと大柄な鹿だったらしく、暫く食べるモノには困らなさそうだ。余った分は干し肉にしておけば非常食にもなるだろう。
 皮は街に持っていけば買い取ってもらえる。骨は焼いて砕けば肥料に使える。
 頂いた命の一つたりとも無駄にはしない。
 それがミヅハの流儀だった。
「よっし、こんなもんかな。昼飯にするか」
 作業に没頭していたらいつの間にか太陽は空高く昇っていて、鳴った腹の音が昼時を告げる。
「新鮮な肉も手に入ったし、今日はこいつにしよう」
 小屋に戻ったミヅハはフライパンを火にかける。鼻歌交じりにバターを溶かして塩と胡椒で下味をつけた鹿の肉を投入すると、じゅうじゅうと肉が焼ける音と、バターの香ばしい匂いが鼻孔を擽って涎が垂れそうだった。
 慌てて口元を拭い肉をひっくり返して裏面もしっかり焼いていく。鹿に限らず、ジビエは火をしっかり通さないと腹を壊すこともあるのだ。
「ああ~、すっげぇいい匂い」
 以前取ってきた山椒とハーブで即席のスパイスを拵え、肉汁と絡めてステーキソースとする。
 皿に盛り付ける時間さえ惜しいので、キルトで作られた鍋敷きを引っ掴んでその上にフライパンを乗せた。
「いただきます」
 手を合わせ、命に感謝し肉を頬張る。
「うっめぇ~!」
 ステーキに舌鼓を打ちながらミヅハはこの後の予定を脳内で立てていく。
 まず肉を保管して、干し肉にして。それから皮を加工して、ああ向日葵に水もやらないと。それから、それから……。

 これは森林を愛し、愛された狩人の日常の一幕。
 
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