PandoraPartyProject

幕間

物語

関連キャラクター:マッダラー=マッド=マッダラー

龍神の花嫁
 六月か、ふむ。この時期に結婚式を挙げた花嫁は幸せになると言われている。
 そうだ、ジューンブライドという奴だ。
 そうだな。では今日は雨と婚姻の噺をしようじゃないか。


 龍神の花嫁。

 ある所に、龍神を祀る村がありました。
 しかし信仰とは時が過ぎるごとに薄れ行くもので、いまや龍神の棲家とされる龍神池はゴミや泥で汚れていました。
「まあ、酷い。此処は龍神様のお住まいなのに」
 その龍神池に毎日通い懸命に掃除している者が一人だけおりました。
 顔に生まれつき痣がある彼女は醜女と村から呼ばれ虐げられてきました。奉公先の屋敷でも『まだマシ』程度でいろんな仕事を押し付けられ、屋敷の我儘娘にこき使われる日々でした。龍神池の掃除もその一つ。
 しかし、この龍神池で掃除する時間が醜女は好きでした。此処では自分を虐げる者は居ないからです。

 そんなある日のこと。
 娘の買い物の付き添いから帰ってきた醜女は帰り道の山中で蹲る青年を見つけました。
「まぁ、大変!」
慌てて青年に駆け寄ると脚のあたりから血を流しており、痛みに喘いでいる様でした。
「お嬢様、この方怪我をしてらっしゃいます。お屋敷まで連れていくのを手伝ってはいただけませんか」
 醜女の依頼を娘は嫌そうな顔をしてふんとそっぽを向き断ります。
「嫌よ、血で着物が汚れちゃうし重たくて疲れちゃうわ。それに酷い匂い!
 鼻が曲がりそうだわ。やるならあんた一人でやりなさい。家にあげないでよね」
「そ、そんな……」
 ふん、と娘は二人にに見向きもせず帰ってしまいました。仕方ないので醜女は近くの洞穴へ青年を運び懸命に手当てしました。
 来る日も来る日も醜女は懸命に手当てしました。
「ごめんなさい、こんな暗くて冷たいところで」
「いいえ、ありがとうございます」
 醜女の手当てで青年はすっかり歩けるくらいに回復しました。
「本当にありがとうございます。君は命の恩人だ」
「そんな私は当たり前のことをしただけで」
 謙遜する醜女に青年は柔らかく微笑みました。
「それにしても、私はともかく……君に対する村人の態度、酷い物だ」
「慣れましたから、気にしてません」
 醜女が言うと青年は眉根を寄せ、その手を握りました。
「今夜、月が昇ったら龍神池に来てくれ。誰にも言わないで」
「えっ」
「約束してくれないか」
 醜女は狼狽えましたが、はいと頷きました。


 その晩、豪雨が村を襲いました。
 突然の出来事に、村人は慌てふためくばかり。
 龍神様の祟りだと青褪めても時既に遅く、立派だった屋敷も、庭も全部濁流に呑まれていきます。

 助けて、助けて。

 必死に屋根に、木にしがみついて天に手を伸ばしていた村人達も娘も全部冷たく苦しい水の中へと全部飲みこまれてしまいました。

 一方、龍神池の周りは水に呑まれていませんでした。この村一番の高さの山にあったからです。醜女はポカンとしつつ、周囲の事態におろおろとして居ます。すると池の中から凛とした声が聞こえます。
『ああ、来てくれたんだね。本当によかった』
 はっと、醜女は気付きました。
 手当てをしていた青年の声ではありませんか。
「あなたはあの時の……」
『君はずっと此処を綺麗にしてくれていたね、それにとても優しい』

 水面に波紋が広がり、ざぱりと龍神様が現れました。その身体は真っ白でとても綺麗で、醜女を愛おしげに見つめる眼差しはとても優しい物でした。

『君さえ良ければ、私の花嫁になって欲しい。心優しい君が』
 醜女の目からポロポロと涙が溢れました。生まれてずっと虐げられてきた醜女は、こんなに優しい言葉をかけてもらったことがなく。
 ましてや、求婚されるなんて思っても見なかったのです。
「はい、私で宜しければ」
『おいで、私の可愛い花嫁』
「はい、私今とても幸せです」
 龍神が醜女がずっと好きでした。
 自分が汚れるのも厭わずに、心から寄り添ってくれたのが彼女の優しさに惹かれたのです。

 龍神の背に跨り、水の底へと消えていく醜女は不思議と息苦しくも冷たくもありませんでした。それどころかこんなに暖かくて、優しくて涙が溢れて止まりませんでした。
 二人は仲の良い夫婦となり、幸せになりました。
 めでたしめでたし。
執筆:
水やり
 深い々い緑の奥、人の知れない果ての果て。
 ただのひとつ、のたうつ沼が在りました。
 彼等に知性はありません。彼女等に輪郭はありません。
 只管に、怠惰と時間を貪っていきました。
 そんな無聊な日々、永久の内の欠片。
 なんと人間が迷い込んできたのです。

 人間――それを男だとか、女だとか、認識する事も沼には出来ません。
 沼は如何してか腹が減ってしまい、人間を引き摺り込んでしまいました。
 これはとっても『おいしい』なぁ。
 ようやく知性を手に入れたのです、これは確か脳味噌だっただろうか。

 自らが人間ではないと悟った沼は、どろりどろりと思考します。
 もっと食べたい、もっと食べてみたい、もっと理解してみたい。
 想いと思いが積もりに積もって、副産物が転げ落ちました。
 これは人間が望んでいたものに違いない!
 ――沼はここにきて自分が『神様』なのだとわかったのです。

 それからというもの、沼はたくさんの知識を集めました。
 神様なんだから、神様なんだから、神様なんだから――。
 ――さて、世界には何が残されたのでしょう。

「子供達に聞かせてやってよ、きっと柔らかく、すくすく育つからさ」
執筆:にゃあら
満月の村
 満月の日に刃物を扱ってはいけない、という言い伝えと風習が残っています。
 今は昼なので分かりにくいのですが、村の中央に大きな池がありますでしょう?
 あれは鏡池。それはもう綺麗に何でも映します。
 でもだから、あれに魔力を持つ満月が映ると、人にも魔性が移ってしまうんだそうです。
 だから専門の占星術師にお願いして毎日、月の様子を視て貰っているんです。
 え?食事の準備とかはどうしてるのかって?
 昼の内に作っておいたり、食べなくても良いように朝昼でいっぱい食べます。
 人を襲ったりするより、ちょっとの空腹がマシですからね。
 ちょうど明日くらいが満月なんだそうです。
 ですから旅人さん、ちょっとこの村で満月を観ていきませんか?

執筆:桜蝶 京嵐
ウェルウィッチア。或いは、砂漠の果ての失われ禁忌…。
●老呪術師はかく語る
 砂漠のどこかでウェルウィッチアを見つけたら、近くで人の死体を探してみるといい。
 干からびた死体じゃだめだよ? ちゃんと野干に食いつくされて、骨だけになった奴じゃなきゃだめだ。
 それから、適当な獣を1匹捕って来な。肉はあんたが食っていい。必要なのは内臓だけさ。
 後は、そこらへんの砂を十分な量、獣の血と朝露でこねて泥にするんだ。
 それをウェルウィッチアの真ん中に置いて7日間、月の光にあてて見な……意思を持った泥人間の出来上がりさ。
 命が作れるわけがないって?
 じゃあ聞くがね……あんたは一体、どんな風に生まれたんだい?
執筆:病み月

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