幕間
ストーリーの一部のみを抽出して表示しています。
死牡丹桜花
死牡丹桜花
関連キャラクター:サクラ
- そういうとこだよ……
- ●稽古一幕
「――はあッ!」
年相応の――それも可憐な少女の発したものとは思えない。
獣性を開放したサクラ(p3p005004)の吐き出した裂帛の気合は何処か血生臭く、整った美貌は大凡好きな人に見せるには『はしたない』渇望を帯びていた。
かつて目の前の『師匠(センセー)』――死牡丹・梅泉(p3n000087)に『踏み込みすぎ』とあしらわれた彼女だったが、本質は不変。
彼の制止さえ振り切るかのように愚かに直線的に、死中活を求める剣は何ら姿を変えていなかった。
「まったく――」
サクラを相手取る梅泉はと言えば、そんなサクラの一本気に珍しい苦笑さえ浮かべていた。
直せと言って直るなら苦労はあるまい。それをよく承知の顔である。しかしながら弟子の危うい剣は彼の本意であり、不本意でもある。
――カッ!
乾いた音を立てて木刀がサクラの聖刀を跳ね上げる。
「!?」
「名(サクラ)は姿を表さぬとはこの事よな」
実戦の梅泉ならば腹部に強力な蹴りでも御見舞しよう所なのだろうが――
今日の彼はサクラの腕を掴んで捻り上げる。合気か柔術か知れぬ『それ』で女怪を地に調伏した彼は少女を長く抑えつける事も無く手を離す。
「今日は終いじゃ」
「……むぅ」
サクラは何時もと同じように少しむくれた顔をした。
押しかけ女房ならぬ押しかけ弟子をして随分経つ。最近は梅泉も諦めたのか稽古を否定する事もない。
しかし、一向に相手にされないのは屈辱である。
(たてはさんじゃあるまいし――って、そんな事を考えたら酷いよね)
反省、反省とサクラは頷いた。
まぁ、サクラは幾度も彼女に斬りかかられているから、この位を考えるのはお互い様である。
「別に、主の戦り方を否定する訳ではないのじゃがな」
「……うん」
「意気は買うがな。主は――わしが喰らう前に散りそうで敵わんわ」
「惜しいって思ってくれるって事……?」
「わしは惜しくもない枝振りに時間をかける男ではないのでなあ」
地面で泥だらけになったサクラの一方で、空を眺めた梅泉は呼吸の一つも乱していない。
水底で足掻いていた、全身が鉛のようだったかつての自分とは全てが違う。
この瀟洒な男は何ら己に嘘等吐かないのだろうとサクラは思う。
(……だから、好きなんだ)
自覚して、そう思う。あくまで眩しく見てしまう。
「主は試練を受けるだろうよ」
兄の話は聞いていた。頷いたサクラは思わず唇を引き結ぶ。
「わしはな。主が預かり知らぬ場で散る事を望まぬ。
……これも数奇で酔狂よなあ。死牡丹梅泉が桜を愛でて育む等とは」
「……っ……」
「強くなれよ、サクラ」
「そういうとこだよ……」
「……は?」
「……そういうとこなの!!!」 - 執筆:YAMIDEITEI