PandoraPartyProject

幕間

『都市伝説“プリズム男”目撃談』

夜遅くまで遊んでいると、虹色の煌めきを見かけることがある。
逃げれば何も起きないけど、虹色に近づいてはいけないよ。
“プリズム男”が、やって来る――


関連キャラクター:アイザック

悪い子と良い子
 Aに呼び出されBはガシガシと頭を掻きながら約束のハンバーガーショップへ向かっていた。
 時刻は深夜一時十五分。良い子はとっくに寝ている時間だ。
 店内でAを見つけたBは店員に注文した後、席へ向かった。
「ったく、なんなんだよこんな時間に」
「わ、悪ィ。聞いてほしいことがあってよ」
「聞いてほしいこと?」
「……プリズム男って知ってるか? 都市伝説のやつ」
「あ~ね、聞いたことはあるわ」

 プリズム男。
 夜遅くまで遊んでいると、虹色の煌めきを見かけることがある。
 逃げれば問題ないが、決して近づいてはいけない。
 プリズム男がやってくる――。

 よくある都市伝説の一つだ。
 溜息を吐いてBはAに問いかける。
「まさか、そんな話する為だけにわざわざ呼び出したのか?」
「違ぇよ! 俺、その、見ちまったんだよ! プリズム男!」
「はぁ?」
 小さい子どもならともかく、Aは17歳である。
 都市伝説に本気で怯える年齢はとっくに過ぎているだろうに。

 しかし、鼻で笑い飛ばすには明らかにAの様子はおかしい。
 きょろきょろと忙しなく視線が動いているし、顔は真っ青だ。指先までガタガタと震えていて明らかに怯えていた。
 BからすればAは親友でもあり、弟の様な存在だ。
 さすがに話を聴いてやらねば可哀想かと向き直る。

「とりあえず話してみろよ」
「あ、ありがとう……実は」
 
 Aは所謂不良である。
 毎日夜遅くまで遊ぶのが日課だった。
 いつもの様に警察官に注意され口先だけの反省をし、まだまだ遊ぶぞと振り向いた時。

 虹色に光る頭を見た。

『う、うわああああ!』
 訳も分からず夢中で逃げた。震える手で家の鍵を開け慌てて自室のベッドに潜りこんだ。

「……って訳なんだよ」
「ははぁ、成程。で、こんなコト親に言える訳ねぇから俺を呼び出したってわけか」
「それに関しては、本当に悪かったと……ひゅっ」
 気まずそうに目を逸らしたAが窓の外を見つめて固まった。
 見開かれた目は焦点が合っておらず、汗は滝の様に噴出し、酸素を求めて口を開閉させている。
「おいどうした!?」
「に、にじいろ、あたま」
 Aが指さした方をBは見た。しかしそこには道路と歩道しかない。
「しっかりしろって! 何もいねぇよ!」
「あ、ああ、あああ!!」
「おい! 待てって!」
 Bの制止も虚しくAは喚きながら店を飛び出した。
 直後にブレーキ音と、衝突音。劈く悲鳴――。
「嘘だろ……」
 パニックに包まれた店内でBは呆然と立ち尽くすしかなかった。

 実はプリズム男に見つかっても見逃してもらえる方法がある。
『ちゃんと家に帰る』
 そう答え、約束を守ればプリズム男はもう現れない。
 しかし、その約束を守らない悪い子には『痛い目』に遭わせるのだという……。 
執筆:
家出の少女
 少女は家出していた。帰るつもりもなかった。
 父はいない、母はいつもいつも怒ってばかり。だったら、外でいつも母に文句をつけられる『悪いお友達』と遊んでいるほうが気が楽で自由だったから。
 学校をさぼり、友達たちとつるんでゲームセンターを回り、買ったお菓子を路上で座り込んで食べ、夜になって咎めに来た警察を馬鹿にしながら逃げて。
 路地裏のいつものたまり場に戻ってきたときに、ソレはいた。

 きらきら輝く虹色。四角い大きなプリズムが浮いている。
 普段なら綺麗なはずのそれは、路地裏の暗さもあってとても不気味に見えた。

 プリズム男、と誰かが呟くのが聞こえる。呟きが聞こえたのだろうか、プリズムの頭がこちらを振り返ったように見え……次の瞬間大パニックになった。
 ――馬鹿! なんで声を出したんだ!
 ――見つかったらおしまいなんだろ、アイツは!
 ――逃げろ、捕まったら何されるかわからないんだぞ!
 悲鳴を上げて少女の友達たちが逃げ出す。一方で少女はたった一人、恐怖に負けて逃げることも叶わずにその場に座り込んでいた。
 プリズムには目がないはずなのにじっとこちらを見ているように感じて、動けなかったのだ。
 ゆっくりとプリズム男が近づいてくる。足は震えて力が入らない。もうダメだ家出なんて馬鹿なことするんじゃなかった、そう思ったとき。
「こんな夜中まで遊んでいるなんて、君は悪い子だね」
 降ってきた声に顔を上げた。プリズム男と目が合った。その視線がどこか咎められているように感じて思わず少女は言っていた。
「ご、ごめんなさい……」
「反省したかい? だったらちゃんと家に帰るんだよ」
「わ、わかった。ちゃんと帰る」
 こくりと頷いた少女に満足したのか。何もすることなくそのままプリズム男はどこかへと消えていった。

「た、ただいま……」
「あんた! 今までどこ行ってたの!」
 家の扉を開けた少女に待っていた怒声。だが、叩かれると思った少女の予想に反して母親は少女を抱きしめた。
「心配していたんだよ。近所であんなことあったばかりだったから」
「あんなこと?」
 首をかしげる少女に母親は居間のテレビを示した。テレビにはニュースの生中継が映し出されており、近所の廃墟の前でレポーターが何か言っている。

『繰り返しますが一時間ほど前、こちらの廃墟で多数の少年少女たちが飛び降りる姿が目撃され……』
「えっ?!」
 いくつか出てくる少年少女の名前、それは先ほどまで一緒にいた友達たちと全く同じで。
 そこで初めて少女は思い出した。

 プリズム男に見つかってはいけない。見つかったとしても「ちゃんと帰る」と約束してそれを果たせばよい。
 そうでなければ――。
執筆:心音マリ
プリズム男は見ていた
 現在、『プリズム男』という都市伝説が世間を賑わせているのをご存知だろうか。
 "見た"という人もいれば、"会った"人もいるし、噂でしか聞いたことのない人だっている。
 しかしどちらにせよ、それぞれ口にすることは同じ。
 ――夜に虹の光を見つければ、それが出会った証拠。

「……なーんて書き込みを見つけてさあ」
「えー? そんなん眉唾モノっしょ。実際にいるわけないじゃん」
「そうそう、ただ怖がらせるためだけのニセモノだって」
「実際私達だって見たこと無いしねー」
「ネットはデマも多いからなー。それも似たようなもんじゃね?」
 真夜中、数名の少年少女達は各々が携帯を片手にコンビニの前でたむろする。
 大人たちの目をかいくぐり、昼間ではなく夜に集まって遊ぶことを夢見てきた、成長真っ只中の子供達。
 『自分達はもう大人』なんて言葉を振りかざし、自分が子供であることから目を背けてきた。
「っつーか今日どうするよ? 結構時間経っちゃってるけど」
「えー、どうしよっか。カラオケでオール?」
「まあこの時間帯はそれしかないよね~。6時間コース行っちゃう?」
「いっそ朝過ぎてもやっちまおうぜー」
「「さんせーい」」
「じゃ、行くかぁ~」
 大声で笑いながら少年少女達の声がコンビニの前から離れ、別の場所へと向かう。
 だが彼らは気づいていない。既に彼らは、ターゲットになっていることを……。

「ん、あれ?」
 1人の少年が何かに気づいて、ぴたりと足を止める。
 その何かの正体がわからなくて、キョロキョロと辺りを見渡して……。
 瞬間、キラリと光った僅かな虹色の光が目に突き刺さる。
「えっ、えっ?」
「どしたん?」
「いや、今虹色の――」
 光が見えた、と口にしようとした寸前。光を見た少年と、その周囲にいた少年少女達の耳に音が届けられる。
 否、それは音ではない。明確な意志を持った声。少年少女達に対しての問いかけが言葉となって、彼らの鼓膜を揺すって脳に理解を与える。
『――――』
 その時、なんて言われて、なんて答えたのかまでは……正直、彼らはもう覚えていない。
 彼らは都市伝説に出会ってしまったという恐怖で泣き叫び、プリズム男に『ちゃんと帰る』と約束を取り付けるのに必死で、会話が頭に残っていなかったから。

 後日、都市伝説のサイトに書き込みが一気に増えていた。
 プリズム男に"会った"、"会話した"、"見た"という、複数人の証言。
 どれもこれも急いで書き散らした内容で、にわかには信じがたい書き込みばかり。
 けれどどれも必死に記憶を蘇らせて書いた内容であることは、ひと目見てわかるものだった。

 そして証言者たる彼らの言葉もまた、"夜に虹色の光を見た"から始まっていた……。
幼子の述懐
 プリズム男? 都市伝説のでしょ? ――うん、もちろん知ってるよ!
 だってボク、会ったことがあるんだもん。

 えーっと、あの日はね。友だちと遊んでて、夕方になったらみんな帰っちゃって。でもボクは、もっともっと遊びたかったから……いろんな公園をぶらついてたんだ。
 道を歩いてるときだったかな。誰もいなかったはずなのに、急にプリズム男が出てきたんだ!
 ルービックキューブみたいな頭で、虹色に光ってたよ。夜だったからすごく明るく見えた。
 びっくりして固まってたら、はやく家に帰るよう言われた。
 それで、ボクはとても怖くて……言われた通り、走って家に帰ったんだ。

 でもね、一番変なのはここからなんだよ!
 お父さんもお母さんも、プリズム男の話をしたって「無事に帰ってきてくれてよかった」「帰るように言ってくれた人に感謝しなさい」ってばかりで、ぜんぜん怖がってくれないんだ!
 きっとプリズム男はせんのー能力も持ってるんだ。ね、そう思うでしょ?
執筆:

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