幕間
ドラネコさんのおはなし
ドラネコさんのおはなし
関連キャラクター:ユーフォニー
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- ある老貴婦人の、幸運の『猫』
- ドラネコ? ああ、奥様の珍妙なペットはそういう名前の生き物なのですね。
てっきりどこかの魔術師が作り出した珍生物かと思っていました。ええ、愛らしゅうございます。動き回るのが早く、なおかつ飛ぶものですから、中々に相手は大変ですが……。
愛らしいせいか、コック長が魚の切れ端やらチーズの切れ端やらををどんどん与え、メイド達が首にレースのついたリボンを飾り、あっという間に屋敷の人気者ですよ。私も彼女のお世話が出来ていることを、まあ、喜ばしく思っています。座り仕事の最中、膝の上にどんと乗り、なでろとばかりに主張してくるのは、いささか困ったものですが……猫のような生き物である以上、それはしょうがないことかと。
奥様はそれはもう猫的な外見の生き物がお嫌いであったはずなのですが、そのドラネコとやらは気があったのか、魅了されたのか、ある日遠方から来た商人のつれていたそれを譲り受けてからというもの……まあ、ありていにいって猫かわいがり。毎日新鮮な魚を与え、陽光差し込む日光浴用の温室をドラネコの寝室とし、小さな木製の城……凝ったキャットタワーですね、を職人に作らせ、執務の最中は側であそばせ……。こんな有様ですから、最近では屋敷で彼女の姿を見ない日はありません。部屋から気ままに出て、屋敷の中を自由気ままに飛び回っていますよ。
ほら、噂をすればやってきました。ふわふわとした薄紫の毛並みが夕暮れの空のようで、まあ明らかに普通の猫にはありえないのですが……。この歩く薄紫の大毛玉、ラグドールに似てはおりますが明らかにひとふた回り大きな、銀色の竜翼が生えた金目の『猫』、奥様のドラネコです。名はライラック、今日はサフラン色のリボンを首に巻かれていますね。おや、クリームを貰った後なのか、口が濡れている。またコック長が甘やかしたのでしょう。
挨拶を、ライラック。おや、お客様は気に入られた様子。すり寄られていますね。
奥様は人嫌いの孤独なお方ですが、ライラックが屋敷に来てから少し笑うようになられました。最近では、猫繋がりで友人も出来た様子。私は奥様がお若いころから使用人としてお仕えしていましたが、ようやく、屋敷に笑い声が聞こえるようになりました。
幸運の『猫』だ、と屋敷の者達はいっておりますよ。
まあ、幸運を運んできたとしても、そうでないとしても……我々は既にライラック嬢のとりこなのですけどね。 - 執筆:蔭沢 菫
- 君は何派?
- 「にゃー! にゃー!」
「わんわん! わん!」
とある町の広場でいろんな鳴き声と人だかりができている。集まっている人たちは広場の中央を気にしているようで、そちらを気にしながらあれこれ話し合っている。
そんな広場のど真ん中で首輪をつけた小柄な犬と首輪代わりにレースを結んだドラネコが何やら鳴きあっていた。
「わん! わんわん」
いくらか吠えた犬はドヤっとばかりに胸を張って見せる。態度から察するに『自分はすごいんだぞ』と主張しているようだ。
確かに犬は賢いからなぁ、なんて声が人々の中から上がって、そうだなーって同意の声も上がる。ますます犬がドヤやって顔(?)をする。
そうするとドラネコが負けるものかとばかりにパタパタ飛んで主張する。
「にゃー! にゃーにゃにゃ!」
飛んだまま決めポーズっぽい様子を見せるので『自分は飛べるんだからね!』と言ったところだろうか。
ドラネコって言うんだろ? 普通の猫もいいけど翼にも個性があってますますかわいいんだよなぁ、といった声がまた別のところから上がる。わかるわかるなんて同意の声ももちろん続続く。特にかわいいという部分に反応してパチンとドラネコはウインクを決める。目撃した何名かがかわいさに崩れ落ちた。
「にゃー!」
「そうだ! ドラネコちゃんが一番だ!」
「わん!」
「いいや! ワンちゃんが一番だ!」
「ドラネコちゃんはかわいさだけで生き抜いた来たんだ! つまり最強のかわいさってことだろ!」
「ワンちゃんは番犬にだってなれるんだ! 主人に忠実なんだぞ!」
「「「「ぐぬぬぬぬ」」」」
いつの間にかドラネコ派と犬派に分かれた聴衆たちはにらみ合いを始め、どっちが一番かを決めるプレゼンは日が落ちるまで続いたという。
なお、その最中で争いに飽きたドラネコと犬は顔を合わせて仲良くお昼寝をしていたのであった。 - 執筆:心音マリ
- 助けての声が聞こえる。或いは、ウミネコエスケープ…。
- ●海に鳴く
みゃーみゃー。
みゃーみゃー。
どこからか聞こえる鳴き声に、ユーフォニーは「おや?」と首を傾げて辺りを見回した。
海洋。
とある港町。
空は快晴。
どこまでも抜けるような青が広がる。
潮風に踊る髪を押さえて、視線を彷徨わせるユーフォニーを見て猟師らしき若い男がくっくと肩を揺らして笑う。
「気になるかい? みゃーみゃー鳴くのはウミネコさ」
「まぁ! ウミネコ! きっと可愛らしいんでしょうね!」
“ネコ”と聞いて、ユーフォニーは喜色ばむ。
8匹ものドラネコと共に過ごすほど、彼女は生粋の猫好きなのだ。
もっとも、都合8匹のドラネコたちとはすっかりはぐれてしまっているが……。
「あの、この辺りで猫を見ませんでしたか? 羽の生えた猫ちゃんたちです」
「羽の生えた猫? いやぁ、悪いな、そう言ったのは見ていない」
「そうですか。でしたら、この辺りで猫がよく集まっている場所などは無いでしょうか?」
「あぁ、それなら……」
あっちの海岸沿いに、猫の集まる区画があるよ。
そう言って、猟師の男は立ち去って行った。
ドラネコたちが急に、そして一斉に飛び立っていったのは今から十数分ほど前のことである。
喫茶店のテラス席。
午後の紅茶を楽しんでいたユーフォニーの足元には、一緒に港へ遊びに来ていた8匹のドラネコたちが寝ころんでいた。
天気もいいし、次は浜にでも行ってみましょう。
そんなことを考えていたが、数瞬後にその予定は崩れることになる。
ドラネコたちの耳は、人には聴こえぬ何かを聞きつけたのだろう。ユーフォニーの制止も聞かず、一斉にどこかへ飛び立った。
あっけに取られ、思わず固まるユーフォニーが行動に移ったのはそれから少ししてのこと。慌てて会計を終え、ドラネコたちが飛び去った方向へ疾走して……紆余曲折の末、今は海岸沿いにいた。
8匹のドラネコたちが、ひと塊になって岩と岩の間に潜んでいるのを見つける。
近づいてみれば、ドラネコたちはどうやら何かを守っているようだ。
「にゃぁお」
そのうち1匹、ミーフィアがユーフォニーを呼ぶ。
「……その子は? 猫、ちゃん……? いえ、それよりも」
怪我をしているみたいですね。
ユーフォニーは、8匹が守っていた小さな猫へ手を伸ばす。猫にしては妙にしっとりしているし、尻尾なんてまるで魚のようではないか。みれば耳の先は魚のヒレのようであるし、首元にはエラのようなものもある。
「皆は、この子が助けを呼ぶ声を聞いて飛んで来たんですね」
そう言ってユーフォニーは、奇妙な仔猫を抱き上げた。
魚の特徴を備えた仔猫……これがきっと“ウミネコ”だろう。
なお“ウミネコ”とはカモメ科カモメ属に分類される鳥類である。 - 執筆:病み月
- 頑張るあなたへの贈り物
- その日のユーフォニーは戦闘を伴う依頼を終えて、酷く疲労が溜まっていた。
少しだけ仮眠を取ろうと思い、ベッドに倒れ込む。瞬きを数える暇さえなく、彼女の意識は闇へと落ちてゆく――。
目を覚ましたのは何十分後、何時間後だったろうか。時計を確認しようと、寝返りを打って……異物が目の前に飛び込んできた。
「これは……?」
よく見ると、それはドラネコ用に加工した干し肉であった。枕元に置いてある訳を不思議に思っていると、「ニャー」という愛らしい鳴き声が聞こえた。
上体を起こし、そちらに視線を向けると、胡桃色のドラネコが床の上で丸まっていた。彼女の飼いドラネコの一匹、フリージアである。どちらかというと活発な性格のフリージアだが、今日は大人しく翼をたたみ、まっすぐにユーフォニーを見上げていた。
どこかで耳にした知識が彼女の頭をよぎる。猫は自分が捕らえた獲物を飼い主の元へ持ってくることがあるという。その理由には複数の説が存在するらしい。飼い主に褒めてもらいたいからだとか、狩りの方法を教えてあげるためだとか。
いいや、仮にそれらの知識が無かったとしても、ユーフォニーは気付いていただろう。
疲れ果てた自分を心配して、この子は食べ物を置いてくれたのだ。
「ふふ。これは私には食べられませんよ。ドラネコちゃん専用なんです」
――けれど、フーちゃんのその気持ちが、私にとっては何よりも嬉しいです。
彼女のやさしい手が、フリージアの頭を撫でる。フリージアの甘えるような鳴き声は、暖かな色彩を纏って、ユーフォニーの元へと届いた。
翌日、彼女たちのやりとりを見たエイミアが何かを学習したのか、ユーフォニーの枕元に乾電池が置いてあった。
翌々日には雑草が置いてあった。 - 執筆:梢
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