幕間
二人の話
二人の話
関連キャラクター:九十九里 孝臥
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- 待ち人現れずとも
- ●
「……孝、おい、孝」
「んん……」
すぅ、すぅ、とテーブルに突っ伏して寝息をたてる孝臥。無防備な寝顔は弦月の瞳には愛らしく見え、何よりうっかり手を出してしまいそうになるから、たまらない。
依頼で帰りが遅くなりそうだと伝えたにも関わらず限界まで粘っていたのだろう孝臥は、テーブルに二人分の晩御飯を用意していた。ギリギリまで温めていたのだろう、まだほんのり温かく、孝臥が限界まで耐えていたことを伺わせる。
(……ほんと、可愛いやつ)
可愛くて、可愛くて仕方ない。
にやける口元を抑えながら、弦月は孝臥を抱き抱えベッドへと寝かせ、残されていた料理をぺろりと平らげたのだった。 - 執筆:染
- 暑い日には、これ
- ●
「暑いなぁ……」
「暑い……」
2人揃って暑さでぐだる。
部屋を涼しくするためにエアコンをつけて、扇風機を付けて室内を冷やしていてもまだ暑い。
今年の夏も覚悟をしなければならない暑さが来るのかと思うと、今からでも気が滅入る。
そんな中で、考臥がふとあることを閃いた。
ちょっと待ってて、と一言告げてキッチンに向かった彼を弦月は見守る。
(何をするんだろう。……暑いから、飲み物だろうか)
麦茶や冷やし飴あたりでも準備してもらえれば、それはそれで助かるなと考えていた弦月。
しかしそんな彼の考えとは裏腹に、キッチンの奥ではがたんごとんと何かを下ろしたりする音が聞こえており、本当に何をしている!? と焦った弦月もキッチンへと向かった。
考臥が準備していたのはかき氷を作る機械……なのだが、年に1回しか使わないというのもあって、戸棚の奥へと片付けられているため取り出すためにえっちらおっちら、荷降ろしをしている最中だった。
「かき氷、か。少し早いが、確かにアリだな」
「だろう? ただ、この後氷蜜を買いに行かなきゃだから、先にかき氷機出しておかなきゃなと思ってさ」
「確かに……」
こんな暑い中、買い物に出たあとに探したくはないと考えた弦月は、考臥を手伝ってあげることにした。
2人揃っての共同作業はテンポよく進み、軽々と可愛らしいかき氷機を見つける。
後に2人は買い物にでかけ、それぞれの好みをよく知り尽くした氷蜜を準備して。
いつも使っている氷をかき氷機に投入して、ガリガリガリガリと削って。
こんもりと盛り上がったかき氷にはたっぷりの氷蜜をかけた。
「やっぱり、暑い日にはかき氷が1番だな」
「ああ。……ところで蜜掛け過ぎじゃないか? 考」
「ん? そう? 普通だと思うけどな」
「最後、絶対甘くなりすぎるぞ……」
完全に夏に入る前の、緩やかな1日が今日も過ぎてゆく――。 - 執筆:御影イズミ
- 君しか見えない
- 「好きです、付き合ってください」
そう告白されている想い人の姿に、孝臥は逃げる様に家に帰る。
「何をしているんだ、俺は……」
もっと自信があれば何か変わったのだろうか?出自も性別も気にしないような男だったらこんなに悩むことはなかったんだろうか?
いつもは仕舞っている負の感情が溢れて止まらない。
「孝」
優しい声で2人だけの愛称を呼ばれて、優しくて逞しい腕に捕らわれる。
「弦」
「どうかしたのか?」
「何も、何もない」
こんな醜い自分は見せられない。でも、この腕を振りほどけない。チラリと上目で弦月を見ると、いつもよりも何だか甘く見える笑顔で孝臥を見ていた。
「なあ、俺はお前が何より大事だ。俺はお前しか見てない。お前以外はどうでもいいんだよ」
まるで恋人に言うかの様に甘い言葉。それだけで気分は上向くのだから単純な脳をしている。
「そういうのは好いた者に言うべきだ」
「ん?合ってるだろ。お前の事好きだからな!」
その好きはきっと『友達』としての好きだろう。でも、友達として……なら。
「俺もお前が好きだ。大事な親友だからな」
弦月の腕が、体が強張ったような気がしたがきっと気のせいだろう。幾分かスッキリとしたので夕食を作ろうと思い立ち、弦月の腕を軽く叩くとすぐに拘束は解かれる。今日の夕食は何にしようかと考えながら台所へ向かう。
「反則だろ、くそ……」
顔を赤らめ苦々しく呟いた弦月の言葉は孝臥には届かなかった。 - 執筆:紫獄
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