PandoraPartyProject

幕間

ポルードイ銀行

関連キャラクター:レイヴン・ミスト・ポルードイ

未来への投資
 何においても金はいる。
 それは、混沌においても変わらない。

 イレギュラーズで勇者を決める時だってそうだ。レイヴンも知人に多額の金を融資していた。さて、そんな事を繰り返していたら噂が広まるのは早いもので。
『レイヴン・ミスト・ポルードイが出資をしているらしい』
 と、一般人が融資の相談に来る様になった。
 尤も殆どは商売で儲けたいのでその為の金が欲しいと言うもので、その度に黙ってドアを指さした物だが。
 今日は少し違う様だと、レイヴンは目の前に縮こまる少年を眺めた。

 歳の頃は十六、七ばかり。
 身なりは精一杯整えてきたのだろうが、所々繕われているし、靴は履き潰されている。
 決して金に恵まれているとは言えないだろう。
「それで融資希望とのことだが」
「えっ、あっ」
「そう緊張しなくても良い、ゆっくり話してみろ」
 レイヴンが優しく言葉の続きを促すと少年は絞り出す様に言った。

「絵の、学校に行きたいんです」
「絵の学校?」
 藍玉の瞳をレイヴンは丸くした。
 てっきり生活を工面する為の金がいるのだと思っていたのだが。
 少年は頷いて、ぽつりと語り出す。

「僕、絵を描くことが本当に大好きで。将来は画家になりたいんです。でも……」
 お金が無いんです、と少年は言った。
 少年は両親を早くに亡くし、生きる為に必死で働いてきたが、一日食っていくのがやっとの賃金では学校に通えるだけの金など貯まる筈も無かった。
「なるほど、それでワタシの所に来た訳だ」
「子どもが何をと思うかもしれません……! お願いします……!」
 何度も頭を下げる少年の隣に置かれたボロボロの鞄、その中の薄汚れたスケッチブックをレイヴンは指差した。
「拝見しても?」
「え? あっ、はい」
 少年から渡されたスケッチブックをレイヴンは開く。風景のスケッチや、人体の骨格。絵のアイデアらしいものが裏面までびっしりと描き込まれている。

 描くのが楽しくて堪らない。
 そんな印象を受けた。

「素晴らしい努力家だな」
「楽しくて夢中で描いてただけなんですが……」
「尚更良い。努力を努力と思わず楽しめる人間はそれだけで価値がある」
 レイヴンは書類とペンとインクを取り出した。

「ここにサインを、注意事項はよく読むんだぞ」
 とんとんと指先で署名欄を示してやると、少年の顔がぱぁっと明るくなった。
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
「頭は下げなくて良いから」
 苦笑いをしつつ、レイヴンは少年が書き終わるのを待つ。若い瞳は僅かの不安と、それを大きく上回る期待でキラキラと輝いていた。

 無事に進学出来た少年が優秀な成績を収め、著名な画家となるのはまだ少し未来(さき)の噺。
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