PandoraPartyProject

幕間

メイメイと不思議いきもの図鑑

関連キャラクター:メイメイ・ルー

風船ねずみ
 その小さなはぐれものがメイメイの前に現れたのは、あるよく晴れた昼下がりのことだった。

「プ、プ。プププ」
 小さな声を聞きつけて、メイメイは道の脇の草むらをかき分けてみた。そうしたその先にそれはいた。
 それは柔らかな毛皮に覆われたまんまるな身体から、小さな手足としっぽ、そして尖った鼻を突き出していた。大きさはピンポン玉ぐらいだろうか。
「ねずみ……かな?」
 小首をかしげたメイメイが手を近づけると、まん丸なねずみは尖った鼻をヒクヒクと動かした。
 細かなひげが手に当たってこそばゆい。
「ふふっ」
 思わず笑みを溢すと、まん丸なねずみも小さく鳴いて、そして跳ね上がった。
「プピ! プッ!」
「わっ」

 跳ね上がって、しかし、落下は緩やかに。その様はまるで、子供が遊ぶ紙風船のようだった。
 ふわりと降り立った手の平に、毛皮の感触と温かさが伝わる。紙風船にはない柔らかさだ。
「ピッ、プ。ププ!」
 メイメイのまだ知らぬギフトの効果か、はたまた害意が無いことが伝わったのか、まん丸なねずみは機嫌良さげにメイメイの手の平でコロコロ転がった。

 しばらくすると、まん丸なねずみは風に乗って風船のようにふわふわと飛んで行ってしまった。
「またね、です。風船ねずみさん」
 メイメイは小さく手を振りながら、見えなくなるまでねずみを見送った。
執筆:ゴブリン
シアエナガ(混沌産)
 吸い込まれそうな深々。
 月すらも隠れる、異常なまでに暗い、黒い夜。
 若干の眠気を引き摺りながら、如何にも残された意識。
 羊のようなふわふわに苛まれつつも、如何してかオマエは窓辺に惹かれた。
 ほうけた紫と愛らしい緑か赤、双眸が合った。
 ぴい、ぴい、ぴよよ。
 ――あれ……? シマエナガ?
 それは庭園にも度々訪れるかわいいやつ、ふわもこした外見がなんとも枕じみている。
 うと、うと、頭が転げ落ちそうな、強烈な睡魔。
 オマエは抗う術を持たず、こてんとその場で横たわるのか。
 まっしろいもふもふが側頭部にとまる。

 ――つんつんと頭蓋の奥を啄まれた気がした。
 サイケデリックな眩暈に安らぎを覚える。
執筆:にゃあら
まんまるうさぎ

 まんまるなうさぎさん。
 メイメイが最初に抱いた感想はそれだった。
 毛玉とも呼ぶべきだろうか、とてもちいさいのにふわふわ、ふかふかの毛並みが愛くるしい。
 そっと掌を差し出してみれば、恐れる様子も警戒する様子もなくひょいと飛び乗ってごろんと寝転がってくれる。かわいい。
「わ、わ……!」
 うさぎはもっと臆病な生き物だと思っていたけれど、この子達はそうでもないようだ。
 メイメイの掌に飛び乗った一匹に続くように、次から次へとうさぎが掌に積み重なって、大きな毛玉の山が出来る。もこもこふわふわの手触りが掌の上でこしょこしょと動いているのは、たまらなく愛くるしい。
「う、うさぎさん……掌は、狭いですから」
 怖がらせないようにゆっくりと地面に座り、スカートの上へとうさぎたちを乗せてあげる。とんとん、と軽い足音がスカート越しに伝わってくる。
(かわいい……)
 背中をつついてみたり、ほっぺをなでてみたり。そうされるのが嬉しいようで、やっぱりまんまるなうさぎたちはメイメイの掌からくっついて離れようとはしないのだ。
「ひとりずつ、ひとりずつ、ですよ……!」
 ぜいたくな悩みを抱えてしまったメイメイ。しばらくは掌からうさぎが離れることはなさそうだ。
執筆:
はぐれオオコアリクイ
「はぐれオオコアリクイが出たぞ!」
 大きいのか小さいのか判断に困る名称のそれは、一メートル半ほどの体を起こし、威嚇の体制を取っていた。薄黄色の体に浮かぶ水着の様な黒い模様とくりくりとした目が愛らしいが、両手にはアリの巣を壊すための立派なツメがある。逃げ惑う村人たちの一人が、オオコアリクイと見つめ合うメイメイ・ルーの手を引こうとする。
「あいつの見た目に騙されちゃいけない、『寡婦作り』というあだ名のついた立派な猛獣だ! そのツメにやられた成人男性は数多、出てきたら帰るまで見守るしかない……!!」
 早口で説明する村人。
「え、えっと、でも。オオコアリクイさま、お腹が空いている、みたい、ですよ」
「そう、あいつはいつでも腹をすかしている! 好物はバナナと蜂蜜! うちの村の特産品だ!」
「そ、それは……めっ、です!」
 メイメイの微かな声にオオコアリクイが反応する。
 籠一杯のバナナのそばで威嚇をしていたオオコアリクイは、自分よりもやや小柄な少女に一声ブルルと鳴き……。
「そ、そんな」
「まさか」
「あのオオコアリクイが」
 オオコアリクイは威嚇を止め、のそのそとメイメイの側に近寄れば、長く細い舌で、彼女の顔をぺろりとなめる。
 そこには警戒心はない。オオコアリクイからの微かな興味と、親愛の情があった。
執筆:蔭沢 菫
悪戯にゃんこ
「ほわぁ……!?」
 街角を歩いているメイメイの身体目掛けてそれは飛び込んできた。反射的に抱きとめたメイメイの腕の中にいたのは小柄な一匹の猫。白地に黒の斑点模様、黄色い瞳でじーっとメイメイを見上げている。
「ねこ、さん?」
 問いかけに、そうだと言わんばかりに猫耳がぱたりと揺れた。急になんで飛び込んできたのか、おろおろしていると……。
「こらー! この悪戯猫め!」
 大声を上げながらバタバタと駆け寄ってくる男性。服装からしてどこかのお店の人だろう。メイメイの腕の中で猫が身を固くする。
「あ、あの、ねこさん、どうしたんですか?」
「ああ、お嬢ちゃんが捕まえてくれたのか。何かされなかったか?」
 メイメイの疑問に彼女の心配をしながら彼は答えてくれた。
 どうやらメイメイの腕の中にいる猫は近所では悪戯猫として有名らしい。お店に忍び込んでは商品をめちゃくちゃにしたり食べ物をあさったり、大変困りものだそう。
 罪状を上げられるたびに硬くなっていき、聞きたくないとばかりに耳を寝かせた猫を見てメイメイはこう言ってみた。
「ねこさん、あの、わるいこと、だめ、ですよ?」
 だってこんなにふわふわでかわいいのだから。そんな気持ちを知ってから知らずか、猫はぴょいと腕から降りると男性に向けてにゃーと鳴いた。
執筆:心音マリ
もっちりアザラシ
●ぽてーん
 もっちりアザラシはもちもちだ。
 触ればふにふにもちもち。つんっとつつけば、ぽよーんっとした弾力。
(お団子……?)
 見た目も白いから、もうそれにしか見えなくなってしまった。
 最初は触ってもいいのかな? と指を伸ばしたが、もちもちつついてもアザラシは(´-ω-`)な顔でお腹や顔をぽよぽよさせて転がっている。これでは肉食獣に遭遇したら危ないのではないか……とメイメイはしゃがみこんで見守っていたのだ。
 そもそも、もっちりアザラシの生息地は海の中だ。海の中では陸地の動きとは比べ物にならないくらい素早く動き、魚たちを優雅にハントして生きている。
 なのに何故か、落ちていた。
 そう、落ちていたのである。
 浜辺の波打ち際から少し離れた、草むらの中に。
 勿論、触っても大丈夫なのかを確認してからすぐ、海に戻せないかと試した。
 しかし出来なかったのだ。重たくて。
 もっちりアザラシはもっちり重量級だったのだ。
「どう、しましょう……」
 海の生き物であるアザラシが乾いていいのだろうか。
 今日は天気がよくて、背中がじりじりと乾燥していっているように見える。
「あっ」
 突然、アザラシがぽよんと跳ねた。
 メイメイの頭上を飛び越えて、離れた海の水面がぽちゃんと音を立てた。
 アザラシは消えていた。
 お餅の焼けるような、いい匂いだけを残して。
執筆:壱花
やわらかないきもの
(……?)
 メイメイは、ころんと転がる――毛虫に似た、だが動物のものだと見てすぐにわかる、不可思議な長毛の――生物を見て首を傾げた。大きさは手のひらに収まるくらいだろうか。その小さな生き物は、花壇に植えられた、赤いチューリップの根元でちんまりとその身を丸くしていた。白い体毛は、陽光を受けてつやつやしている。
 虫……には、やはり見えない。頭の中で疑問符を浮かべながら、指を伸ばし、やはり引っ込める。それをしばらくの間繰り返しつつ、じっと見ていると、不意に、生き物がゆっくりと頭――おそらく――を上げた。
「わ」
 驚きに声を上げるのと殆ど同時、にゅ、と、白い何かが何本か伸びてきて、メイメイの頭頂部に触れた。そのまま彼女の頭を撫でるように動き始めた何か、その感触に、何故だかひどく、心が穏やかになってくる。なんだかとても、温かい。意識が遠のく。ゆるやかな春の午後、あるいは夏の湖を撫でる、柔らかな風……そういったものを思い出させる優しい感覚に、彼女は静かに身を委ねる。危険なものだとは思えなかったから。
 ゆりかごで眠るような時間がほんの少しだけ続いて――メイメイは、ふと、いつの間にか閉じていた目を開いた。なんだかとても、調子がいい。あの生き物のおかげだろうか。
「あ、あの――」
 ありがとう、と言おうとしたメイメイの前からは、既に生き物は消えていた。
執筆:桐谷羊治
おおきなことり?
「カワイイネ! カワイイネ!」
「……え?」
 突然声を掛けられたメイメイは、困惑気味に足を止めた。きょろきょろと辺りを見回すも、周囲には誰もいない――?
 と思いきや、横の茂みがごそごそ動き、巨大な鳥が現れた。大型犬にも及ぶサイズの鳥は、せわしなく頭を振り、葉っぱを払い落とす。檸檬色の羽はよく手入れされていて、つややかに輝いていた。触ったらふかふかしてそうだ。
 鳥はメイメイを見つめる。返事を期待しているようだった。
「あ、ありがとうございます?」
 ひとまず、褒められたからにはお礼を言うことにした。
 一人と一羽の間に、奇妙な沈黙が落ちる。
「ダイスキダヨ! ダイスキダヨ!」
「……ありがとう、ございます」
「タダイマ!」
「お、おかえりなさい。……じゃ、なくて……!」
 勢いに呑まれかけたものの、この鳥が巨大なインコであるとメイメイは気付きつつあった。しかも、相当飼い主に可愛がられているようだ。
 散歩は一時中断。大きくなっても人懐っこいままのインコを連れて、交番所へ向かう。飼い主も探し回っていたようで、幸いすぐに再会できた。
「本当にありがとうございます。ほら、お前も礼を言いなさい。"ありがとう"って」
「アリガトウゴザイマス!」
 インコが繰り返した言葉は、飼い主よりもメイメイを真似たものに近くて、彼女は穏やかな苦笑を浮かべた。
執筆:

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