PandoraPartyProject

幕間

シェフの気まぐれコース

関連キャラクター:小金井・正純

泡沫
●淡夢
 春はあけぼの。
 不器用で、それから優しい貴方は桜の枝を折った遮那を叱っておいででしたね。
 そのお顔が厳しくなりすぎないように、甘やかになりすぎないように四苦八苦をして。
 花を愛でる風流と作法を教えてくれました。

 夏は夜。
 満天の星に月。河原に瞬くの無数の蛍。
「まるでそなたのように美しいな」なんて。
 意地の悪い冗談だったのでしょう? それとも私の顔色に気付いたでしょうか?

 秋は夕暮れ。
 茜色の山で紅葉を狩りました。
 はらりと落ちた紅葉を手に取って、難しい顔をして。
 お詠みになられた歌を――貴方は覚えておいででしょうか?

 冬はつとめて。
 白化粧を纏ったお屋敷は年の瀬に慌ただしくて。
 貴方様は掃除に追われる家人に所在なくお部屋にお篭りになられていましたね。
 何でもお上手な貴方様がそんな風なのは何だか何処か可笑しくて。
 笑ったら、少しむくれておいででした。

 夢を。
 夢を見たのです。
 四季折々の夢を。
 誰か誰かの過ごした数度の季節を、巡る時間の一片を。
 どうして、私が見たのかは分からないけれど。
 目覚めれば全ての輪郭がぼやけてしまうような、泡沫に過ぎなかったけれど。
 私は確かに、その日夢を見たのです――
執筆:YAMIDEITEI
喫煙ずみ
●深夜二時
 夏の匂いが近付いてくる六月でも真夜中になると少し冷える。
 寝れない私は煙草を吸いにベランダに出て、当たり前の事に気が付いた。
 部屋の中で吸って敷金を取られるのも面倒くさいから繰り返す日課だけれど、たまに考える。
(こんなトコに何時まで居るんでしょうね……)
 不眠の原因――目下の『悩み』は酷い寝相でやかましいいびきを立てている。
 日がな一日働きもせず、たまに仕事が見つかっても二ヶ月も続いた例がない。
 何時も口癖のように繰り返すのは「見ててな。ワイはBIGになるから!」。
 貸した『小銭』の量は数えたくない位で……時折、自分は彼のお母さんか何かなのかと嘆きたくもなる。
「はぁ……」
 燻る紫煙の行く先に目を細め、私は無意識の内に深い溜息を吐き出していた。
 変わらない日常。何も生み出さない日々。倦怠感。全てが億劫だった。
「……死なねーかな、あの男」
 ポツリと口に出してから、その先の事を考えた。
 私は自由になるのだろう。世界はずっと広がって、ひょっとしたら素敵な誰かに出会うのかも知れない。
「……」
 暫くそんな風に夢想して私は頭を横に振った。
「……駄目だ、本気で思ってない」
 六月とはいえ、この時間には少し冷える。
 様子を見に行かないと。だらしない彼はお腹を出して寝ているに違いないから。

参考:https://rev1.reversion.jp/sketchbook/illust/745
執筆:YAMIDEITEI

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