PandoraPartyProject

幕間

みんなの話:ちょっとした幕間

関連キャラクター:武器商人

ミョールの独り言~ほっぺたぷくー~
 だいたいね、ベネラーってば抜けてるのよ。もっと自分が特別な存在になったってこと自覚しなさいよね。

 純種にはね、普通、体温ってものがあるの。だけど、あんたの手、粘土みたいにひんやりしてるじゃないの。「水仕事をしたからだよ」なんて言って笑うけれど、あたしは知ってる。前はもっと、あったかかった。覚えてる? ねえ、いっしょに買い物当番に行ったときのこと。連日の大雨で舗装されてない道はどろどろのぐちゃぐちゃ。そこらじゅう水たまりだらけ。あたしがそれを飛び越して行こうとしていたら「あぶないよ」って手をつないでくれたね。あのときのぬくもり、忘れてないんだから。
 あの魔種がきてからなにもかも変わってしまった。いちばん変わったのはあんたね、ベネラー。イレギュラーズのみんなと友達になる前みたいに引っ込み思案になっちゃってさ。ひとりででくのぼうみたいにぐるぐる同じこと考え込んじゃってさ。もっと頼ってよね。あたしは、年下であんたからすると妹みたいなもんかもしれないけど、あたしはそうは思ってないから。あんたにしかできないことがあるように、あたしにしかできないこともきっとあるはず。昔のあんたなんか知らない。なーんにも知らない。だけどそれでいいじゃない。過去なんかどうでもいいわ、だいじなのは未来よ。あたしたちはまだまだ、生きていかなくちゃいけないんだから。それを邪魔するやつは、魔種だろうとぶっとばしてやるわ。
 
 あたしは、あたしは、あんたが何者だろうとかまわないから。遠くに行かないでね、ベネラー。
ミョールとリリコ~水着と鏡~
 鼻歌を歌いながらリリコが姿見の前でくるりくるりと回っている。頬は喜びで染まり、回る度に膨らむパレオが気分を浮き立たせる。
「リリコー、入るわよー?」
 ミョールがふすまを叩いた。いらえを返すと、彼女は入ってくるなり大きな声を出した。
「すてきじゃないリリコ! モデルみたいよ!」
「……銀の月のおかげよ。私は別に」
「似合ってるって言ってるんだから素直に受け取りなさいよね」
「……そういうミョールも、似合ってる」
 ミョールは桜紋様で染まった着物と袴を着込んでいる。子供用の丈の短い着物だが大胆な染めが華やかで愛らしい。
「ま、まあ? アイツが選んだものではずれはないし?」
「アイツ呼ばわりはしないで、私の銀の月を」
 腕を組んであさってを向いたミョールをリリコは軽くにらんだ。
「そうそう、忘れるところだった、あんたの銀の月から贈り物」
 ミョールは袱紗に入った丸い手鏡を二枚取り出した。
「ひとつはあたしの、ひとつはリリコの」
「……これは?」
「えへへー、帰り道におねだりして買ってもらっちゃったの。あんまりきれいだったから、リリコの分も。みんなにはないしょよ?」
「……ミョールったら」
 呆れ顔でそれを受け取ったリリコは、小さく微笑んだ。
「護りの魔法がかかってる」
「へ、そうなの?」
「うん……」
 リリコは手鏡を抱きしめた。ぬくもりが伝わってくるかのようだった。
「……いつも見守ってくれてありがとう、私の銀の月」
「リリコは武器商人にぞっこんね」
「……そうね、小鳥やラスといっしょにいるところを見ると、もっと胸が暖かくなるの。これからも、仲良くしていきたいわ」
「へえー、あたしは、あたしだけ見ていて欲しいって思っちゃうケド」
「……思い描いた幸せがそのままの姿で存在するのなら、大切にしなくてはと思うけれど」
「そう? リリコはもうちょっと自分自身が幸せになることを考えたほうがよくない?」
「……そういうのは、いいわ」
 リリコは小さく首を振った。生き残ってしまったあの時から、リリコは自分の価値を見いだせない。それでもいい。愛しい存在が居て、愛することを思い出せたのだ。それが叶わないとしても、充分な対価を、リリコはもらっている。手鏡の中に写る自分の瞳は、満足そうだった。
「……海に行きたいわね」
「あら珍しい。リリコが何かねだるなんて」
「……だってこんなにすてきな水着を贈ってもらったのだもの」
 微笑みがさんざめいた。
ラスヴェートの独り言~おべんきょうとおべんとう~
 このあいだのきゅうしょくがない日のことでした。お父さんがおべんとうを作ってくれました。
 あけてみてびっくりしました。僕のすきなアプフェルのすがたがおべんとうばこをキャンバスみたいにしてかいてあったのです。となりのミエルちゃんたちが「すごいね」ってほめてくれて僕もむねがいっぱいになりました。
 だからくずしてしまうのはすごくもったいなかったけど、おなかがすいていたからたべてみました。さいしょはそうっと、ひとくちだけ。そしたらとってもとってもおいしかったのです。おもわずぱくぱくいっしょうけんめいたべてしまって、あっというまになくなってしまいました。あんなすてきなおべんとうをつくるのはとってもたいへんだとおもうけれど、たまにはおべんとうのひがあってもいいなっておもいました。
 僕のおうちはちょっとかわっていて、パパさんとお父さんと三人ぐらしです。パパさんとお父さんはとってもなかよしで、僕も家族にしてもらえてとってもうれしいです。僕はあんまりいいところの出ではないけれど、こうしてあさひるばんとごはんをたべさせてもらって、とってもとってもやさしくしてもらって、おべんきょうまでさせてもらって、いつかふたりにおんがえししたいなっておもっています。
 パパさんはおんがくかで、お父さんはサヨナキドリのいちばんえらい人です。そんなふたりにどうやっておんがえしをしたらいいのか、すごくすごくなやんでいます。でもいつかぜったいに、とってもえらいひとになって、パパさんとお父さんによろこんでもらうんだってきめています。えらいひとになるためにはおべんきょうをがんばらないといけないので、おべんきょうをもっともっとがんばろうとおもいます。

「だってさ。フフ、授業参観であれを読み上げられた我(アタシ)の気分にもなってごらんよ」
「俺もいけばよかったな……。その時の紫月を見たかった…。」
「勘弁しておくれよ。それにしても『えらいひと』だって。何になるつもりだろうねぇ」
「まだ…決まってないんだろうな。だけど…どんな夢だろうと…精一杯応援しようよ……。」
「うん、そうだね。最初は我(アタシ)たちが子どもを持つなんて夢にも思わなかったけれど、今となってはいないほうが想像つかない」
「……だな。ふふふ……ラス…よく寝てる……。いい夢をたっぷり見るんだよ…。」
ラスヴェートのおしゃべり~帰り道~
 ヨタカと武器商人、一羽とヒトリと手をつないで、てくてく歩く帰り道。ラスヴェートは隠しもせず上機嫌だった。
(かわいらしいことだねぇ。連れ出して正解だった)
(…やっぱり外へ出ると刺激になるんだろうね…。)
 番たちは視線を交わしてほほえみ合う。
「あのねあのね、お父さんパパさん。今日はね、すごくすごく楽しかったよ。味見させてもらったピザは美味しかったし、お蕎麦も美味しかったし、なによりお父さんとパパさんがね、ふたりで力を合わせてがんばるところが見れてね、なんだかすごくうれしかったんだ」
 薔薇色に頬を染め、ラスヴェートはおしゃべりする。喜色のにじんだ声は、澄んだ高い鳥の鳴き声のよう。耳へ心地よく、染み通っていく。
「それでね、孤児院の子どもたちとも仲良くなれてね。うれしかったな。リリコお姉ちゃんも元気そうで良かった。それから暦さんたちもすごく良くしてくれてね。それでね、あのね」
 ラスヴェートが言葉を区切る。
「なんだいラスヴェート」
「…どうしたんだ、ラス…。」
 あのねとラスヴェートは続けた。
「今日はね、たくさんたくさんパパさんとお父さんとおしゃべりしたいから、川の字? になって、寝てみたいな。仲の良い親子は川の字? になるんだって。暦さんたちが言ってた」
「…だって、紫月…。」
「それではリクエストにおこたえして、キングサイズのベッドを用意しよう。ラス、あの贈ったばかりのぬいぐるみを持って今夜我(アタシ)と小鳥の部屋までおいで」
「うんっ!」
 空にはぽっかりお月様。楽しい夜はまだこれから。

パン屋とそのモノとアーノルドのお話~ちょっとした~
「なぁ、アーノルド」
 その青年はアーノルドを見つめた。
「……真面目な話、お金に困ってる認識で間違いはないよな? 腹すかせた部下さんもいるんだろ?」
 だから、と、青年はごくりと喉を鳴らした。
「うちで働かない? 雇うよ? あ、もししっかり働いてくれるなら、焼き立てパンの賄いが付いてくるし、売れ残りは持って帰ってもいい。連続ログインならぬ連勤ボーナスだな。ちゃんと休みのシフトは入れるし、福利厚生はバッチシだぞ」
 ね、師匠? と、青年は武器商人を振り返った。しかたないコだねぇといわんばかりのソレはゆっくりと歌うように口を開いた。
「うちのギルドは役割を細分化しているから、店舗経営課以外でも働ける。シフトの自由度は勿論のこと、完全週休二日制だ。有給、各種手当、社宅、なんでもあり。その気になれば教育事業部の研修で手に職つけたりキャリアアップもできる」
 そのモノは哀れなものを見る目でアーノルドを見た。
「サヨナキドリは歓迎するよ、『ソレをキミが望むなら』」
 アーノルドはかすかに笑った。
「そこのソレは面白がってるだけだろう」
「あれ、ばれちゃったかい?」
「わかるよ。僕もけっこう『目』がいいんだよね」
 肩をそびやかすアーノルドへ、青年が一歩近寄る。
「どうなんだ、アーノルド」
 しろがねの瞳の遂行者は、無言のまま人差し指を青年の唇へあてた。
「わっ、なにすんだよ」
「ふふっ、くっくっく」
 おかしくてたまらないと言いたげに笑っていたアーノルドが目を伏せた。
「君らには、もっと早くに出会いたかったよ」
 だけど、あのとき僕を救ってくれたのは、神だったんだよな。
「こうして君らと遊ぶのも、最後かもしれないと思うと、すこしさみしいね」
 ちらほらと小雪が舞う。白い息を吐きながら、冷気の向こうへ遂行者は消えていった。
「師匠」
「なんだい」
「俺、あいつのことそんなに悪いやつじゃないように思うんですが……」
 今度は武器商人が青年の頬をつついた。
「そう考えるのは教え子の勝手だけれど、豊穣の村を焼いたのもやっぱり彼だよ」
 そうですねとしゅんとした青年を抱き寄せ、武器商人はささやく。
「教え子のその優しさが、命取りにならないことを祈ってるよ」
双子の話~『ユリック』~
 夜半に豊穣を訪れたそのモノは、月を見ていた背中へ声をかけた。
「こんばんは『ダリューン』」
 その少年はゆっくりと武器商人を振り返った。
「にーちゃん、どこで知ったんだよ、その名前」
「風のうわさで聞いただけだよ。君と同じ名前のコが居たと、そのコが兄をそう呼んだと」
 誰の名前なんだろうねと、武器商人はなぞなぞでもしているかのように首を傾げてみせる。ユリックと名乗る少年は、また月を見上げた。
「……昔、まあまあ名の知れたキャラバンがあった。けど賊に襲われて壊滅した。生き残った双子が、頼りにしたのは幻想の孤児院。だけどそこへたどり着くには、水も食料も路銀も足りなさすぎたし、弟は足を怪我していて歩ける状態じゃなかった。兄貴は弟を背負って毎日必死で歩いた。けどそんな無茶が長続きするはずもなくて……」
 あいつは首をくくった。俺を生かすために。煉瓦みたいに硬いパンと、一掴みの塩、ぬるい水のために犠牲になった。あいつが首をくくったその下で、俺は夢中でパンへかぶりついてたよ。
「俺なんかよりずっと生きる価値があったのに……」
「だからキミは弟の名を継いだんだね」
「にーちゃん、そいつ今どうなってる?」
「死んだよ」
 そうかと少年は笑った。
「危うく俺がぶっ殺しに行くとこだったわ。手間が省けてよかった」

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