幕間
ウルトラ・ロマンティック
ウルトラ・ロマンティック
関連キャラクター:伏見 行人
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- プリンとジェラートと君
- 「行人君、私に何か言いたいことは無いかい?」
「うん?」
アントワーヌの部屋でソファーに腰かけていた行人にアントワーヌが笑いかける。
弧を描く口元は悪戯をしてやろうという子猫の様だ。
行人には目の前の王子様が何を求めているのか大体わかる。
大方「好きだ」と言ってほしいのだろう。
かっこつけたがりのくせに、この王子様は自分から愛の言葉を引き出したくてたまらないのだ。
それを彼女に言ったところで「お姫様の愛は何時だって受けたいじゃないか」なんて言うのだろうが。
「そうだなぁ、冷蔵庫に入ってた君のプリンを食べてしまったことかな?」
「嘘だろ!?」
慌てて冷蔵庫の扉を開けて中身を空ける彼女の純粋さに少し心配になる。
悪い男に引っ掛からないと良いのだが、いやもう手遅れか。
中身があることに胸を撫でおろしたと同時に、揶揄われたと気が付いたアントワーヌはむっすり膨れている。
アントワーヌが拗ねた時によくやる顔だ。行人はこの可愛らしい顔が気に入っていた。
「はは、すまないね。君の可愛い顔が見たくてつい、ね?」
「行人くん!」
ますます膨れた頬をつつくと、ぷいとそっぽを向く。しかしやがて笑ってその手に口づけてきた。
僅かばかり目を開いた行人をアントワーヌが下から覗き込む。悪戯に成功した子どもの様な顔だった。
「ふふ、今は待つよ。私のお姫様は存外シャイなようだから」
「……参ったね」
『私はお姫様より王子様になりたいから』とスカートも一つ履かないのに、こうして女性らしい魅力を使うのは卑怯ではないか。
困った様に笑い、指通りの良い金髪を撫でる。
気持ちよさそうに目を細めるアントワーヌだったが、あっと思い出したように問いかけた。
「ところで行人君、私のジェラート知らないかな。お風呂入る前はあったはずなんだけど」
「えっ」
「行人君?」
すっかり斜めになったアントワーヌの機嫌を直す為、行人はジェラートを買いに行く羽目になった。
- 執筆:白
- 爪先から
- ●
「……行人くん、それは?」
「これ? ネイルだよ、ネイル」
「どうしてまたネイルをするんだい?」
男らしく骨張った指先が水色に染まっている。
「貰い物でね。どうせなら使ってみるのもいいかなって。どう?」
ふー、ふー、と、効くかもわからないのに爪を乾かそうと奮闘する姿は可愛らしく。
「これ……私の瞳の色じゃないかい?」
指先を彩るネイルの瓶をつまみキスを落とす。目の前の彼が意識してくれたらいいのに、なんて願いながら。
「ああ……そういえばそうだね。似合う?」
きっとまだ乾ききっていないのに、己の指先を唇に触れさせて。しぃ、と笑って見せた行人は、蠱惑的に微笑んだ。
「……っ、当然だろう? 君は私のお姫様なんだから!」
必死に、と形容するのは正しくはない。彼女のギフトは正常に働いているからだ。
象られた美しい笑みはまさしく王子様のそれ。背中に隠れているであろう小さな握り拳(ほんしん)を思い、行人は満足げに微笑んだのだった。 - 執筆:染
- 戚容
- ふたり分の『グズ、グズ……』と咽び泣き鼻を啜る音が部屋を満たしている。
――→時を遡る事、数刻――→
「行人くん、此れは?」
「うん、俺が教えてる生徒がね。『先生も戀とかした方が好いって! なんか朴念仁っぽいし!』って押し付けて来てね」
「朴念仁……」
アントワーヌはプ、と堪え切れなかった様に笑い出し、『そうだね、私のお姫様の解釈は概ね其れで合ってると思うよ』と。
「そんなに愛想が無いかい?」
「いいや、判らず屋って事さ。其れにしても漫画かあ」
――→そうして、捲り始めたが最後――→
「グズッ、何て健気なんだ! 難病を患い想い続けながらも別れを告げるだなんて! 次の巻は読み終わっているかな?!」
「グズ……ネタバレになるけど良い? 凄い尊い展開」
「もうティッシュが足りないじゃないか!」
こんな調子が、希望ヶ浜の大手ショッピングモールのショッパーに入っていた全24巻を読み終わるまで続いたのだ。
「嗚呼、そうだ。けれど『判ってはいるさ』」
「むう」
本日の勝敗、行人の勝ち。 - 執筆:しらね葵
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