イラスト詳細
ある雪の日、領地にて
ある雪の日、領地にて
イラストSS
領地にある一室で書類仕事。その最中ふと、ユイユは顔を上げた。
いつの間にか窓の外では雪が降っている。その奥ではあちらこちらで家に明かりがついていくところだった。
「もうそんな時間かぁ」
道理で手元が少し暗いと思ったわけだ。明るい家の中は暖かくてきっとご飯の用意が進んでいるのだろう。
そう、温かいご飯。ユイユが望んでいたもの。それが彼の領地にはあるのだろう。
窓に手を伸ばす。ユイユのいる部屋は暖かく、雪にこの手は届かない。でもこの向こうがとても寒くて嬉しくない思い出と共にあるのを知っている。
不思議なことだ。昔はこんなに雪の降る寒い日は苦手だったはずなのに、気が付けばそんな気持ちはどこかに行ってしまっている。
イレギュラーズになるまでは、こうやって領地を得るまでは、ずっと兄様や姉様、喪ってしまった兄弟のことばかり考えていたはずなのに。
部屋が暖かいから? いいや、きっと違うのだろう。ユイユは得るものが多かったのだ。彼に自覚があるかどうかはまた別として。
だから窓の外を眺めていて頭を過ぎるのは雪かきの手足りるかどうか、備蓄や暖の心配、タヌキたちが雪に埋もれてないかといった領地への気配りであるのだ。
「ねぇ、兄様、姉様……」
兄弟を想い呟く声は、誰にも聞こえることなく静かに消えた。
※SS担当:心音マリ