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毀
毀
イラストSS
観音打・至東は斬った。
男を斬った。女を斬った。ありとあらゆるヒトを斬った。或いは人以外ですら斬った。
斬る時に迷いはない。迷いは太刀筋を迷わせて、相手に斬る隙を与えてしまう。斬られる前に斬るには、迷いなど捨て去らねばならない。
だから至東はいつだって、迷いとほんの少しばかりの後悔を、斬った相手の亡骸からほんの少しばかり拾うのだ。
其の日はたまたま、拾い集めた迷いと後悔が溢れだした日だった。
アドラステイアで出会い、今は家族として一緒にいる少年、ケリーの腰に何も言わず腕を回し、みぞおちに顔をうずめ。
「ケリー君」
「うん」
「少し、借りますね」
そうとだけ言うと、至東の細い肩が震え始める。溢れだした迷いと後悔は大粒の涙となって、そうして、恥も何もなく至東は声を上げて泣き始めた。
ケリーはうっすら判っていた。この人は望んで戦っている訳ではないのかもしれないと。貰った衣服に皴が寄る、けれど全然構わなかった。この妹のような人が其れで明日を生きられるなら、昨日までを笑っていられるなら、衣服なんてどうなったって構わない。
だって『貰い物』だから。至東から貰ったものだから、至東が好きにすればいい。
幼子のように泣きじゃくる人の背をそっと撫でる。数え切れぬほどのモノを斬ってきたのだろうに、其の背中は悲しい程にか弱かった。
※SS担当:奇古譚