イラストSS

雪の舞い散る月夜。彼女の、マリエッタの姿だけが街になかった。
　追いかけて、追いかけて。箒で飛ぶことも忘れ、いつしか彼女に追いついた。そう思っていたのに。
（なんで……なんで、届かないのよ！）
　湖畔の上を飛んでいるマリエッタは動いていないはずなのに。手を差し出されているはずなのに、伸ばしているはずの手だけが届かない。
　高くて、遠くて。届かない。まるで星みたいだ。
　星に焦がれた愚かな鳥の話。届かないのに、それでもまだ、星を目指す。
　箒よりも、慣れない魔力翼で飛ぶ方が早かった。そうでなければ追いかけることすらもできなかっただろうと、そう予感めいた直感が告げている。
「マリエッタ！！」
　手を伸ばしている。お互いに。それなのに届かない。
　暗がりに浮かんだマリエッタ。その背中を三日月が照らす。まぶしい。まぶしくて、届かない。どうして。こんなにも手を伸ばしているのに。
「……セレナ」
　追いかけてきた彼女の顔が、燦然と輝く月の光に照らされて見える。彼女はいつもそうだった。当のマリエッタよりも必死で、真剣で。
　だからどうしてか、おかしくなってしまう。
「……私は、」
　いつだって。その手を取れるような存在でありたいと、思っていたのに。

※SS担当：染