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物部 支佐手の夜倉によるおまけイラスト
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宮様、宮様。
お聞きになられましたか、宮様。
冬の、争いが起こらぬ鎮やかなる日。それを大陸では『しゃいねん・なはと』と呼ぶのだとか。甘味を食べ、いろんな願いを捧げるのだそうです。
だから宮様、その日にわしは宮様に『けぇき』なるものを献上いたします。まかせといてください!
……なんて大見得を切ったはいいが。現在、支佐手は主人と仰ぐ宮様の邸宅の一室でガチガチに緊張していた。何せこの手は武芸一辺倒、甘味を作るには武骨が過ぎる。どうにか完成はさせたものの、ああでもない、こうでもないと試行錯誤しているうちに明け方になってしまっていた。その甲斐あって仕上がりには自信があったものの、支佐手の心配は尽きることはない。
(お口にあーとええのだが)
神使である特権である利用して既製品を手に入れる選択肢もあったが……支佐手はどうしても自分の手で作ったものを主人へと献上したかった。幼い頃の慕情というものは、思ったよりも引きずるものらしい。
(なんとなぁ女々くさーの……)
そんなことをぼんやりと考えているうちに──いつしか支佐手の頭はこくり、こくりと船を漕いでしまっていた。
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「すまぬ支佐手、待たせ……おや」
執務にキリをつけて支佐手を待たせている部屋へ入室した彼女は、倒れ込む様に眠っている支佐手と彼の傍に置かれた箱を見ると全てを察して微笑みを浮かべる。彼を起こさぬ様に静かに支佐手へ近寄ると、その頭を撫でた。
「まったく。子供の頃から変わらないな、お前は。一つ思い定めると他のことが見えなくなる」
その眼差しは慈愛に満ちていて、どこまでも優しいものだった。
「ありがとう、目が覚めたら一緒に食べよう」
暫く後に目が覚めた支佐手が飛び起きて主人へと平伏することになるのも、恐縮しながら一緒にケーキを食べるのも、また別のお話。
※SS担当:和了